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コロナ太りかと思ってたら、癌だった話。④

腹水穿刺。

PET-CTを終え、次の日は腹水穿刺の為に日帰り入院をした。

入院なんて、前回がいつだったか忘れるくらい前の事。
日帰りなら別に何も用意しなくて良いじゃん?と余裕で構えていたら、一応一通りは用意するよう言われてしまった。
普段はTシャツに短パンだから、流石に不味い。
仕方なく、ルームウェアみたいなパジャマやタオルなどを慌てて準備する。

この時はまだ自分の身体が大変な事になってるとは露程も思ってないので、次に使うのはいつになるかわからない物を用意する事態にまた無駄な出費かよ……と心の中で愚痴っていた。

病室へ案内され着替えてからお登りさんのようにキョロキョロそわそわしていると、主治医のK先生以下 他の先生が何人かと謎の機械、そしてわらわらと若い研修医(後で分かった)が入って来て、何これ大ごと?な雰囲気。
初診と同じ軽いノリで検査の段取りを説明される。
お腹の横から針を入れ、謎の機械の画面で位置を確認しながら腹膜に刺して腹水を抜きそれを検査すると言う、聞くだけだと簡単な検査だ。
「部分麻酔もしますから、チクッとするくらいですよー」と言う。
これならすぐ終わりそうだ。
やっぱり入院までしなくても良かったんじゃ無いかと、まだ考えてしまうケチな自分。


それにしても何故こんなにたくさん人が居るんだ。
こんな衆人環視の中で腹を出すのか。
これが大学病院と言うものなのか。
知らんけど。

仕方なく上着を捲り上げる。
針を刺すのは別の先生がやるようだ。

K先生の「それじゃ始めますか」と言う声と共に麻酔を打たれ、針が刺される。
痛みは全く無い。
麻酔万歳。
K先生は腕を組んで見守り態勢。
何だ楽勝じゃんと思った瞬間、物凄い激痛が脇腹を襲った。
「ふぐぁぁぁぁ!!!」と脚が勝手に暴れ出す。
それと同時に「脚押さえて」と声が聞こえ、ヒヨコ達と看護師さん数人で脚と腕を押さえ付けられた。

麻酔は?
麻酔はどうなってるんだ。
そこで気付いた。
麻酔は表面しかされて無かった事に。

「デリケートな場所だから暴れないでねー。力抜いてねー」と横で軽く言うK先生。
いや無理でしょこれ。
チクッとどころか痛いなんてもんじゃ無い。

モニターを見ながら針を進めているようだが、その度に激痛。早く終わってくれ!と心の中で叫んでいると、「あれ?うーん……」といつの間にか針を持っていたK先生が呟く。
いつ代わったんだ。

そして「ごめん、もう一回やり直すね」と非情な言葉を口にし、針を抜かれてしまった。
「にあんさん、肋骨と骨盤の間が狭いんだよね。ちょっと難しいかも。もう1回やらせてね」

も う 1 回 。

先生が悪魔に見えた。
おのれ、呪いのリストに入れてやる。

そして再トライ。
痛いのが分かりきってるので、身体が硬直してしまう。
2回目はさすがにK先生自ら針を手にしていた。

今度も痛みに耐えていると、『ブツッ』と言う感覚と今までのを軽く超える超・超・超!!ぶっ飛んだ激痛が来た。
腹膜に辿り着いた模様。
ここまで来るともう、声も出ない。
視界が一気に滲んできて、痛みでも涙が出るんだとこの歳になって初めて学んだ。

抜いた腹水を見たK先生は「うーん……怪しい」と呟く。
え、腹水見ただけで分かるの?怪しいって事は、え?アレかい?と問う気力はもう無い。
ぎっちり瞑った目元にはアイウォッシュ出来るんじゃ無いかと思えるくらいに、涙が溜まっておりました。

検査が終わり御一行がわらわらと病室を出て行くと、看護師さんが「腹水抜くとふらつきが出る人もいるから、休息してから帰って貰う流れですー」と言う。
予想を超えた検査過程に、硬直しっ放しだった身体はぐったり。
いつの間にか冷や汗もかいている。

あー、これは日帰り入院必要だったわと心から納得した。
外来でこれやられたら、動けない間ベッドを長時間占拠する様になっていたかも知れない。

これだけはもう!本気で!!2度とやりたくない。

やはり状況報告は必要か。

当初、家族には伏せたまま結果を聞きに行くつもりだったが、何だか大事になりそうな予感がする。
流石にこれは言っておいた方が良いなと思い、実家へ連絡を入れる事にした。
内容が内容だけに、人目の無いところで話をしたい。

駅前の無駄に広い公園の人気が少ないベンチに座り、結果が出る日の診察に大丈夫だと思うけど念の為誰か同行して貰えないかと聞いてみた。
院内は撮影・録音不可なので、1人だと聞き逃しがあるかも知れないと言うのもある。
結局、基礎疾患持ちの母では無く、姉が来てくれる事になった。

良性でも悪性でも腫瘍がある以上、手術はする事になるだろう。
となると、どうする仕事。
次の月のシフトはもう出来てしまっている。

慌てて上司にも連絡を入れると、「取り敢えず結果出てみないと何とも言えないねー」。
そりゃそうだ。
結果が出てから再度報告する事にして電話を切ると、一気に力が抜けた。
まだ週が始まって半分も経ってないのに、中身の濃い出来事が色々あり過ぎた。

今日も気付けば陽が傾いている。
貴重な公休が、また何もしないまま終わろうとしていた。
放心しながら、誰かが撒き散らかした餌に群がる鳩をずっと眺めてしまっていた。

鳩よ、気楽で良いな君達は。

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