設計者としてどう考えましたか?(R4本試験)
はじめに
令和4年度の一級建築士製図本試験が終わりました。
階数指定なしに始まり、主要室となる貸事務室は、2つのテナントで3000㎡以上の要求で天井高2,800mm以上、中間階(2階〜最上階の直下階)の設置階指定で、最上階はシェアオフィスのワンフロア1テナントで3種類の大きさの室を20室設ける、その他ほとんどの要求室が約◯◯㎡ではなく◯◯㎡以上と過去問や学院の多くの課題を通して十分対策してきた受験が、???となるような出題が多数ありました。
更に、初出題となる杭基礎が必要となるような地盤断面、G L-20mまで地耐力のない砂層で支持力を得られない地盤。。。どうするの???
それ以外にも、要求図書の要求図面においても、表現にテコ入れされていつもと違う。。。断面図の切断面があっちにもこっちにも、断面図に表記する高さも“塔屋を除く建築物の高さ”とか基礎や塔屋・屋上の設備スペースを“必ず図示”せよ。。。
更に更に、計画の要点では、基準階の収益性について、(レンタブル比に関する記述は除く)とか、「テナント及び利用者の多様性」に配慮したこと、「シェアオフィスでの多様な働き方に対応可能な空間づくり」の観点から配慮したことなど
極めつけは、計画の要点の最終問題について、断面詳細がわかる図やイラスト等(縮尺1/50程度)って矩計描けってこと?と受け取ってしまうような設問。
“想定外”の課題に戸惑った受験生が多く居たと思います。過去問を中心に7月に発表された「事務所ビル」に対して貸ビルを中心に自社ビルなどあらゆるパターンを想定しながら対策を立ててきた学院生に対して、アドリブで答えてみてという課題だったのかなと思います。
学院では、道路斜線等で建物高さが厳しい場合は、天井高さを下げて階高を抑える対処方もあると対策を立ててきましたが、課題では、天井高さ2,800mm以上とすることで別の方策を提案してくださいという試験元からの要求。。。
まるで学院のこれまでの課題を見透かされているかのような印象を受けた本試験。より実務に近い試験に変化していて、条件を提示されてその条件に対する設計者自ら作った計画を提案する試験なんだなと感じました。
そこで、本noteでは、オーナーである試験元から依頼を受けた設計者(受験者)が自身で作成したプランをプレゼンする形式で綴っていきたいと思います。
+++++++
オーナーからの依頼
オーナー:市街地にまとまった土地を入手したのでそこへ事務所ビルを建てて賃貸としたいと考えています。敷地は、南北に歩道付の10m道路に接道していて、敷地の東側には近隣住民に親しまれている緑豊かな公園に隣接している好立地なので、レストランを併設した貸事務所ビルとして計画していただきたい。
設計者:何階建てくらいの建物を想定していますか?
オーナー:階数や構造については、お任せします。ボーリング調査の結果地盤から20m程度は、支持力があまりないです。地下はなしとしてください。貸事務室は、3,000㎡以上は欲しいです。最上階は、シェアオフィスとして運営会社を入れる予定です。
オーナー:事務所ビルなのでバリアフリー法では「建築物移動円滑化基準」を満たす計画となりますが、利用者の多様性に配慮した計画として欲しいです。
+++++++
プランの検討
敷地の周辺環境及びアプローチの検討
敷地の周辺環境については、東側に公園があり景観が良好◎、西側は事務所ビルが敷地境界に接近して建っていて△、南北は歩道付の10m道路で事務所及びレストランのアプローチ、サービスのアプローチとしても◎
基準階に指定された天井高さとリカク距離をもとに階高の検討
リカク距離を4m、5m、6mで算出すると
4m→25.8m
5m→28.8m
6m→31.8mまで可能
RC造の場合とPC梁を採用する場合で高さを割り出すと図のようになる
今回は、コミュニティセンターへ無柱空間の指定があるため、PC梁を採用することになるため、右側の階高を採用し
6階建ての場合は、リカク距離4m以上
7階建ての場合は、リカク距離5m以上となる
貸事務室の要求面積より、1フロアの面積を算出すると
6階建ての場合は、950㎡程度
7階建ての場合は、800㎡程度必要となる
建築可能範囲の検討①
外構周りに配置するその他施設等を考慮して建築可能範囲の検討をすると
ヘリアキ寸法について、東西を2m、南北4mとすると建築可能範囲は、44m×24mとなり、フルグリッドが1056㎡となります。
事務所用の駐車場がまとめて取れないので南北へ分けて配置。
また、レストランと繋がる屋外テラスについては、日当たりの良い南側に設置する。
求めたフルグリッドで6階建パターンを検討すると
最上階の要求室が、大中小の3パターンで5室、5室、10室と要求室が多いことから、外壁側に開口部を取りたいため、センターコアタイプ、7スパンで検討してみると、基準階の貸事務室は、南北に分けて共用部を4コマ程度とすると、A+B=856㎡、4層で3,424㎡で3,000㎡以上となる。
最上階では、屋上庭園を2コマ(112㎡)としてラウンジを隣接させてコの字型に要求室が確保できる。また、1階については、レストランを東側に配置して公園の景観を取り込む計画とし、共用部を挟んでコミュニティホールを配置し要求面積を確保できそうなのでOK。管理・サービスゾーンについても、十分な広さが確保できそう。
建築可能範囲の検討②
7階建のパターンの検討では、ヘリアキ寸法について、東西を2m、4m、南北を5m、4mとして建築可能範囲は、42m×21mとなり、フルグリッドが882㎡となり、東側の公園側にレストランを配置。。。。
ちびコマによるゾーニング検討②
基準階では、北側の偏心コア(4コマ程度)とし東西に分けるパターンで貸事務室の長手方向をどちらも南向きに取ることができます。最上階では、公園に面した東側に屋上庭園を配置し、3コマ(147㎡)程度とし、ラウンジを隣接させます。貸室については、一部建物中央部に配置し開口部に面しない室が出てきそうです。
1階のゾーニングは、①と同様で問題なさそうです。
2つのパターンを比較した上で今回は、最上階で全ての室で開口部を取れそうなパターン①で検討を進めます。
オーナーへのプレゼン①
基準階と最上階の検討から
基準階では、貸事務室を南北に分けて主採光面からの奥行きを8m程度とし自然光を感じられる快適な執務空間としており、A,Bそれぞれ448㎡、408㎡で856㎡×4フロア=3,424㎡となり、3,000㎡を大きく上回っています。階段・EVやトイレなどの共用部をコンパクトにし4コマ程度でまとめています。貸事務室A,B室共に東側に隣接する緑豊かな公園への眺望を取り込む計画としています。
最上階では、貸室a,b,c室共に外壁側に面して配置し、無窓とならないよう配慮しています。利用人数が多いa室に面する廊下は、太い動線として芯々3mとし、b,c室に面する廊下は芯々2mとしています。ラウンジ、屋上庭園ともに公園への眺望を配慮し東側へ配置しています。
建物全体は、RC造としておりコミュティホールの無柱としているスパンのみPC梁を採用し、経済性に配慮しています。
1階平面図・配置図について
利用者のアプローチは、南北どちらでも出入りできるように通り抜けのエントランスホールとしています。レストランは、営業時間が異なるため外部からの出入りのみとし、屋外テラスと共に公園に近い東側に配置しています。
事務所部門用の駐車場は、車椅子利用者用を南側へもう一台を北側へ配置しています。また、サービス用駐車場は、レストラン用を一台北側へ配置しています。設計条件の留意事項にありましたが、設備機器等の搬出入、更新及びメンテナンスに配慮すると管理サービス用として、一台任意で配置しています。
駐輪場は、レストラン客用の為南側に配置しています。
コミュニティホールを西側に配置し、隣接して待合スペースを配置し管理サービス諸室を配置したゾーンからの搬入動線も確保しています。
断面計画について
階数について、本計画では建築面積を大きく確保することで1フロアあたりの面積を広くし、6階建とすることで経済性に配慮しています。
階高の設定については、天井高さの指定のない1階及び最上階は、4mとし、基準階(2〜5階)は、4.1mとして塔屋を除く建物高さは、25.2mとなります。
基礎形式は、GL-20m以深の砂礫層を支持地盤としたため、杭基礎を採用しています。
オーナーからのヒアリング
要求図面では、表せない建築物の計画上の要点等についてお伺いします。
基準階について
オーナー:基準階(貸事務室A、貸事務室B及び共用部)について、2つの観点でお伺いします。
一つ目は、収益性や可変性についてお伺いします。収益性の中でレンタブル比については、提示していただいた図面より読み取ることができますのでその内容以外でお願いします。
設計者:レンタブル比についての回答も用意していたのですが汗。。。それなら別の観点からお答えします。
一つの区画を120坪(400㎡)を超えるテナント区画とし、大きな区画を希望するクライアントのニーズに対応できる計画としています。また、将来的なレイアウトの変更に柔軟に対応できるようフリーアクセスフロア及びシステム天井を採用し、可変性を考慮した仕上げとしています。
オーナー:二つ目は、快適性やテナント及び利用者の多様性についてお伺いします。
設計者:事務室は、自然光を感じることができる奥行(8m)とすることで、執務空間の快適性を高める計画としています。1フロア1室として利用したいテナント要望が受けられるよう、界壁を改修可能なつくりとし、500㎡以内の防煙区画も対応しています。ユニバーサルデザインに配慮して、誰でも利用できるよう基準階の各階に多目的WCを設置し、車椅子利用者の利用に配慮しています。
最上階について
オーナー:シェアオフィス、共用部及び屋上庭園について、収益性や快適性、多様な働き方に対応可能な空間づくりの観点から配慮したことをお伺いします。
設計者:隣接する緑豊かな公園の眺望を活かせるよう、屋上庭園を東側へ配置し。シェアオフィスに大きな開口部を設け、公園の眺めを取り込み快適な空間となるよう配慮しています。また、様々な利用者がラウンジなどの共用空間で執務ができるようWi-Fi環境やコンセント等を適所に配置できるつくりとし、コワーキングスペースとして活用することで利用者同士の交流を促す空間としています。
オーナー:ありがとうございます。今回の計画については、大変多くの提案をいただいていますので、厳正な審査を実施し、年末の12月26日に結果を公表する予定となっています。
+++++++
設計者としてどう考えましたか?
本試験を解いてみての率直の印象として、出題傾向が変わったなという印象を受けました。これまでの過去問をベースに決められた標準解答例に近いプランを導き出すという解法よりもより実務に近い課題となっていて、自由度の高い課題だなと感じました。
学院で蓄積してきた知識だけでは対応できず、その蓄積を使って設計者がどう計画したか?
計画の要点でも学院で繰り返し学習してきた内容をスルーしてそれ以外で答えなさいという出題
さらに多様性に配慮してどう考えたか?という出題に関して、それに決まった答えなど存在せず、設計者がどういう利用者を想定して考えたか?それを収益性につなげるための提案は?とプロポーザルコンペの質疑応答ヒアリングではないですが、オーナーからの質問に対してアドリブで答えてくださいという聞き方へシフトしているのかも知れません。
ただ、その応え方としては、これまでの考え方と同様で計画した図面と照らし合わせて聞かれている設問に対して図面で表現しきれないことを文章で簡潔に答えていく、図面との辻褄を合わせていくということには変わりありません。
今後もこのような出題形式となると想定すると、設計者としての資質が求めれているなと感じました。
Haru
《学びにつながったと思われましたら下にある❤️をタップして頂けるととても励みになります。フォローもよろしくおねがいします!》
追伸
パターン②についてのエスキスも画像のみ掲載しておきます。
Twitterからの情報から読み解くと7割程度の方が、このパターンに近いプランとなったらしいとのことでした。基準階で貸事務室の2スパンをPC梁とししたのに最上階で屋上庭園との境に柱を描いてしまい丘柱となっていたという受講生が多かったようにお見受けします。
このプランでは、貸事務室Aを東側に配置し課題で要求されている執務スペースのみを無柱空間として、PC梁となるスパンを最低限として経済性に配慮していますという提案はどうかと作ってみました。
いずれにしても片方が無柱要求のホール、片方は柱ありのレストランで引っかかりやすいトラップだなと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?