一首の短歌ができるまでを2000字弱で解説する
noteやTwitterでつながっている中に、短歌を楽しむ人がけっこういます。
おもしろそうなので、私も詠んでみました。
このnoteでは、一首の短歌ができるまでの製造工程をお届けします。
まずはテーマだな。何の歌を詠もう。
今日のおやつはドーナツだったから、ドーナツの歌を詠もう。
ドーナツ
ドーナツ。
ドーナツがあるだけじゃどうしようもない。手も足も出ない。
ドーナツと
助詞を足してみた。
さあ、ドーナツと何を並べようか。
ドーナツと淡いコーヒー
コーヒーが出てきた。
「薄い」じゃなくて「淡い」にしたのはいいかもしれない。「薄い」だと少し寂しさがあるから。
だけど、このままじゃまるっきりミスドの注文だ。レジで一首詠んでる場合じゃないんだよ。
コーヒー。コーヒーをどうする?
コーヒーに、
ドーナツと淡いコーヒーに溺れ
溺死してしまった。
いつもコーヒーを飲む立場だから、たまにはコーヒーに飲まれてもいいかと思った。だけど死んでどうする。ドーナツを巻き添えにしてまで。
いや待てよ。
ドーナツがコーヒーに溺れる。これは正しいんじゃないか?
人間から見れば「ドーナツを食べ、コーヒーを飲む」行為だが、ドーナツにとっては「人体の中でコーヒーに溺れる」体験をしていると言ってもいい。
発見だな。
よし、主語をドーナツにしよう。
ドーナツ「と」からドーナツ「が」に変更。
ドーナツが淡いコーヒーに溺れ
「淡い」もいらないな。
ドーナツがコーヒーに溺れ
短歌のリズムになってないから、コーヒーをココアにしよう。意味は通じるし。
ドーナツがココアに溺れ
ココアもおいしいし。
さて、5・7はできた。ここからだ。
ドーナツがココアに溺れてどうなったのか?
ドーナツがココアに溺れ夢を見る
あっ、そうしちゃう?
溺れながら見る夢ってもはや走馬灯なんだけど、それ以上に「夢」の話にしちゃったら何でもありになるぞ?いいの?
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師が
ほらぁ。何でもありになったじゃん。世界観変わりすぎ。
こうなってしまったら、もう怖いものなど何もない。夢の中で米津がどうしてたんだ?
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師がレモン食ってた
勝負を投げるな。
米津だからレモン。安易すぎる。
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師が感電してた
だからそういうことじゃない。
もういい、米津にはドロップアウトしてもらおう。
ドーナツがココアに溺れ夢を見る
よし、元に戻った。
では米津を忘れて、何の夢を見たかというと…
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米沢牛が
「よね」から離れろ。
ダメだ、米津が強すぎる。一度思いついたが最後、脳の言語野にしがみついてきやがる。
しかし「米沢牛」に変えてみたのはよかった。これで「米沢牛よりは米津の方が飛躍力あるな」と確認できたからだ。
米津、さっきはリストラしちゃってごめんなさい。戻ってきてください。
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師が
米津さんカムバック。
さっきは米津玄師「が」だったから良くなかったのかな。変えてみるか。
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師と
おや?これは。
①ドーナツがココアに溺れ、夢を見る米津玄師と、
②ドーナツがココアに溺れ夢を見る。米津玄師と、
二通りの読み方ができるね。夢を見ているのはドーナツか、米津か。おもしろい。
だから、①でも②でも通じるような7文字を付け加えたらいいんじゃないか?
ドーナツと、米津。
ドーナツがココアに溺れ夢を見る米津玄師と歌声似てる
あ!いい!
ドーナツの歌声が米津玄師と似てたらおもしろくない?あの穴が縦や横に伸び、うなる美声が一億人を黙らせる。
こうなると、むしろ「夢を見る」が不自然だな。
ドーナツがココアに溺れ ○○○○○ 米津玄師と歌声似てる
ここにしっくりハマる何かを考えよう。
ドーナツがココアに溺れ歌う声米津玄師と歌声似てる
まあ、そういうことなんだけど。「歌う声」「歌声」ってくどいな。
というか、ココアに溺れてたら歌おうにも歌えないよな。「溺れ」に手を入れよう。
ドーナツがココアを吸って歌う声米津玄師と歌声似てる
ココアに飲まれてちゃ話にならないので、主体的な動詞「吸って」にしてみた。
良い気はするけど、もっとこびりつく言葉はないものか。
あ。
ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師と歌声似てる
これだ!
酔っぱらうと声が変わる人いるじゃないですか。ドーナツもそれなんですよ。
というか、そうであってほしい。
じゃあ、「そうであってほしい」願望を短歌に載せちゃえ。
ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな
よし!
ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな
できた!
と、思う。
なんか、まっとうな短歌の作り方じゃない気がするんですよね。
もっとこう、自然に感じたことを57577に落とし込むべきだと思うんですが、私がやったことは「57577ありきで文章を作る」なので。
短歌って難しいですね。