ポーランドから届いたパーカーの配送ルートを追う #創作大賞2022
Top画像で私が着ている、このパーカー。
精密機器の基板を模した図案が、全面にほどこされている。
中央に位置するロゴは "devil inside" 。
スマホにパソコン、タブレット。
人間の指示に従って動くだけの電子機器に、欲望を操って人心を惑わす悪魔が棲んでいる。そんなメッセージだろうか。
配色のかっこよさと皮肉のスパイスが効いたデザインに惚れ込み、手に入れずにはおれなかった。
ダーティーな魅力にあふれるパーカーは、どのように届いたのか。
待つこと77日
パーカーは通販で注文した。amazonでも楽天でもメルカリでもない。
Mr. Gugu & Miss Go。ポーランドのアパレルブランドである。たぶん「みすたーぐーぐーアンドみすごー」と読む。
ちなみに、利用するのは初めてではない。2019年にはこれを購入した。
地球滅亡をたくらむ猫パーカーである。
こわい。
なぜ、猫にする必要があったのか。地球が滅亡したらこの猫はどうなるのか。
SFチックな世界観にいくつもの謎をはらんだパーカーであった。
サイトを見て頂くとわかるが、「ユニーク」の一言で片づけるには惜しいほど不気味、かつ濃密な服が揃うブランドである。
年に数回訪れる「変な服を買いたい欲」に突き動かされ、冒頭のdevil insideパーカーを注文したのが、2020年11月6日。
注文確認メールによると、パンデミックの影響で、通常より配送が遅れるかもしれないとのこと。
Mr. Gugu & Miss Goは完全受注生産、しかもポーランドから日本への輸出である。2019年の注文(地球滅亡猫パーカー)でさえ、届くまでに1ヵ月半ほどを要した。加えて昨今の情勢だ。
今回はどれほど長くなってもおかしくない。
心を広くして待つ気構えのはずが、忘れようにも忘れられないまま迎えた2021年。
1月4日、ついにメールが来た。
やった!
注文から約2ヵ月、おそらく例年とはちがう困難を乗り越えてのことだろう。名も知らぬポーランドの職人をたたえたくなる。
しかも、メールに載っている "Track your order" ボタンを押すと、パーカーの現在地を追跡できるのだ。
ポーランド語をGoogle翻訳した画面なので、言葉づかいに多少の違和感はあるものの、だいたい意味はわかる。
日々、我が家ににじり寄ってくるパーカーの様子が伝わり、待つ時間が期待を増幅させる。
そして1月22日、ついに!
注文から77日、静かに待った反動がこれである。奇声もやむなしとご理解頂けるだろう。
気になる配送ルート
パーカーが届いた日、"Track your order" を改めてチェックしてみた。こちらが履歴の全てである。
具体的に、このパーカーはどんな旅路をたどったのだろうか。ポーランドを出発してからの記録を見ていこう。
配送履歴には川崎港の文字がある。ちなみに私は神奈川在住である。
川崎港に来たということは、ポーランドから船で運ばれてきたのか?
世界地図でポーランドの位置を確認し、川崎港までの道のりを想像で図にしてみた。
航海の知識は無いが、海を渡るならおそらくこれが最短だろう。
Googleマップを使ってこの経路を測定したところ、総距離は22,908kmであった。
履歴によると、1月14日 11:36にポーランドを出発し、1月18日 20:42に川崎港に到着したという。4日と9時間6分かかったわけだ。
ここまで条件が揃うと計算したくなる。パーカーはどれぐらいの速さで移動したのか?
もちろん、船は常時同じ速さを保っているわけではないが、平均速度を出してみた。
「22,908km」を「4日と9時間6分」で進む速さとは、時速218km……
うそぉ!?
新幹線のぞみの平均速度は時速224.28km(参考)だから、それに迫る速さだ。船ってそんな速度出るの? まるで海上新幹線じゃないか。
ジェットスキーならまだしも、貨物船でこの速度はありえない。もう一度冷静に見てみよう。
1月14日の履歴に「ワルシャワ」とある。
ワルシャワはポーランドの首都だが、内陸にあるので港など存在しない。むしろ空港があるのだ。
そして、1月20日に「税関からの解放 ナリタAPA」という履歴が刻まれている。
「APA」がよくわからないが、ワルシャワの空港から発送されたのなら成田空港と考えるのが自然だろう。
空路なら、4日もあれば十分間に合う。
なーるほど、パーカーは空の旅をしてきたのか……
いや、だとすると川崎港はどうなる?
ひっくるめて考えると、
成田空港に着陸したパーカーは、
陸路で千葉港にでも運ばれ、
船に乗って川崎港に送られた……のか?
成田からだったら、トラックなり貨物列車なりで神奈川に向かえばいいんじゃないの?
なんでわざわざ海路を挟むんだろうか。観光じゃないんだから。
ここまででもじゅうぶん不思議だが、履歴をよく見ると謎がさらに加速する。
1月18日に川崎港で受け入れて、
20日にナリタの税関から解放され、
直後に川崎港から発送。
どうなってんの? 神奈川と千葉を反復横跳び?
もう何が何だかわからない。桃鉄のように飛び回る旅程を前にして頭を抱えるばかりである。
パーカーよ、お前はどうやってウチに来たんだ。
どうしても、この謎を解明したい。
足りない情報を想像で補い、パーカーの配送ルートを考えてみた。
説明しよう。
2021年 パーカーの旅
① 1月14日、パーカーは飛行機でワルシャワから成田空港へと送られた。
② 本来、成田空港の税関でチェックを受けるべきなのだが、パーカーは「どうせチェック通るだろ」とナメていたため、自らの意思で税関を抜け出し、空中浮遊で成田空港内を逃走した。
③ 空港を飛び出したパーカーは、千葉港に向かうトラックに忍び込んで自らを運び、さらに千葉港で船にすべり込み、川崎港まで密航した。
④ 1月18日、川崎港に到着したパーカー。
しかし、正規の税関を通っていないため、港のコンテナで息をひそめて待つ。
⑤ 一方、成田空港の税関では、パーカーが行方不明になったことに担当者がようやく気づく。
貨物の紛失は重大なミス。見つけなければクビになるかもしれない。
青ざめている担当者のもとに、川崎港の担当者から電話がかかってくる……
川崎港 「おい! パーカーが税関すり抜けてこっちまで来てるぞ!」
成田空港「えっ、川崎港まで!? 申し訳ございません!」
川崎港 「コンテナの隅っこに潜んでたぞ! ちゃんと捕まえとけ!」
成田空港「まさかパーカーが空中浮遊で逃げ出すとは……お手数ですが、そちらで税関の手続きをお願いできますか?」
川崎港 「なんでだよ! そっちの責任だろ!」
成田空港「いえ、こちらも手が離せないので…」
その後も担当者間では決着せず、お互いの上司をも巻き込んだ押し付け合いとなる。
最終的には、成田の担当者が菓子折り持参で川崎港に出向き、成田としての税関手続きを行うという、前代未聞の貿易となった。
……と、こんな風に揉めてた期間が1月19日~20日である。
⑥ そしてようやく、川崎港からパーカーが発送され、私の手元に届きましたとさ。
めでたし、めでたし。
……知らなかったぞ。
お前、授業を抜け出す中学生みたいなことやってたのかよ。
こんな意思を秘めたパーカー、持ってていいんだろうか。着ている最中にいきなり空中浮遊し始めたらどうする。ど根性ガエルみたいに振り回されるぞ。
しかし考えてみると、何も恐れることはない。
サイトで初めて見たときからわかっていたじゃないか。
このパーカーには悪魔が棲んでいる、と。
実際、どういうことなんでしょうね?
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