政治性の強い暗号としての名曲、Redbone
チャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローバー)が2016年に発表したRedboneという曲は、Black Lives Matter 運動以降の黒人差別反対運動におけるアンセムだ。だが、なぜこの曲がそこまで象徴的なのか具体的に説明している記事が見つからなかったので、自分なりの解釈をここに書き記しておきたいと思う。
ビノの歌詞は常に2重構造になっている。読解力のない人にとっては何でもない内容や意味不明な歌詞だが、問題の当事者や背景を知る人達は、その歌詞から政治的なメッセージを読み解くことができる。大衆に向けた音楽に、わかる人にだけ伝わる切実な暗号を忍ばせているのだ。
Redboneも、気まぐれなレッドボーン(混血の、色素の薄い黒人)の彼女にフラれたけれど、いまだにその娘を心配している男の失恋歌として解釈できる。だが実際には「目を覚ませ、人種問題と向き合うんだ!」というアフリカ系アメリカ人に対するメッセージが込められており、その他の被差別者やマイノリティなど、世界のどこかにいる沢山の“同志”に対しても立ち上がる勇気を与える内容になっている。歌詞の和訳の前に、いくつかのメタファーを予め解説しておこう。
歌詞中のメタファー
・歌詞中の『君』はレッドボーン(混血の黒人)の彼女のことであると同時に、アメリカに生きる黒人達を指している。
・『目を覚ます』という表現は、当たり前になってしまっている黒人差別の問題に自覚的になり、見て見ぬ振りを止めることを意味する。この曲は、今まで普通だと思ってきたことが、あるときやっぱり正しくないと感じて“目が覚める”ことから始まるのだ。
・ニガーという言葉は黒人に対する差別的な呼称だが、黒人同士で使う場合は親しみを込めた三人称にもなる。(例えば、仲間内で腐女子と呼び合うには尊敬と自虐が込められているが、知らない男性が「腐女子なんでしょw」とか言ってきたらマジで無礼な奴であるように、関係値や誰が言うかによってニュアンスが変化する言葉である)Redboneではそれを利用し、歌詞に2重の意味を込めている。『長い間、理由をつけて僕を待たせてきた』のは人種差別問題の解決から目を背けようとするアメリカ、および黒人社会のことでもある。『奴らが忍び寄ってくる』は、悪い男に襲われるという意味の裏に、自分たちが黒人であることからは逃れられない。目を背けていたら、君も人種差別に巻き込まれてしまうぞという警告が込められている。
・ピーナッツバター、チョコレートケーキはどちらも性的なニュアンスがあるスラングだ。クールエイドは昔からある粉末ドリンクで、固定観念や同調圧力を盲信することを意味する。つまり、気を紛らわせるようなことで自分の時間を無駄にしたくないんだと言っているのだ。
以上のことを念頭において、Redboneの歌詞を読み解いてみて欲しい。
Redbone歌詞対訳