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眼鏡

目がいい人を好きになったことがない。最初の男はただの老眼、その次からはみんな近視、父も眼鏡をかけている。
私は父が好き。父はいつだって私を守ってくれたから。私が家を出た時、止めることなく見送ってくれて、自由に生きさせてくれた人。
だから、人間だから、誰だって、父だって、過ちはあるから、ただ酒に酔っていただけだったから、私は別になんともない。
「触りやすいな」と言って触ったその部分がどういう場所なのか、大人になるまで気が付かなかったのだから。

眼鏡をかけている人とうまくいったことがない。うまくいくって曖昧だけど、曖昧にしかわからない。タイミングが重要であるなら、逃し続けているからうまくいかないのだろうか。偶然に身を任せるしかないのだろうか。触ってくれたら好きになる魔法ではなく、好きだから触ってくれるのだということは頭では分かっているのに、身体が手を伸ばしてしまう。ハグしたい。抱きしめて欲しい。なぜなんだろう。即物的な感情なのだろうか。
あの時、思いっきり突っぱねられて、拒絶されたと感じる前に、どうして相手にも感情があることを想像できなかったんだろう。その時私はタイミングを逃したのだろうか。君にしてしまったことをまた、他の人にもしてしまう。繰り返し、繰り返し。
大事な人がいるあなた。見守っているあなた。彼女を受け入れ続けたあなたは、心に決めているあなたは、どのタイミングのことを言っているのだろうか。ちゃんと好きですよ、なんて言われてみたい。言われてみたかった。一組の幸せなカップルをちゃんと、ちゃんと祝福しなければ。そもそも介入する余地のない、新しく出会ってしまった私は。そんなことの繰り返し。いつだって先に誰かがいる。テレビの中の人たちのように、一方的な眼差しであったのに、手を伸ばしてしまった私は勘違いも甚だしい。ただ、憧れた。ただ、あなたは素敵な人でした。

もう、ずっと悪くなってから眼鏡をかけた私は、悪くなる一方。

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