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【小説】アシメいいじゃん

「昨日言ってた炭酸水のやつ、やってみた」
「やったの?」
「うん」
「いや、あれ絶対うそでしょ」
「今日つけてきてる」
「マジで?」
「ほら、この辺グラデーションかかってるのがそれ」
「え、ほんとに?これが?」
「うん」
「元からじゃなくて?」
「自然にこんな色なんないでしょ」
「すっご。めっちゃキレイなんだけど。でしかもやったの昨日でしょ?」
「うん、先週から植えてたやつに昨日注いでみた」
「反応早すぎない?怖いんだけど」
「怖いけど実際なってるじゃん」

「これさ、あれだよね」
「あれだよね」

「いや、そうはならんやろ」
「なっとる!やろがい!」

「あはははは」
「あはははは」

「でもそれさー、弱ってきても気づかなくない?」
「それ思った。上がり具合とかで判断するしかないよね」
「腕上がんないってギリギリじゃん。おしゃれのためにそこまでする?」
「そこはやる人の価値観だよね」
「あとさ、遠目だとわかんなくない?」
「気づく人いるかもしれないじゃん」
「それ気づくって時点でだいぶ好意もたれてるってことじゃないの?」
「じゃあいいじゃん」
「嫌なやつだったらどうすんの」
「愛想笑いしとく」

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「おはよー」
「おはよー」
「バッキバキに跡ついてんじゃん。どうしたの」
「きのう寝相悪くって」
「寝相関係ある?」
「ベッドの端っこ寄っちゃって壁の跡つくとかない?」
「ない」
「ないの?」
「てかさ、そもそも外してるんじゃないの?」
「え、寝るとき外すの?」
「え、外さないの?」
「外して寝たことない」
「いやいやいやいやいや」
「外して寝るって怖くない?」
「いや外すでしょ!おい北村!北村!寝るとき腕外す?」

「え…は、外す…かな」

「ほらぁー!」
「逆にさ、なんで外すの」
「普通外すって!」
「普通って何よ」
「みんな外してるって!」
「知らないよ」

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「ねぇ」
「どしたの」
「私の腕さ、植えてたのにさ、今朝お父さんがつけてっちゃった」
「うそ!?植えてたのに?」
「そ、一回もつけてない腕ひっこ抜かれた」
「うわー、最悪だね」
「しかもお父さん、明後日まで出張で帰ってこないの」
「そんなことある?」
「だから私、明日の腕無い」
「ヤバいじゃん、どうすんの」

「あなたの貸して」

「え、ホムセンで買ってくりゃいいじゃん」
「既製品とかやだ。前買ったやつ油のにおいしたし」
「わかるけどさ、1日ぐらいいいじゃん」
「どうせ替わるんだったらあなたの腕の方がまだマシ」
「マシって何よ」
「貸してよ。他に選択肢ないの」
「わたしだって大事に育てたんだから」
「ちゃんと返すよ」
「一回人の身体についた腕って嫌じゃない?」

「じゃあ聞くけどさ、あなたに今ついてるの、自分の腕なの?」

「は?」
「ずーっと自分が育てた腕だけつけてるって保証ある?」
「いつの間にかすり替わってるなんてないでしょ」
「こっそり親が使ってるかもしんないじゃん」
「うちの親そんなことしない」
「全部知ってるの?」

「そりゃ、小さい時はあったかもしんないけどさ」
「じゃあ誰の腕でも変わんないよね」
「えぇー…」

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「鉢どこに置いてんの?」
「リビング」
「親のやつも?」
「家族全員分そこにある」
「そりゃ親も間違えるって。自分の部屋とかにしないの?」
「うち水やりとか親が全部やってるから」
「自分で面倒見ないのが悪いんじゃん」
「じゃなくて、なんかうちの親がやりたいんだって。私のも見てないと不安とか言って」
「過保護?」
「過保護」

「あー、なんか右だるい。上がんなくなってきた」
「ヤバいね。色も」
「早くあなたの腕つけないと」
「てかさ」
「何」

「うち、右の新しい腕無いんだけど」

「え?」
「右腕、植えてまだ2日目だから」
「ちょっと、貸してくれるって言ったじゃん」
「左腕なら貸したげる。もう爪まで伸びてるし」
「いや、替えなきゃいけないの右腕だから」
「確認しないのが悪いんじゃん」
「見たらわかるでしょ!わたし炭酸水とかやってないし」
「ちゃんと自分の口で言わないと」
「やっぱやめるわ。左じゃ意味ないもん」
「ここまで来といて?さっき誰の腕でもいいよねとか言って」
「ごめん言い過ぎた」
「他に選択肢ないって言ってなかったっけ」
「じゃなくて、今わたしは左右の話してるの」
「いいじゃん、明日だけ両方左腕で」
「絶対変なんだけど!?」
「アシメいいじゃん」

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「親指付け替えたらどうにか…」
「無理だって」


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