連載小説【夢幻世界へ】 4−6 媒介者
【4−6】
ジャック・イン。夢幻世界へようこそ。遠距離の潜入で少しタイムラグが見られる。しばらくすると目の前の風景が確定し、身動きが良くなる。ベロニカとケートルは学生服を着た高校生だ。街の繁華街を夜遅く徘徊している。
「バック・イン・ザ・ジャパンね、実際に行ったことはないけれど」
「イッツ・イージー、おお、魑魅魍魎がうようよいるぞ」
繁華街の裏通りには、昼間現れない、露悪趣味なイマージュたちが漂っている。
「『ピンクのモーツァルト』ってブラジャーをしている大臣、片手がロケットになっている小学生、メキシカンハットをかぶった陰茎、裸の菩薩観音、なんじゃこりゃ。欲望が素のままではないか」
「ほおっておきましょ。このあたりじゃなさそうね。ミスティの居場所はサーチできてる?」
「微弱な電波だが繋がってる。北東だ。ああ、まどろっこしい、動きが遅いな、自分の意思とタイムラグがあるぞ」
「増血剤を呑みなさい。少しはましになる」ベロニカはウオッカを呷った。
「イマージュには表象(映像)がないものもいる。変な話だが、情動だけの塊も存在するというのを聞いたことがある。このむさ苦しいのがそうなのか」
「これは単純にこの裏通りの小便臭さを再現しているの。そのための人材も公務員として雇用しているらしいわ」
北東には学校があった。カレッジ、専門学校か専科大学風の清潔な校舎にベロニカたちは忍び込む。
終わりの見えない廊下にいくつもの教室が並んでいる。教授室、と書かれた部屋があるので大学か。校舎外には花壇が広がり、こじんまりとした中庭にはビオトープがある。
「日本国憲法の理念に沿って生み出されたこのエリアの知的機関は、設立の当初から学際的・横断的な運営を目指し設立された。ことここ、京都教養大学の場合は、最高の知識を広く庶民に向かって開いていくことを目的としている。真夜中の訪問者よ、私の講義が聞きたいのかえ」
「でた」
「私はこの学校の教師だ。教師である前に人間(ホモ)だ。ホモ・サピエンス「賢い人」、ホモ・ファーベル「工作人」、ホモ・ルーデンス「遊ぶ人」、ホモ・シンボリクス「象徴を司る人」、ホモ・ピクトル「描く人」、ホモ・デウス「神になる人」、ホモ・モルタリス「死すべき人」、ホモ・ロクエンス「コトバを話す人」、ホモ・デメンス「錯乱の人」、ホモ・ソムニアーンス「幻視の人」、ホモ・カンターンス「詩と呪文を唱える人」・・・そのどれでもあるしどれでもない」
「今日、私は夢の中で病院に行き、口の中にできた細かい腫瘍を取り除いた。痛くも痒くもなかったが、それにより、私は回復したのだ。だから私は無敵だ。君たちが私を倒そうとしてもそれは無駄に終わる。なぜならいまここにいる私はいまここにいる私ではないからだ」
「おい、大丈夫か、こいつ。ベロニカ、早いとこケリをつけようぜ」ケートルは自動小銃を取り出す。
「言ってることは無茶苦茶に聞こえるけど、じつはそうでもなくってよ。こいつは幻よ。撃ってみて」
小銃が火を吹く。弾丸はその教師を素通りした。
「かかかか」教師は声を出して哄笑した。
「イマージュについて語らなければならない。外部である君たちが私にどのように関わり屈服させようとしているのか知らないが、ここにおけるイマージュについて的確な理解をしていないと、君たちの行く末は暗闇の墓場だ。難しいことをしているわけじゃないんだよ、ただ、精神と物質の間、中間子、媒介者としてイマージュがあり、ここはその媒介者が主人公になっておる世界なのだ。私が講義ができるとすれば、その媒介者についてであろう。聞いていくかね?」
「ベロニカ、ずらかろう。とどまる意味がない」
よろしければサポートお願いいたします!更に質の高い内容をアップできるよう精進いたします!