#0061【イブン・シーナー(イスラム世界、11世紀前半)】

1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

今週は中世イスラム世界から取り上げていきたいと思います。馴染みの薄い人物たちですので、業績を中心に紹介していきます。

まずイブン・シーナーをご紹介します。彼は医学者・哲学者として有名であり、ヨーロッパ世界においては「アビセンナ」の名前で知られています。
彼は980年にブハラ(現ウズベキスタン)で生まれ、1037年に現イランにおいて死没します。
幼いころから秀才として名を知られ10歳にしてコーランを暗誦するほどでした。さらに哲学や数学(幾何学・天文学)を学び、16歳のときには医学を修めていました。

そんな彼ですが、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの『形而上学』については40回読んでも理解ができなかったと自伝で述べています。最終的にはファーラービーという哲学者による注釈書をもとに理解を深めることができ、アリストテレスの哲学をベースにして更に一歩踏み込んだ解釈に辿り着きました。

現代でも原典から勉強するのではなく、入門書・解説書から読み始めることは有効な手段だと思います。例えば『論語』や『聖書』をいきなり読み始めるのではなく、その文言の意味や時代背景についての解説がついている書物から読むと理解が早まります。

さて、イブン・シーナーは医術の腕によって名声が高まり、そのお陰で地元の君主に愛され王室図書館の参照を許されます。ここでギリシア語の文献も含む大量の書物を読破します。

学問の領域にとどまらず、政治の世界でも活躍しますが、王朝の興亡によって現ウズベキスタンからホラズム地方・カスピ海沿岸周辺へと移り住み、最終的に現イランへ赴きます。イスラム世界を代表する知識人として各地で活躍しましたが、幸福と苦難に満ちた人生でした。

彼の最大の業績は西ローマ帝国崩壊後に西欧で失われてしまった古代ギリシア哲学を保存し、さらにそれを発展させた状態で西欧へ逆輸入させたことです。イブン・シーナー(アビセンナ)の存在なくして中世ヨーロッパから近世・現代へと繋がる哲学の発展はありませんでした。

「哲学」と聞くと、それが現代社会に何の役に立っているのかと思う方もいると思いますが、哲学とは「人間の理性によって思考を体系化する学問」と定義づけることができます。

現代社会における「民主主義」「法の支配」「資本主義」これら表層にあらわれている社会制度の裏には、自然科学・社会科学の発達を促した「哲学の発展」は見逃せません。

彼自身が企図したものではありませんが、イブン・シーナーの影響は現代社会の諸制度のベースを支えるという形で残っています。

西欧における哲学の発展、系譜については別途機会を設けて紹介したいと思います。

以上、本日の歴史小話でした!

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