『Live2D JUKU』での話のさらに裏話
株式会社Live2D様が主催するカンファレンスイベント『alive 2021』のメインビジュアルを担当させていただいたことをきっかけに、先日(11/15)Live2D社さんの公式YouTubeチャンネル『Live2D JUKU』の配信に、ゲストとしてお邪魔してきました。
そこでメインビジュアルができるまでのお話などさせていただいたんですが、私の方でも公開許可をいただけたので、配信での補足をしつつこちらでも改めて紹介させていただきたいと思います。
『alive 2021』メインビジュアルができるまで
ある日届いた「alive2021のメインビジュアルをお願いできませんか?」というメール。「絶対やりたい!」と思った私は、たまたまメールアプリを開いていたこともあり、即レス(多分5分ぐらい)で「やります!」と返事しました。
何かの間違いじゃなければいいな〜、決まるといいな〜と願いながら返信を待ち、近日中に無事ご発注いただけることに。
そして後日、まずはLive2D社の社員さんと打ち合わせをしました。
打ち合わせ
今回はイベントのキービジュアルであることやLive2Dで動かす想定があることなどから、結構しっかり話し合いました(ちなみに私は基本、イラストの制作で通話での打ち合わせをすることはまずないです。メールでヒアリング&資料を基に作画しています)。
今回のイベントのテーマが「ネクスト・ヒーロー」とのことで、初期段階での先方のご要望は「剣を持ったヒーロー」「仲間が数人いてほしい」「ファンタジーな世界観」というものでした。
擦り合わせていくうちに、「ヒーロー=クリエイター」の意図であることから「現代風でもいいのでは?」となり、そこから「一束さんの思うヒーロー像で自由に描いてください」と言っていただき、ラフの制作に移りました。
ラフの制作
となったものの、実は打ち合わせの後から翌日ぐらいまで全くイメージ沸いてませんでした。私はイラストのご依頼をいただいた際、資料を見た直後ぐらいに「こういう感じかな」とイメージが思い浮かぶことが多いので、もしかしたら今回は難産になるかもしれないなぁと思いました。
と思っていたものの、打ち合わせの翌々日にはピンときたのでラフの作画へ。構図ラフの状態で6〜8種類ぐらい描いたと思います。なんとなく被るものや印象が弱いものは省いて、結果的に4案になりました。
ご要望に「複数人」というものがあったので、2〜4人の構図をそれぞれ考えています。左上が3人、右上が2人、左下が4人ですね。最後また2人ですが、これはwebサイトのヘッダーとしてインパクトが強い構図を模索していて思いついたものです。
ちなみに全体的に左の余白が大きいのは、この辺にイベントロゴや案内バナーが表示されるかなと思ったから空けています。背景は、描くかどうか一旦保留になってたので人物のみ。
構図が固まったので、ある程度イラストの雰囲気が伝わるぐらいまで整えて一晩寝かせて提出しました。
▼【A案】デザイナーパーティー
元々の「剣を持った勇者とその仲間たち」というテイストを、剣をLive2Dツールに変更し現代風に落とし込んだ案。「仲間」の部分を王道的に強調してますね。
シンプルかつ分かりやすくて爽やかに。メインビジュアル以外の用途にも使いやすいように考えたデザインでもあります。
▼【B案】栄光を掴み取る
「ネクストヒーロー」というテーマから着想。次の英雄の座を巡って競うイメージ、青い球は地球、青いラインはアートメッシュがモチーフです。
「その手で『栄光/世界』を掴む」、「Live2Dで世界を繋ぐ/世界中に活躍を広げる」という意味も込めています。
頭上の栄光を掴もうとジャンプしている姿ですが、「ここから世界へ向かって飛び出す」という意図で前方に飛び出しているようにも見えるようにしました。
これは他の用途での使いやすさよりも、構図のインパクトやドラマチックさを重視してます。
【C案】ライバルたち
少年漫画の表紙っぽい感じ。メインの女の子を主役に、周囲には同じくクリエイティブに活躍するクリエイターたちに集まってもらいました。等身大のクリエイター像を表したいと思い、ファンタジー感はほぼナシ。
青いラインはアートメッシュがモチーフで、一見バラバラに見える彼らを繋ぐきっかけや絆のイメージです。
中央の子が正面を見据えることで前向きさや力強さを、他のメンバーの視線をその子に向けることで絵の印象がバラつかないように、そして全員の表情を明るくして「ワクワク感」「前向きな印象」が出るように意識しています。
【D案】変身ヒーロー(っぽいやつ)
「ヒーロー」というテーマをより端的に落とし込んだキャラデザ。Live2Dの技術がVTuber界隈でよく使われていることを踏まえて、「なりたい自分になれる」「リアルとバーチャルを繋ぐツール」であることが変身ヒーローっぽいなぁと感じたところから着想しています。
サイトを開いた瞬間に二人からバシッと見据えられることで、力強いメッセージ性をもたせたいと思いました。
ラフの決定と背景
ラフは「C案で」ということで決まったので、次は背景をどうするかの打ち合わせをしました。
人物はLive2Dで動かすことは確定していたので、その邪魔にならない感じで…と、私が何か描くというものから他の画像を合成するという案まで結構色々出ました。
どういう風に見せたいか、どういうものなら描けるかなど話し合って方向性を確認し、最終的にはこちらも「一束さんの世界観で」とお任せいただいたので、Live2Dに関わる各種デバイスなどのツールを描くことにしました。
これは、「Live2Dは色んなツールで、色んな形で活躍している」という意図や「画面を窓と捉えれば、たくさんの世界観と繋げられるのでは」と思ったからです。手前のキャラクター達の構図的にも、風景よりは小物をちりばめた方がかわいいと考えたのもあります。
また、ちょっとした遊び心で「Live2Dに関わりのある人なら気づける要素」を仕込みたいなと思い、随所にLive2Dに関するモチーフを散りばめています。(回転デフォーマとワープデフォーマのピアスほしいです)
2枚目はロゴの配置などを想定しての見え方チェック用(自分用)。
カラーラフ案の提出
画面のデザインが決まったので、あとはカラーです。
打ち合わせでは「カラフルでポップな印象にしたい」「テーマカラーはオレンジや黄色系」と話していたので、メインの女子の上着にオレンジ、それに合わせてなんかいい感じになるように配色していきます。
周囲にツールアイコンを模したエフェクト(?)を散らしたかったので、
・エフェクト映えを意識するなら全体に色があった方がいいかな→袖を紫に
・オレンジより紫が目立っちゃうな→袖を白に
・エフェクトが白被りして見えにくいかな→袖をオレンジに
という流れで3パターン。加えて、背景もゆめかわポップにするためにデバイス類もカラフルにしたものも用意していました(右上)。
結果的には、手前のキャラクター達を引き立たせるために背景はグレーで統一することになりました。個人的にもこれが一番しっくりきてたのでヨシ!と思ってました。
メインビジュアルの完成
そして出来上がったのがこちら。
ラフの段階と比べて、配置や配色をちょっと調整していますね。
手前の女子の色を基本に、後ろ3人は同系色を使いつつもちょっと色味を薄めに。背景のデバイス類の画面は逆によりビビッドにして手前のキャラクター達と区別できるようにしました。色数が多いように見えるんですが、ごちゃつかないように実は結構絞っています。
背景もLive2D Cubism Editorの編集画面だったり、Live2D JUKUや公式noteのヘッダーだったりを。デバイス類を直線的にかつフラットにデザインしたので、画面内のシルエットがそれに馴染むように、手描きしてちょっとデフォルメさせてます。
こっちは全身図。メインビジュアルとしては必要のない部分だったんですが、清書の際にキャラの位置調整をしたり、Live2Dで動かすために隠れてる部分も描いたりするので、いっそと思って描きました。
ちなみに人物にあしらわれたLive2Dっぽいモチーフアクセサリーやロゴは全部で10個あります(わんころもち含む)。
そして実際にこのメインビジュアルを動かしていただいたものを、以下の特設サイトでご覧いただけます!
私の方でも結構パーツ分けして納品したんですが、蓋を開けると自分の想定の10倍ぐらいたくさん動かしていただいていてビックリしました。再パーツ分け大変だったのではなかろうかと…デザイナーさんには頭が下がります…すごい…。コアラ先輩(Live2D社のデザイナーさん)はじめCreative Studioの皆様ありがとうございました!!
ちなみにこちらは表情差分の下絵。使わないかもと思いつつ念の為入れていたんですが、見事に再現していただきました。
特設サイト自体も、メインビジュアルに合わせたデザインで作っていただいています。カラフルでめっちゃかわいいのでそこも含めてぜひ見てね…!
私はこれを初めて見た時、ひたすらエンドレスリピートしてました。かわいい。
Live2Dでのお仕事をするようになるまでについて
配信内では、aliveやLive2Dでお仕事することについてもちょこちょこと話を振ってもらってお話ししています。予め返答を用意してたわけではないので、時間の都合もあってちょっと言葉足らずだったかなと思う部分も多々…。というわけでちょっと補足です。
Q.組み込みモデルの学習方法について
私は『Live2D Creative Awards 2017』にて賞をいただいて商業の道が拓けたのですが、実はLive2Dを始めたのが同年の2017年夏頃なんですね。
非常に幸運が重なって大きなチャンスを得ることができたものの、経験時間が短いことに加えて私の周囲にLive2Dの技術的なことを相談できる人がいなかったので、頼りになるのは先方から提供される仕様書とサンプルモデルのみ、と言う状態でした。
配信内で「育てていただいた」と発言しているんですが、これは「こちらから質問してあれこれと教えてもらった」という意味ではなく、先方から提供される資料とFB(「ここをこういう風に修正してください」という赤ペン的な指示のこと)を元に学習して成長のきっかけにさせてもらった、という意味です。
最近はLive2Dに関する本や解説動画も大勢の方が出されている反面、組み込みモデルについての資料はあんまり世に出ておらず、現状、ゲーム会社に入るか下請けになるぐらいしか学ぶ機会がないんですよね…。
しかし『alive 2021』では組み込みモデルについてを含め、色んな話が聞けるらしいのでぜひ参加しましょうそうしましょう!
Q.お仕事としてLive2Dが成立し始めたのはいつ頃?
私がプロとしてお仕事をいただくようになったのは、2018年からになります。これはAwardsでの受賞が大きいので(むしろほぼそのお陰)、Live2Dの仕事をしたいと考えている方はぜひ挑戦されることをお勧めします。
話を戻して、当時はアプリゲームの立ち絵用モデルの制作依頼が主流だったと思います。その頃からVtuberは登場していましたが、3Dモデルを用いて企業にプロデュースされたタレントさん的な方が中心だった印象です。
2019年ぐらいからは、3Dモデルよりも導入コストが低く細やかな表情表現が可能なLive2Dモデルに注目が集まっていったように感じます。結果、Live2Dに特化した配信アプリも登場するなどして界隈も賑わい、VTuber用のモデルのご依頼が増えて行きました(企業経由)。
これは2020年頃にちょっと下火になったんですが、2021年には個人の方からのご依頼が増えていき、業界の盛り上がりに後押しされるように企業からの依頼もまた回復した印象です。リアルで人と関わりにくいご時世的なものも影響があったと思います。
今は逆に組み込みモデルのご依頼の方が少なめですね。以前よりもLive2Dを扱える人が増えた結果、Live2Dデザイナーの採用機会が増えて外注に回る分が減ったのかなと思っています。
(※私個人の受注状況に基づく感想であって、業界全体がこうなってる!と言い切るものではないのでご注意ください)
Q.海外の方から依頼ありますか
割とあります。言葉の壁はグーグル先生になんとかしていただいて対応してます。
あえて日本のクリエイターにコンタクトを取ってこられるだけあって、熱意があると言うか、お渡ししたモデルをすごくうまく使いこなしてらっしゃる方が多い印象です。その英語の早口どうやってトラッキング拾ってるのか教えて欲しい…。
私も愛用しているVTube Studioも開発は海外の方ですし、人気や市場も広まっていると聞きます。英語ができる人なら、海外向けに営業をするのもアリだと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
打ち合わせの様子も含めて公開させていただけることって少ないので、私が普段どんな感じでクライアントとやり取りしているかも垣間見ていただけたのではないかと思います。
(※注)今回は最上級にやり取りしてる感じで、普段は【オーダー→(カラー)ラフ→FB(修正やご要望)→再ラフorそのまま仕上げ→確認後納品】という流れになることが大半です。
配信内でも紹介がありますが、『alive 2021』ではLive2Dに関わる様々な立場のプロ達の話が無料で聞くことができます。貴重な機会ですので、ぜひ一緒に参加しましょう!
今回はイラストレーターとして関わらせていただきましたが、Live2Dモデルのご依頼も随時受け付けております。過去のお仕事実績はこちらからご覧いただけますのでぜひご検討ください!
最後になりましたが、『alive 2021』のメインビジュアルに起用してくださったこと、『Live2D JUKU』のゲストとしてお招きくださったこと、株式会社Live2Dの関係者の皆様、改めて本当にありがとうございました!!!!
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