自動運転レベル4の解禁

2022年4月、自動運転レベル4に相当する、運転者がいない状態での自動運転である特定自動運行の許可制度の創設等を内容とする改正道路交通法(以下「改正法」といいます。)が成立し、2023年4月までに施行される予定になっています[1]。以下では、自動運転のレベルについて簡単に説明した後、今回の改正内容や今後の課題について触れたいと思います。

・自動運転のレベルについて
・今回の道路交通法の改正について
・おわりに


自動運転のレベルについて

自動運転のレベルは、レベル1(又はレベル0)からレベル5に分かれおり、レベルが上がるにつれて完全な自動運転へ進んでいくように分類されています。具体的には以下の図の通りです。

日本においては、2021年3月にホンダが発売した「レジェンド」[2]や福井県永平寺町での無人自動運転移動サービスに使用されている「ZEN drive」のレベル3が最高である一方[3]、アメリカでは、google傘下のWaymoやGM傘下のcruiseなどがレベル4での自動運転車の運行をすでに一部公道でしています[4]。

レベル3までは、ODD(走行環境条件(道路運送車両法第41条第2項に規定する条件))[5]外においては、運転手が安全確保をすることになっていますが、レベル4以上においては、運転手という存在がなくなり、ODD外においてもシステムが安全確保する必要があり、運転手が存在することを前提とする従来の道路交通法では、レベル4に対応しきれていませんでした。

今回の道路交通法の改正について

1 目的
政府目標として、2022年を目途に廃線跡等の限定地域で、低速車両、遠隔監視のみのレベル4自動運転サービスを実現することが挙げられており、レベル4の自動運転を一部解禁するために道路交通法が改正されたものといえます[6]。

2 改正内容
⑴ 概要
今回の改正法では、レベル4相当の自動運転に対応した「特定自動運行」という定義が新たに定められ(改正法第2条第1項第17号の2)、特定自動運行に係る許可制度が創設されました(改正法第75条の12以下)。

また、特定自動運行を行うに際しては、運転手に課せられていた義務(救護義務や報告義務(道路交通法第72条第1項)など)を担保する必要性が生じますが、遠隔監視を行う者(特定自動運行主任者)を配置し、これらの者に当該義務を行わせることなどを新たに定めました(改正法第75条の22、23など)。

改正法第2条第1項第17号の2
特定自動運行:道路において、自動運行装置(当該自動運行装置を備えている自動車が第62条に規定する整備不良車両に該当することになったとき又は当該自動運行装置の使用が当該自動運行装置に係る使用条件(道路運送車両法第41条第2項に規定する条件をいう。以下同じ。)を満たさないことになったときに、直ちに自動的に安全な方法で当該自動車を停止させることができるものに限る。)を当該自動運行装置に係る使用条件で使用して当該自動運行装置を備えている自動車を運行すること(当該自動車の装置を操作する者がいる場合の者を除く。)をいう。

なお、特定自動運行が「運転」に当たらないことが明示されております。

改正法第2条第1項第17号
運転:道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従って用いること(特定自動運行を行う場合を除く。)をいう。

⑵ 特定自動運行の許可制度
許可制度の具体的な内容は、以下の図の通りです。

3 課題
今回の改正法によって、レベル4の自動運転が限定的ではあるものの解禁されることになり、自動運転に関して極めて大きな変化、進歩をもたらす改正になったといえるでしょう。一方で、レベル4の車が今後広く普及していくためには多くの課題が残っており、以下で簡単に触れることとします。

① 限定的な解禁であること

すでに説明した通り、廃線跡等の限定地域で、低速車両、遠隔監視のみのレベル4自動運転サービスを実現することが今回の改正の目的となっており、改正法下においては、それ以外の条件での走行が実質的に認められていないといえます(以下③、④参照。)。

また、「廃線跡等の限定地域」とありますが、これらは、一般の自動車や歩行者が当該走行路に存在しない場合(鉄道会社の管理する専用道など)を基本的に想定しており、混在交通までエリアを拡大していくにあたっては、他の自動車や歩行者の動きをどこまでシステムで担保しなければならないかということが極めてクリティカルな問題であるといえるでしょう[7]。この点に関しては、次回の記事で詳しく述べたいと思います。

② 交通事故を起こした場合の責任

今までは、自動車が交通事故を起こした場合、運転手がその責任を負うことがほとんどでしたが、レベル4の自動運転車両の場合には、その責任を誰が負うかについて判断に困る場合が少なくないといえます[8]。

ODD内かつ遠隔監視下の交通事故であれば、自動運転のシステム設計者や遠隔監視をする特定自動運行主任者などがその責任主体として考えられますが、仮にその人らが刑事責任まで負う可能性があれば、レベル4の自動運転の普及は大きく阻害されてしまうといえ、そのような可能性を排除するためにも一定の基準を作る必要があるといえます[9]。

また、自動車による人身事故に関する法律として、自動車損害賠償保障法があり、迅速な被害者保護を図るため、運行供用者(自動車所有者等)に事実上の無過失責任を負わせているところ、自動運転車両も同様に考えるべきかについて検討が加えられるなど[10]、従来の議論が当てはまらない可能性も生じており、こういった点についても検討が必要でしょう。

③ 限定地域でのサービスを想定していること

都道府県公安委員会は、特定自動運行の許可に際して、特定自動運行の経路を区域に含む市町村の長等から意見を聴取することになっているので、当該経路が複数にまたがる場合、例えば高速道路での走行などをする場合には、全ての市町村の長等から意見を聴取する必要がありますが(改正法第75条の13第2項第2号)、現実的であるとはいえないでしょう。

また、特定自動運行の許可基準の一つに、「地域住民の利便性又は福祉の向上に資する」(改正法第75条の13第1項第5号)ものであることが要求されており、専ら交通インフラが十分ではない地域を想定しているものといえます。

④ 低速車両を想定していること

自動運転レベル4で走行に関しては、自動運行装置の保安基準に適合する必要がありますが[11]、その条件を満たした福井県永平寺町の事例において、当該自動運転車両の速度は12km/h以下とされていることからすれば、レベル4の自動運転車両に関しても、基本的には低速度であることが要求され、速度を上げるには安全性が十分に担保される必要があるものといえるでしょう。

⑤ 遠隔監視等の条件が不明確であること

自動運転レベル4の走行に関しては、基本的に特定自動運行主任者が遠隔監視する必要があるところ、1人の特定自動運行主任者が自動運転車両を何台監視できるかについては定められていません。前記福井県永平寺町の事例では、1人が3台の自動運転車両(レベル3)を遠隔監視・操作していましたが、レベル4では車両を操作する必要がないので、1人でより多くの車両を監視することができると思われますが、その程度に関しては実証を積み重ねて検証する必要があるといえます[12]。

また、レベル4の自動運転車両が交通事故を起こした場合、特定自動運行主任者が現場措置業務実施者を現場に向かわせる必要がありますが(改正法第75条の23第1項)、現場措置業務実施者を当該車両の走行経路からどのくらい離れて配置できるか、外部委託することができるのかなどといった点が曖昧であるところ、走行経路が拡大するに伴って重要性を増していく問題であり、併せて検討していく必要があるといえます。

おわりに

改正法によってレベル4の自動運転が解禁されましたが、特定自動運行の許可を受けることに一定のハードルが存在するうえ、広く普及させていくには、検討すべき課題が上記で挙げたもの以外にも数多く存在します。

とはいえ、まずは、改正法が施行された際に、限定地域でレベル4の自動運転車両が走行できるよう法的検討をする必要があります。また、レベル4に限らず、レベル3以下の自動運転についても普及させていくことも、自動運転の普及や技術の進歩などに重要であるといえましょう。


[1](https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/index.html )
[2](https://www.stage.ac/ntsel-f2022/pdffiles/%E3%80%90%E6%8B%9B%E5%BE%85%E8%AC%9B%E6%BC%94%EF%BC%93%E3%80%91%E5%A4%9A%E7%94%B0%E5%AE%A4%E9%95%B7_221116%20%E4%BA%A4%E9%80%9A%E7%A0%94.pdf) 4頁
[3](https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210323006/20210323006.html)[4](https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jido_soko/pdf/20220428_1.pdf) 52頁 
[5]Operating Design Domainの略。具体的には、道路条件(高速道路・自動車専用道路上など)、地理条件(悪天候や夜間ではないことなど)、速度条件などがあります。
[6]注2の21頁、注4の46頁
[7]注2の25頁から27頁
[8]注2の23頁
[9]注2の23頁
[10](https://www.mlit.go.jp/common/001226616.pdf)
[11]注2の18頁
[12]注2の21頁



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