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本人たちの許可を得ないスタイル。

誰とはいいません。

「え、なに」
眠そうな顔をした彼が、すこし驚いて目を軽く見開きながらこっちを見る。トレードマークのサングラスを今は外していた。いかつく見えてしまうそれを取れば、いつもの優しい目だった。
シートを倒して眺めていた携帯の画面が少し見え、バスケの試合結果をみていたことがわかり少し安心する。
「いや、別に」
「え、なんや」
服の裾についていた糸くずが気になって取ったら、服まで引っ張ってしまった。ただそれだけなのだが。
「なんでもない」
なんだか構ってもらえるのが嬉しくて、楽しくてお茶を濁してみる。
「そう?なんや、気になるな。それうまかった?」
助手席で夏季限定の抹茶ラテを飲んでいた俺の手元に一瞬目をやり、シートを起こしながら聞いてくる。
「うん、でもあれだな、ちょっと甘すぎる」
「あ~甘いのだめなんやっけ。抹茶ラテってだいたい甘すぎるよなぁ。ちょっとくれへん?」
「え"」
俺の手の中のペットボトルに手を伸ばして来たのに反応して、つい身構える。
「…そんな拒否らんでもええやん」
「なんか嫌じゃん、おっさん同士の間接キス」
と、一応もっともらしい理由を付けてみる。でもこれは多分効かないだろう。
「おっさん同士だから別にどうでもええんやろ…」
知ってる。
「…」
「あ~確かに。確かに。甘すぎるなあ。ありがと」
「………結構飲んだね君」
戻ってきたペットボトルがかなり軽くなっている事に気づくまでに数秒の時間を要してしまった。いかん、しっかりしろ俺。
「すまんすまん。じゃそろそろ行こかー」
口では謝る彼だが、とてもにこやかだ。きっと―――
「おう、安全運転で頼むわ」
「任せとけ」
きっと悪いとは思っていないだろう。
半分近く飲んだ事も、俺が恥ずかしくてもうこれを飲めない事も。

「ちったあ気づけや」
助手席で独り言ちた俺の声は、絶妙に音痴な彼の歌で掻き消えた。

――――――

すみませんでした。

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