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アベノミクスで日本経済がダメになったと思う時に読む記事

アベノミクスの評価はなぜ難しいのか

安倍晋三の暗殺から約1年なのですが、いまだにアベノミクスの評価は定まりません。まあ経済政策ってそういうところがあって、いまだに「アメリカの景気回復にはニューディールが効いたのか、効いてなかったのか」を議論している人たちもいたりします。似たようなことをやったナチスの経済政策はみんな「効いた」って言うんですけどね。勝手なものです。

ちなみにヘッダーの画像はnoteのフォトギャラリーで検索したら出てきました。当時は表現の自由が今よりも守られていたということですね。

事後諸葛亮な評価軸

中国では結果論であれこれ言う人のことを「事後諸葛亮」と称するらしいですが、アベノミクスの評価に関してはこの事後諸葛亮が一杯出てくるわけです。要は、自分の党派性に都合のいいところだけ切り出して言う。そのため

「1997年~2016年の被用者1人あたり実質賃金を実質実効為替レートで国際比較したもの」

とかいう謎めいたグラフがアベノミクスの結果であると言って流布されるわけです。安倍晋三は2012年の年末に就任し2020年に首相の座を下りている(第二次安倍政権)ので、1997年って何なのとか2017年以降どこ行ったのと思う訳ですが、先に主張があってそれを裏付ける数字が欲しいんですからどうでもいいんですよそんなの

こういう状況ではまともに議論は不可能です。日本でも最近はEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)といって事実や証拠に基づいて政策決定をしようぜという動きがるのですが、こういう人たちはPBEM(ポリティクス・ベースド・エビデンス・メイキング)と言われて馬鹿にされ始めています。「政治に基づいて証拠を作る」ですね。

アベノミクスの評価方法

通常は、政府の政策でも企業の経営でも
・目指すべきビジョンを決め、定量的な到達点を示す
・ビジョンに向けた戦略を描く
・戦略に基づき実施プランを決める
・実施プランの評価方法を決める
という流れでPDCAのPが作られ、実行され、チェックされ、対策が考えられていくわけですが、権力争いというものが絡むとこれがたちまちダメになるんですよね。最もよくあるパターンは後から別の評価方法を持ち出してきてほらダメじゃないかと言うもので、アベノミクス批判も概ねこれに当たります。事後諸葛亮ですね。

まあもちろん、アベノミクス自体が「景気が良くなる」というふわっとした評価方法だったので、後からいかようにでもイチャモンを付けられる(あるいは、失敗した時に言い逃れ出来るようふわっとした評価方法にしておく)訳で、政治家だったらともかく、経営者がこれをやってはダメですね。

というわけでアベノミクスを先ほどのPDCA軸に当てはめると
・ビジョンは景気を良くすること、定量的な到達点はなし
・戦略は3本の矢、すなわち「異次元金融緩和」「財政出動の拡大」「構造改革の実施」
・実施プランは異次元金融緩和が「インフレ率2%に至るまで質的・量的緩和を続ける」、財政出動の拡大が「国土強靭化計画と東京オリンピック誘致」、構造改革の実施は明確なプランなし
・実施プランの評価方法は、インフレ率2%だけが定量的評価で、他はなし

というわけで、コンサルタントの目から見れば穴だらけで失格です。定量的に評価できない時点で最終的にうまくいったかいってないかも分からない。戦略面では明確なものが打ち出せたものの、構造改革プランは何もなく、評価方法もめちゃ適当です。

さっきも書きましたが、多分意図的だと思うんですよね。権力を維持するために意図的にビジョンを曖昧にしている。もし私の部下がこういうものを出して来たら、やり直しを命じるでしょうね。

事後諸葛亮にせざるを得ないが・・・

このように真面目に見ていくと、アベノミクスの評価はやはり事後諸葛亮とせざるを得ません。しかしながらそれは

「1997年~2016年の被用者1人あたり実質賃金を実質実効為替レートで国際比較したもの」

で評価するものではないはずです。私たちは2012年の衆院選で民主党から自民党に政権を移しましたが、その時の思いはなんだったのでしょうか。当時の記事などを見ると概ね
・経済再生、円高対策
・震災復興
・原発政策
・竹島、尖閣、TPPなど外交政策

が争点となっていたようです。

これに対し自民党は経済再生と円高対策として審査復興予算や国土強靭化、異次元金融緩和などを、原発政策としては原発再稼働(直接的には書いていないが)とベストミックスを、外交政策としては日米同盟を基本としながら中国・韓国・ロシア・ASEAN・インドなどと幅広い協調を志向していました。

まあ今回は、経済政策であるアベノミクスの評価をすることが目的ですので経済政策に絞りますと、当時の自民党の経済政策の中でなんとか定量化できそうなものとして「GNI」「若年失業率」がありました。

GNIと若年失業率でアベノミクスを評価

GNIとは国民総所得といい、GDPとの違いは海外からの所得が含まれるかどうかです。GNP(国民総生産)を所得側から見たもので、事実上、GNPと思ってもらっていいです。なぜGDPをGNIに変更しようとしたのかは分かりません。円安にして輸出で稼ぐつもりだったのかも。自民党はこれを「最大化」するという公約を掲げており、数値目標大好きっ子である筆者を再びキレさせました。

若年失業率とは15歳~24歳の失業率のことです。当時の自民党の文書には10%前後と書いてあったのですが、厚労省の統計では2003年の10.1%と2010年の9.4%がWピークです。これを「4年で半減」すると書いていたので、自民党の認識の中では10%の若年失業率を5%未満にするのだという意識があったことが分かりました。こちらはきちんと数値目標が書かれてあって筆者もニッコリです。

結論から言うと、GNIはGDPにほぼ連動する動きをし、民主党政権では3年間で合計1%程度(年率0.3%程度)の成長しかしなかったところ、アベノミクス期(2013年~2019年)は7年間で合計10%程度(年率1.4%程度)の成長を達成しました。数値目標が示されなかったのはともかく、経済政策としては前の政権よりは上手くやっています。

若年失業率は4年以内での目標達成には至りませんでしたが、安倍政権の期間に5%を下回らせることに成功しました。若い世代ほど自民党支持が大きいというのは、この時期に安倍政権が若年失業率を大きく下げたことに由来しています。

出典
https://honkawa2.sakura.ne.jp/3083.html

あなたの給料は上がりましたか?

アベノミクス批判でよく聞かれるこのセリフなんですが、おそらくみんな上がっていないと思うんです。下のグラフは私がよく使っている民間給与総額の推移なのですが、自民党政権になって給与総額は増加基調にあるのですが、平均給与はまるで上がっていないんです。

じゃあ、そのお金はどこに消えたのかという話なのですが、実は自民党政権になって以降、働く人の数が増え続けているんですね。15%ほど給与総額が増え、働く人も15%ほど増えている。そりゃあ働き続けていた人は給料が上がったという実感はないでしょう。

2020年はコロナで給与は減少したが、定額給付金(10万円)を非課税で配ったため、可処分所得は逆に増えた。2021年は個人への給付金がなかったため可処分所得も減少

また今回の話とは別になりますが、金融緩和でカネ余りが発生し、株式や不動産などの資産価格も上昇しました。こうしたことからアベノミクスの勝ち組は、「共働きをしてカップルローンで都心にタワマンを買い、余剰資金をNISAに全額突っ込んだ夫婦」であると言われています。

総じてアベノミクスは就職であれ投資であれ、新しく何かを始めた人に恩恵をもたらすものでした。一方で自分からは何も動くことはなく、誰かが自分にエサを運んできてくれることを期待する人にとってはしょっぱい結果となったと言えるのではないでしょうか。企業業績が良かったのでクビにならずに済んだことをお祝いするべきなんでしょう。

今回のまとめ

アベノミクスに限らず、事後諸葛亮での批判は本当に見苦しいものです。アベノミクス自体はコンサルの目から見ると穴だらけで政治的な逃げ道も多く、戦略としては良いものではありませんでしたが有効に働き、若年失業者を中心とした失業者や求職者に新しい仕事を回しました。
今後も日本社会は、機会を捉えて動く人にチャンスを与え、そうでない人からは奪うでしょう。経済社会の変化を鋭く捉え、行動していく必要があります。

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