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怪談

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投稿した怪談のまとめです。
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記事一覧

怪談|安産の占い

 二人の子育てをしている真紀さんは、照れくさそうに言った。 「怖い話というよりも、不思議なおまじないというか占いというか。まあ私も未だに半信半疑なんですけど」  この話は、真希さんが一人目を妊娠して臨月を迎えた頃の話だ。  初めての妊娠で最初こそ戸惑いを感じた真希さんだったが、気がつけばあっという間に出産の時期を迎えていた。心配性な自分にしては案外あっけらかんとしているなと、拍子抜けをしていたそうだ。しかし、出産までもうわずかとなってくると、いよいよ不安が押し寄せ、鬱々と

怪談|放置された神社

Sさんの地元には、長年放置されている古びた神社がある。土壁は剥がれ落ち、屋根も所々穴が開いている。 今にも崩れてしまいそうで危ないのだが、取り壊される事なく放置され続けているのだそうだ。 最近、Sさんが実家に帰ったときに、その神社の話題になった。なぜ取り壊さないのか、と父親に聞いたところ、神社に行けば分かると言われたらしい。 それならと翌日、父親と神社に行った。正面に周り、あそこから中を覗いてみろと、父親が引き戸を指差した。 ボロボロの引き戸は、ズレて隙間ができ、そこ

怪談|おそらく、もう

Aさんは仕事柄、朝が早い。毎朝五時には自宅を出発し、車で三十分運転して職場へと向かう。 夜も明けきらぬ薄暗い時間ということもあって、普段は混み合っている道も快適に走ることができる。毎朝とても眠いが、それだけが早朝出勤の救いだという。 街は車も人も少ない。なので、同じ時間帯に見かける車や人間はなんとなく覚えている。 自宅から十分程度走った交差点の脇には民家があり、その軒先にはいつも老人が佇んでいるという。八十歳を優に超えて見えるその老人は、特に何かをしているというわけでは

怪談|自炊嫌い

Kさんの自宅には包丁が無い。ひとり暮らしの男性ということもあるが、自炊が面倒くさい、というわけではないそうだ。 ある夏、寝苦しさで夜中に目が覚めた。スマホで確認すると、午前三時をまわっていた。毎朝六時には自宅を出るので、このまま起きてしまおうか、霞みかかった頭でぼんやりと考えていたという。 ふと、視界の端にスマホの画面に照らされた何かが見えた。 ───髪の毛だ。 長い髪の束、その先端がKさんの目の前にあった。 髪をなぞるように、ゆっくりと上に辿っていくと、女が物凄い

怪談|紙片

古本屋巡りが好きなMさんは、最近、オカルト本を集めるのが楽しいという。特に、個人経営のお店で掘り出し物を見つけるのにハマっている。 掘り出し物といっても価値があるというわけではなく、インターネット全盛期の今、見向きもされないような本が見つかるのだという。 黒魔術、心霊術、超能力などを身につける方法が真面目に書き記されており、そこに疑念は一切ない。そんな内容を読んでいると、もしかしたら自分も、という感情を抱くことがある。 もちろん、そんなことできるはずがない、と思っている

怪談|録れてた

Kさんは中学三年のとき、理科室と理科準備室の掃除担当になっていた。先生があまり見回りに来ない場所だったので、いつも、掃除はそこそこに、古い実験道具や教材を漁るのが楽しみだった。 理科準備室は細長い6畳ほどの空間になっていて、奥の方は天井近くまでダンボールが積まれている。Kさんはいつも最奥部の中の、重なったダンボールを適当に漁るのが楽しかった。 ある日、埃っぽいダンボールを開けると、カセットテープを複数見つけたそうだ。 プラスチックケースに綺麗に並べられており、黄ばんだラ

怪談|白波

夏休みも終わる頃、Hさんは自宅からすぐ近くの海岸を散歩していた。 特別海が好きというわけではないが、近所にある手頃な散歩道がたまたまここだった。車もいなければ、自転車だって滅多にいない。直線で二キロほどの砂浜だが、海水浴場ではないのでいつも人気が少ない。ぼーっとしながら歩くには丁度いい場所だという。 その日は、辺り一帯がすでに夕日色に染まっていたので、おそらく午後六時くらいだったと思う。昨夜は深夜のバラエティ番組を観たあと、撮り溜めてあったドラマもまとめて観た。おかげで起

怪談|会釈

Hさんはおばあちゃん子で、小さい頃はいつも一緒にいた。 午前中、おばあちゃんの畑仕事を眺めながら遊んだ後は、必ず墓参りに付いて行ったそうだ。 そこは小さな墓場で墓石の数は二十数基ほどしかない。近所に養豚場があり、南風が吹く日はまるで目の前に豚がいるようなニオイが漂ってくる。 おばあちゃんが墓石を清掃したり花を活け変えたりしている間、Hさんは狭い墓場をウロウロしていたのだが、その時いつもすれ違う老婆がいたそうだ。軽く会釈をしてくるので、つられて会釈を返す。いつもそれだけだっ

怪談|苦情

三年前の夏、不動産会社で働いているMさんは、その日、苦情の電話を受けてとあるマンションに向かっていた。家族向けに建てられた物件だが、一割ほど単身者向けの部屋も用意されている。苦情の電話は、その単身者向けの部屋を契約している男性からで、ここ数日異臭がする、ということだった。 マンションから徒歩二十分ほどに駅があり、その前には商店街が通っている。Mさんの会社は、その商店街のちょうど真ん中にあった。 比較的治安の良い地域なので、マンションからの苦情は滅多に無い。あったとしても、

奇談|換気扇の声がうるさい

Hさんが都内で暮らし始めたのは、昨年の春からだった。駅から少し離れた場所にある物件ではあるが、遠いと感じるほどでもない。そこそこ広く、そこそこ新しい。築一〇年以内だったので、中に入ってみると見た目よりも新しく感じるという。 真っ白な床と壁紙が気に入り契約したのだが、Hさんは喫煙者だった。部屋を汚したくないとは思うが、それ以上にタバコも吸いたい。少々面倒ではあるが、その都度、ベランダに出たり換気扇の下で吸っていたそうだ。 ところが、最近はベランダで吸うことが極端に無くなった

怪談?|電話ボックスの怪

Yさんの仕事は帰りが早い方で、夕方には帰路につくことができる。帰りは近所の商店街でビールを買っていくのが日課だという。昭和の雰囲気を残した町並みが、夕焼けを浴びてオレンジ色に染まっていく様を見ながら黄昏る。そんな一日の終わりが密かな楽しみになっている。 商店街の隅に電灯があり、その下に電話ボックスがある。ダイヤル式で緑色の本体は、小銭とテレホンカードだけが使える昔ながらのタイプだ。 仕事帰りに見ると、毎日同じ時間帯に女子高生が使用しているのだという。今どき電話ボックスを利

怪談|実家の間取り

東京暮らしのTさんは、最近よくMさんと一緒に飲むことが多い。その日も高円寺のガード下にある居酒屋にいた。外にビールケースを置いただけの簡易的な席に座り、3杯目の生ビールを注文したところだった。 「いやー、まいったよ」 Tさんは不動産屋で働いているのだが、扱っている物件で自殺者が出てしまったそうだ。デザイナーズマンションと言えば聞こえは良いが、極端に陽が入らない造りになっているそのマンションは、以前から住人の入れ替わりが激しい物件だった。 おしゃれに釣られて次々と入居者は

怪談|知らない遺影

Kさんは子供の頃、お坊さんが苦手だった。 初めての法事の際、お坊さんが自宅で読経を上げたとき、仏壇の奥の暗がりに顔が浮き出てきたからだ。 初めは、仏壇の照明かなにかだろう、と思ったのだが、それはどうみても人間の顔のように見えた。 青白く、頬骨の浮き出た輪郭で、目は穴が空いたように真っ黒だった。それを見たKさんは、お坊さんが怖いものを呼び出した、と勘違いしていたそうだ。太い声でベラベラと聞こえてくるお経も相まって、さらに恐怖を感じたという。 翌年の法事でも、読経の際、やはり

怪談|絶対に見た

Kさんは小さな建設会社の事務で働いている。プレハブ小屋を大きくしたような事務所なので、同僚から上司まで全員の机が見渡せるほどのオフィスだという。 午後の眠気に耐えながら、溜まった書類をまとめていると、外回りに行っていた上司が帰ってきた。なぜか興奮した様子で、恰幅のいい身体を揺すりながらバタバタと机に着席すると、まくしたてるように「すごいものを見た」と言ったそうだ。 当然のごとく皆が”何を?”となった。しかし、上司はとにかく興奮しており、何を言いたいのか容量を得なかった。