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1.5(イッテンゴ)
2020年5月2日 22:13
久方ぶりの宿である。 奥の布団からは子供の寝息が聞こえていた。 行灯の明かりの元、男が紙と矢立てを文机に置く。「おっと…」 墨壺が乾いてかちかちだ。 水を貰いに階下に降りたいが、寝入り端の子供を起こしそうで迷う。 懐から白茶けた布包みを出し、中の黒い石を筆の尻でつついた。「水をくれ」 暫く待つと、石の上に水の玉が湧いた。「ありがとうよ」 男は筆先を水に浸して墨を溶いた。 と