黒いロングコートの紳士

駅のホームには誰もいない。

伸びていくホームの先は見えず、ずっと先の方に街灯が一つ佇んでいる。

佇んでいる。という言葉が的確だと、改めて言葉を噛む。
そこでずっとそうしてきて、これからも当たり前に夜道に灯り続ける。きっと僕が死んだ後も君はここにいる。

時間になって電車が軋んだ音をたてて止まり、人がぽつぽつと吐き出される。
乗り込む私は鉄の腹の中で、薄い黄色の明かりに包まれる。

街灯が目を覚ます。
しばらくしたら人間が眠る。
電車も眠る。

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