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連載小説【揺動と希望】 2−3

 日陰=プラトンは、いま明晰なプラトンが戻ってきている。ネット検索を夕方からずっと続けている。何を見ているかというと、国連のHPだ。そこには国連の機構、目的と原則、施設としくみ、無論国連憲章が掲載されている。


 「国際連合の本部はニューヨークにある。四つの建築物があり、それは39階建ての事務棟、故ハマーショルド事務総長を記念して作られた図書館、会議場、そして総会ビルである。パブリックロビーの東側には、シャガールによってデザインされたステンドグラスがある。これは1961年に飛行機事故で死亡した先のハマーショルド事務総長を記念して、シャガール本人から贈られたものである。光り輝く青の中、花の中から現れた天使にキスされている子どもたちは、天国に召されているのだろうか。その横でもがいている母親たちは、失った我が子を探し求めているように見える。平和を希求する切迫感と祈りがロビーを荘厳な場所へと変貌させている。信託統治理事会にある木の彫像は、デンマークの芸術家であるヘンリック・スタルケによって作られた。「遥かな高みに手を伸ばす女性像」は、信託統治会の活動を考えると、この彫像は独立を獲得する植民地を象徴していると考えられる。「高みに手を伸ばす女性像」を置くその部屋は、建築家であるフィン・ジュールによって設計された。アッシュウッドで覆われた壁は、祈りも怒号も静かに吸い込む」


 「信託統治理事会は11ヶ所の信託統治領が民族自決権を得るまで、信託統治領の行政を監督する任務を与えられた機関である。理事会はその職務が完了したので、その活動を停止し、必要な場合のみ開会することになっている。経済社会理事会の会議室はスウェーデンによって寄贈された。ここは国連本部を設計した11名の建築家から成る国際チームのメンバーであるスウェーデン人のスヴェン・マルケリウスの創案によるもの。各国代表のエリア、手すり、ドアにはスウェーデン産のマツ材が使われている。この部屋の特徴はパブリックギャラリー頭上の天井にあるパイプとダクト。建築家は有益なものは覆わなくて良いと考えた。「仕上げていない」天井は、国連の経済社会活動には終わりがない、すなわち世界の人々の生活状況を改善するためになされることは常にあることを思い出させる象徴であると見なされている」

 国連憲章第12章「国際信託統治制度」第75条から、国際信託制度についての条文が並ぶ。

「この制度は、今後の個々の協定によってこの制度の下におかれる地域の施政及び監督を目的とする」とし、各国は国連の監督下に入るとされる。

信託制度の基本目的は、

「国際の平和及び安全を増進すること」

「信託統治地域の住民の政治的、経済的、社会的及び教育的進歩を促進すること」

「各地域及びその人民の特殊事情並びに関係人民が自由に表明する願望に適合するように、且つ、各信託統治協定の条項が規定するところに従って、自治又は独立に向っての住民の漸進的発達を促進すること」

「人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように奨励し、且つ、世界の人民の相互依存の認識を助長すること」

とされる。

そして「前記の目的の達成を妨げることなく、且つ、第80条の規定を留保して、すべての国際連合加盟国及びその国民のために社会的、経済的及び商業的事項について平等の待遇を確保し、また、その国民のために司法上で平等の待遇を確保すること」。


 「国連の創設者たちは世界に平和をもたらすためには、経済および経済の発展と国際協力が重要であると考えた。国連憲章では、経済と社会の発展のため働き、人権の尊重を世界中で推進することが経済社会理事会の職務であると定めた」


 「総会ホールは国連でもっとも広く、1800名以上を収容できる。この議場は本部を設計した11名の建築家チームにより共同設計された。またこの議場の国際的性格を強調するため、加盟国からの寄贈品は一切ない。総会ホールにおける唯一の寄贈品はフランスの芸術家、フェルナン・レゲールによってデザインされたホール両脇の抽象壁画である。これはアメリカの国連協会を通じ匿名で寄贈された。総会ホールは国連紋章がある唯一の会議室で、紋章は北極から見た世界地図で構成されており、平和のシンボルであるオリーブのリースが周りを囲んでいる。総会は中心機関で、ここでは189の全加盟国が集まり、時代の差し迫った問題について話し合うことができる場である。総会は世界政府ではない。総会での決議は参加国を法的に拘束するものではないが、総会の勧告により、世界中が重要な問題に注目し、国際協力を生み出し、場合によっては総会での決定が法的に拘束力のある条約や協定となることもある」

 「信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によってこの制度の下におかれるものに適用する。

それは、

「現に委任統治の下にある地域」

「第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域

「施政について責任を負う国によって自発的にこの制度の下におかれる地域」。

 そして「前記の種類のうちのいずれの地域がいかなる条件で信託統治制度の下におかれるかについては」、「今後の協定で定める」。それでありながら、「国際連合加盟国の間の関係は、主権平等の原則の尊重を基礎とするから、信託統治制度は、加盟国となった地域には適用しない」。

 

「安全保障理事会の会議室はノルウェーから寄贈され、ノルウェーの建築家、アーンシュタイン・アーネベルグによって設計された。安全保障理事会の会議室でまず目を引くのは、ノルウェーの画家、ペール・クロフが描いた油彩壁画。そこには灰から飛び立つ不死鳥が描かれ、第二次世界大戦からの世界の再建を象徴している。下方部分の暗い不吉な色の上に、よりよい未来への希望を象徴した明るい色で描かれている。皆で分かち合うために穀物を測り分けている人々を描いた部分は平等を象徴していると言われている。壁やイーストリバー側の窓のカーテンに飾られている金と青のシルクのタペストリーは信頼の錨、希望の小麦、博愛の心を表している」

 「国連憲章は安全保障理事会には国際平和と安全を維持する主たる責任があると定めている。安全保障理事会は国連の「緊急救命室」として、平和が脅かされるときにはいつでも会合を開けるよう準備している。1985年に国連創立40年を記念し、アメリカ合衆国の代表として当時の大統領夫人であったナンシー・レーガン夫人より、モザイク画が国連に寄贈された。このモザイク画はアメリカの芸術家、ノーマン・ロックウェルによって描かれた「黄金律」が基になっている。ロックウェルは黄金律が世界中の主な宗教すべてに共通なテーマであることを訴えたいと、尊厳と尊敬を込めてすべての民族、信教、人種を描いた。画には「おのれの欲するところを人に施せ」の銘が刻まれている。ベネチア人が作成した」

 国連憲章第83条において、「戦略地区に関する国際連合のすべての任務は、信託統治協定の条項及びその変更又は改正の承認を含めて、安全保障理事会が行う」とされる。

そして「第76条に掲げる基本目的は、各戦略地区の人民に適用する」

「安全保障理事会は、国際連合の信託統治制度に基く任務で戦略地区の政治的、経済的、社会的及び教育的事項に関するものを遂行するために、信託統治理事会の援助を利用する。但し、信託統治協定の規定には従うものとし、また、安全保障の考慮が妨げられてはならない」

と、安全保障理事会が上位構造物であることを知らしめる

 

 きな臭さが徐々にあらわれる。

「第84条 信託統治地域が国際の平和及び安全の維持についてその役割を果すようにすることは、施政権者の義務である。このため、施政権者は、この点に関して安全保障理事会に対して負う義務を履行するに当って、また、地方的防衛並びに信託統治地域における法律及び秩序の維持のために、信託統治地域の義勇軍、便益及び援助を利用することができる

 いまや、歴史的に戦勝国の思うがままのルールを、恥ずかしげもなく、あけっぴろげに打ち出すのだ。

「信託統治理事会は、次の国際連合加盟国で構成する。信託統治地域の施政を行う加盟国、第23条に名を掲げる加盟国で信託統治地域の施政を行っていないもの、総会によって3年の任期で選挙されるその他の加盟国。その数は、信託統治理事会の理事国の総数を、信託統治地域の施政を行う国際連合加盟国とこれを行っていないものとの間に均分するのに必要な数とする。信託統治理事会の各理事国は、理事会で自国を代表する特別の資格を有する者1人を指名しなければならない」。


 「日本の平和の鐘は、1954年6月に、日本国際連合協会からニューヨークの国連本部に寄贈された。この鐘は、1951年にパリで開かれた第六回国連総会にオブザーバーとして出席した、当時日本国連協会評議員であった中川千代治氏が、「平和への願いを込めて、世界の人々のコインで平和の鐘を造りたい」と訴え、その訴えに賛同した国の代表やローマ法王、その他子どもたちを含む60ヶ国以上の人びとから寄贈された硬貨やメダルを入れ鋳造し誕生した。また鐘楼は、釈迦誕生の花御堂を模ったもの。毎年2回、春分の日と、国際平和デーを祝し、この鐘を鳴らすのが伝統になった。9月21日の国際平和デーに際しては、例年、国連事務総長が、国連幹部、各国常任代表等の出席の下、世界平和を祈念して鐘打式を実施している。1994年、日本の鐘40周年を記念式で、ブトロス=ガーリ国連事務総長は次のように述べた」

 「日本の平和の鐘は鳴るたびに、明確なメッセージを送ってきました。平和は尊いというメッセージをすべての人々に送り続けているのです。平和を願うのにこれで十分ということはありません。平和には努力が必要です。それも長く、つらく、困難な努力です

 

総会ロビーのオブジェはフーコーの振り子で、1955年にオランダから国連に寄贈された。フーコーの振り子はフランスの物理学者ジャン・ベルナール・レオン・フーコーの名を取って名付けられたもので、地球の自転を目に見える形で証明している。この振り子は金メッキされた球(一部は銅)で、75フィートのステンレスワイヤーで天井から吊り下げられている。自在継ぎ手で取り付けられているため、振り子はどの方向にも自由に振れることができる。振り子の下に置かれた電磁石が空気中の摩擦をなくすため、振り子は一律に揺れる。一日を通して、振り子が揺れる方向は地球の自転により変わっていく。この球の周期は36時間45分である」

 「1974年に中国から国連へ寄贈された象牙彫りは1970年に開通した成昆鉄道を表している。この鉄道は中国南部の雲南省と北部の四川省を結んでいる。彫刻は8本の象の牙から彫り出され、98名の職人が2年以上かけて製作した。その細部は驚くほど素晴らしく、列車の中に小さな乗客が彫り抜かれている」

 「国連の庭にはさまざまな国々から寄贈された彫刻や彫像が並んでいる。そのひとつに「剣を打って鋤の刃にしよう」があり、これは1959年に当時のソビエト連邦から寄贈された。これはエフゲニー・ヴチェティチが製作した男性のブロンズ像で、一方の手にはハンマーを持ち、もう片方の手には剣を持ち、鋤の刃に作り変えている。これは戦争を終わらせて、破壊の道具を人類の幸福に役立つ創造的な道具に変えたいという人々の望みを象徴している」


 国連憲章第110条は言う。

「この憲章は、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない」

批准書は、アメリカ合衆国政府に寄託される。同政府は、すべての署名国及び、この機構の事務総長が任命された場合には、事務総長に対して各寄託を通告する」

「この憲章は、中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、アメリカ合衆国及びその他の署名国の過半数が批准書を寄託した時に効力を生ずる。批准書寄託調書は、その時にアメリカ合衆国政府が作成し、その謄本をすべての署名国に送付する」。

 「国連事務局は、世界各地の国連事務所で働くすべての国籍を代表する職員で構成され、多岐にわたる国連の日常業務を遂行する。世界の各地で働く職員の数はおよそ4万千人で、国連の他の主要機関に役務を提供し、それらの機関が決定した計画や政策を実施する。各部局からなり、それぞれの部局は明確な行動領域と責任を有する。その長となるのが事務総長で、安全保障理事会の勧告に基づいて総会が任命する。国連の本部はニューヨークにあり、3つの地域事務所がそれぞれジュネーブ、ウィーン、ナイロビに置かれている。それぞれが事務総長を代表する事務所で、その中にある各種国連機関に行政、一般的、その他の支援サービスを提供する。国連ジュネーブ事務所(UNOG)はニューヨークの国連本部に次ぐ大きな事務所で、会議外交の中心であり、軍縮と人権のためのフォーラムである」


 だからといって、眠っているばかりではないというところを、国連憲章は訴える。

「安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる

「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」。


 「国連ウィーン事務所(UNOV)は宇宙空間の平和利用に関する事業を管理し、薬物や犯罪に関する事務所の本部となっている。国連ナイロビ事務所(UNON)は国連と地域機関との協力を進め、環境と人間居住に関する活動の中心である。事務局が行う任務は、広範で多岐にわたる。それは平和維持活動の管理から国際紛争の調停、人道援助計画の組織から経済的社会的動向の調査、人権や持続可能な開発に関する調査から国際協定の土台作りにまで及ぶ。事務局職員はまた、国連活動についての情報を世界の報道機関、各国政府、非政府組織(NGOs)、調査研究・学術ネットワーク、そして一般市民に提供する」

 

「世界的な重要性を持つ問題について国際会議を開催し、国連公用語で各国の代表が行う演説を通訳し、会議文書を翻訳する。また、情報交換の場ともなる。これらの職員および事務総長は、国際公務員として世界の国々のために働いているが、その活動についての責任は国連に対してのみ負うもので、他のいかなる国家もしくは機関に対して負うものではない。また、いかなる政府または国連以外のいかなる当局からも指示を求めかつ受けないと誓う。同様に、各加盟国は、国連憲章の下に、事務総長と職員の責任のもっぱら国際的な性格を尊重し、彼らを不適切に左右するようなことはしないことを約束する。現在、日本には20を超える国連諸機関の事務所がある」

 

「国際連合の目的」は、次のとおりである。

「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること」

「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること」

「経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」

「これらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること」

 ラス・カサスからはじまる国際法制定の契機は、多民族殺戮と奴隷的支配という血塗られた源から生まれている。血塗られた街道、そこを這いずりながらやっていた先には、結局、勝った者が正義というなんとも寒い取り決めの中でしか動けない世界が待っている。しかしそれでも、殺戮が正義であった古代に比べれは少しはマシというものか。プラトンはため息をつく。


 ※参考:国連広報センターHP・国際連合憲章テキスト 


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