#0018【スレイマン一世(トルコ、16世紀前半)】

こんばんは! 1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

イスラム偉人特集の最後はスレイマン一世に登場してもらいます。

スレイマン一世(1494年~1566年)は、オスマン・トルコの最盛期を現出した君主です。彼は26歳で即位すると、以降46年の長きにわたって君臨します。

オスマン・トルコが達成した最大領域を現在の国家名・地名で表すと以下のとおりになります。

トルコ・ギリシャ・ハンガリー・中東・アラビア半島・エジプト~モロッコに至る地中海沿岸の北アフリカ・キプロス島、ロードス島など地中海の主要な島々・・・

すなわち、地中海をぐるっと支配したのです。

これは、ヨーロッパ側から見るとアジアへの交易ルートが閉ざされた状態(オスマン・トルコの独占)になったことを意味します。アジアからの産物を得るためには、オスマン商人の手を借りる必要があり、多大なコストが掛かるようになりました。

当時、ヨーロッパがアジアから輸入していた代表的なものの一つに、胡椒があります。その胡椒が、同じ重さの銀と交換されていたとも言われていますので、とてつもないことになってしまいました。

この結果、ヨーロッパの西端にあったポルトガル・スペインにおいて西廻りでアジアへの交易ルートを確保しようと大航海時代へと繋がっていき、その他の国々も含めた西欧諸国が直接アジアへ進出するきっかけになりました。(大航海時代は別途取り上げます。)

スレイマン一世の時代にオスマン・トルコは最盛期を迎えますが、その力の原動力となったものは、「イェニチェリ」と呼ばれるキリスト教徒からイスラム教徒へ改宗した軍団でした。彼らの力と元々の軍団の力とが合わさって、オーストリアの首都ウィーンを二度(1529年・1532年)にわたって攻撃するなどヨーロッパ世界を震撼させます。

結局、ウィーン攻略は天候にも祟られ(雨のせいで大砲が威力を発揮できず)、失敗に終わりました。もしこの時ウィーンが陥落していたら、ヨーロッパ世界は全く別のものになっていたでしょう。

オーストリアが苦境に立っている状況下、オーストリアと敵対していたフランスはスレイマン一世と1536年に同盟を結びました。この時にオスマン・トルコは、フランスに対してオスマン・トルコ領内での領事裁判権等の特権を認めます。これをカピチュレーションと言い、当時は圧倒的に優位なトルコ側がフランスに恩恵を与えているという気持ちで付与したものでした。

このカピチューレション、やがて一方的な不平等な形で残り、国力が衰退したオスマン・トルコの重荷になっていきます。これが19世紀以降に欧米列強とアジア諸国との間で結ばれていく不平等条約の原型となりました。

現代においてトルコは欧州連合(EU)加盟を目指していますが、①現在のEU加盟国の領域にはかつてオスマン・トルコの領域に組み込まれていた地域があること、②ヨーロッパ政治にトルコも積極的に関係していたこと等が加盟を目指す要因・根拠(トルコ側の)となっています。

スレイマン一世は強力な軍団を維持するだけでなく、内政にも気を配ります。中央集権体制の維持・拡大を図るとともに文化事業の保護も行ったため、今も偉大な君主として尊敬を集めています。

ただ46年にも及ぶ長い治世の晩年は、後継者争いを裁くことになり、息子たちに死を命じるなど多くの不幸に直面します。そんな寂しい状態の中、ハンガリー遠征中に陣没します。

個人的な感覚としては、どんなに優秀な人物であっても20年前後がひとつの節目と思っています。長期間、トップを務めていくとタガが緩んでしまったり、苦しい状況に追い込まれたりする例が多いです。この独裁の賞味期限に関する分析は、後日セミナーや有料増刊号といった形でお送りします!

スレイマン一世の死後、オスマン・トルコは1571年にレパントの海戦で大航海時代を経て海軍力を増強したスペインに敗れてしまいます。

しかし、1683年に再度ウィーンを包囲するなど、オスマン・トルコは力強さを維持していましたが、やがて産業革命を経たヨーロッパに押されはじめ、緩やかに衰退が始まっていきます。

最後は第一次世界大戦(1914年~1918年)に敗れたことによる混乱を経てオスマン・トルコ帝国は崩壊し、トルコ共和国が1923年に建国されました。

以上、今週の歴史小話でした。

次回は、「詩人特集」です。松尾芭蕉(俳句)、ホメロス(ギリシャ神話)、李白・杜甫(漢詩)に登場頂きます。

オススメ本:林佳世子著『興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和』

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https://note.mu/1minute_history/m/m814f305c3ae2

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