用済み
「それをくれ」
露店を出していると声がかかった。
昏い眼の男が指差す先には大きく頑丈そうな錠前が。
「鍵は要らない」
男は代金を支払い去って行った。
「さてはて」
気になる客だが、詮索は野暮ってもんだ… 残された鍵を玩びながら結論する。
と、後ろから袖を引かれた。
物言いたげな子供がじっとこちらを見上げている。
夕闇が迫る中、男が出て来るのを待って分け入った竹林の奥に土蔵を見つけた。
駆け出そうとする子供の襟首を引っ掴む。
ドオン
ドオン
次いで、えも言われぬ咆哮が空気を揺さぶった。
「開けるか?」
しがみついて首を振る子供の頭を撫で、手の中の物を一瞥する。
「その方が良いやな」
そう言って投げた鍵が、宙空できらりと光を跳ねた。
@Tw300ss 第65回 お題「鍵」 ジャンル「オリジナル」
----------------------------------------------------------------------
Twitter300字ss企画内にて個人的に連作チャレンジ中、今回5作目です。
よろしければ前作も覗いてみて下さい(´-`)
【前のお話:矢立ての水】
https://note.com/1_ten_5/n/n670adaed8356