装丁の想定『病気の魔女と薬の魔女』
4/30は「ワルプルギス(ヴァルプルギス)の夜」。
ドイツのブロッケン山では魔女たちが集まり、お祭りをします。
その日に間に合えばよかったのですが5月になってようやく完成。
『病気の魔女と薬の魔女』 著:岡田晴恵
コロナ禍で出会ったファンタジー小説です。
本書にはコレラ、ペスト、マラリア、チフス、梅毒、結核、天然痘…とさまざまな病気の魔女が登場します。
が、私がつい注目してしまったのは「コロナの魔女」。
コロナの魔女は「軽いかぜ程度のコンタギオンしか持たない」と立場が低いようですが、コロナの仲間の駆け出し魔女・サーズが「2003年に世界のあちこちで流行を起こした」としてちょっと見どころのあるルーキー的な扱いでした。
本書の初版は2008年。そういえばあったなぁ、サーズ…と懐かしくなりました。
このシリーズにCOVID‑19の魔女が登場したら、病気の魔女たちの中で下剋上を起こしているのかもしれない…
主人公ローズは、インフルエンザH5の大流行が起きる前にワクチンを作ることで、惨劇を回避しようとします。
ワクチンは、ニワトリの卵にコンタギオン(病気の種のようなもの)を注射し、卵の中で弱毒化して作るそうです。
この本を読んで初めて知りました。
イラストのローズが箒にぶら下げているバスケットの中にはニワトリの卵や薬草。その周りにも注射器や卵を舞わせて動きを出しています。
また魔法っぽさと化学っぽさを出すために、インフルエンザの構造や錬金記号のようなものを散りばめています。
記号は無くしてしまった方がスッキリ見えますが、若い人にワクワクさせるような演出にしたいな…と今回は賑やかにしてみました。
箒の前方にぶらさげているのはアン先生お手製のパンプキンケーキ。
物語冒頭でワルプルギスの祭りにお土産として持っていくシーンがあるのです。物語の時系列的には卵やケーキを同時に運んでいるのはおかしいのですが、パッと見のワクワク感を優先して盛り込みました。
周囲の魔女たちも本当はもっと個性的なスタイルがたくさんあるだろうと思うのですが、あまり奇抜にしすぎるとローズが負けてしまいそうなので装画としては「魔女がたくさん出る」というのがシンプルに伝わるくらいに留めています。
ローズの師匠的なアン先生やファーマ先生、外見まで怪物じみた病気の魔女たちもすごく描いてみたい…
小説を読み終わって、描こう!と思ってから
完成させるまでに随分かかってしまった…
(今回はちゃんとしたラフは作らずにゴリゴリ描き進めました。箒にまたがっている女性を下から見上げるアングルで…というのが難しくてのたうち回ってしまった)
この物語では「病気は病気の魔女たちが流行させるもの」「増長した人間をこらしめるために、そろそろ大疫病を出さねばならん」としていますが、物語の合間に現実的なコラムもたくさん挟まれています。
現実では、たとえば戦争が長引けば不衛生な状況が長く続く地域が生まれてそこから新しい疫病が発生する…という因果がありますが、それを「愚かな人間への罰」と解釈すると魔女の物語になるんですね。
また、魔女は「魔法を使う女」ではなく現象の擬人化というか、妖精のようなものとして描かれている印象です。病気の魔女が疫病を流行らせたいならその邪魔をする薬の魔女たちを直接攻撃したほうが効率がいいはずなのですが、魔女としてはそれは禁じ手なのです。病気の魔女と薬の魔女は、お互いにお互いの「仕事」に全力で取り組むだけ。
現実の問題と創作ファンタジーを共存させる、いい塩梅だなぁと思います。
理系の話題に苦手意識があってもなんとなく楽しめるようにできているので、ご興味のある方はいかがでしょうか。
現実の医療従事者や研究者の皆さん、いつもありがとうございます。
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