連載小説【夢幻世界へ】 2−8 最後の砦
【2‐8】
「ここが最後の砦よ。もう後が無いわ」
「やんなっちゃうわ、どんだけ光が来るのよ。受けきれないわ」
瞬きをする暇も無く、暗闇を照らす光の矢が、粒子をまといながら豪雨のように降り注ぐ。
「あきらめなさい。あなた達に逃げ場はないのよ。もう終わりにしましょう。(ペンタゴンに頼んで)核となる精神構造だけは地中奥深くに保管しておいてあげてもいいわよ。けれど保管期間(の150年)が過ぎれば破棄されるけどね、ふふふ」
「このあばずれが。おまえもただの幽霊みたいなものじゃないか」
「ご挨拶ね。もうあなたの記憶素子は半分こちらでいただいているわ。人格がなくなるのも時間の問題よ」
「やらせない。やらせないわ」
一気に紅く光り輝き、その熱量を上げた彼女1は、敵1に向かって飛び出した。衝突の煌めきが走る。それはまるで暗黒に瞬く花火のよう。彼女22は防御のマントラを唱える。一定レベルのバリアが現出するが、完璧ではない。
「脱出経路は閉ざしたわ。この限定空間の中では、あなた達(日本)のパラメーターは認識されない。こちらが優勢よ」
「もう、いいじゃない。あなたたちが大事に抱えているものは、人類の歴史で言えば失敗作なのよ。そう、原始共産主義や協同社会主義、ガンジー主義、博愛と平等を掲げた思想は儚いまぼろし。結局ひとの欲望の前にひれ伏すことになるの。ちょっとばかり上手くいったからって、えらそうに世界の覇権を握ろうとしたってそうはいかないわ。どうせ長続きはしないのだから、私たちが早めに墓場を用意してあげようって言っているの。しぶとくあがこうなどと考えないほうが幸せよ」
時空現出エネルギー量が消耗していく。バリアが息耐えるのは目前だ。
最強と言われた彼女1の消耗も。
何かいい方法、いい方法は。
「たいしたものじゃないけど、あなたたちがもっているその鍵を、われわれは亡きものとしたいの。邪魔なの。その鍵がなければ、世界は今まで通り平和で嫌らしく、悲劇と喜劇が入り混じった豊かな世界を維持できるの。清純なんて要らないのよ。それが人間らしい世界ってものでしょ?」
「ちがう。おまえの言っているのは嘘だ。おまえたちはただ、今ある自分たち、過去からある権益を守ろうとしているに過ぎない。そして自らの獣欲を拡大しようとしているに過ぎない。もし人類が悲劇と喜劇を繰り返す存在なら、その権利はすべてのひとに等しく与えられるべきだ」
「馬鹿ね。経験にも格差があるの。その格差が人類を進歩に結びつけ、今日の我々があるのよ。格差や差異を否定する思想に革新はできないわ」
徐々に彼女22のバリアが収縮する。
彼女1が言う。
「私を盾に使って」
「ばか、そんなことしたら、あなたは永遠に失われるわ」
「何を言っているんだ、それでは戦ってきた意味がない」
「意味はあるわ。あなたがまだ生きてる」
彼女1はいっそう澄んだ瞳で「彼」を見つめた。
「あなたが生きている限り、希望はある。それは種の希望でもあり、私たち、私の希望でもあるの」
「そんなことは、、、させない」彼女22が絞り出すようにつぶやく。
「あなたがいなくなったら、私はどうやって生きていけばいいの」
「だいじょうぶ、22、あなたは勁いわ。私は知ってる」
狂騒を伴いながら、邪悪な光線が3人に降り注ぐ。
「嗚呼、心地いいわ、断殺魔の叫びのなんと美しく、はかなく、いとおしいものでしょう! 今日は最良の日だわ」
「やっとこれで追撃が終わる。鍵なんてあなたが崩壊してからでも再生し、取り出すことはできるの。我々に安寧が訪れる、その時はもうすぐだわ」
光の圧力が極限に増大し、最後の集中砲火(光)が放たれる。
3人に光群が到達すると思われたその時、
「◼!!!あARUるBEKIべきYOUようは!!!◼」
彼女1が雷鳴とともに咆哮した。
光の硬化が起こった。彼女の周囲に石化した膜が広がり、集中砲火(光)は弾き飛ばされながらメリメリと石化する。彼女1自身も石化を始める。「彼」と彼女22が膜の中で守られ、押し込まれる。
「今よ! 跳んで!」彼女1が鋭く叫ぶ。
「いやよ!」
22が彼女1の腕を掴み、ぐっと引き寄せる。
「雲雀HIBARIを追え!」
22が吠える。漆黒の闇が破れ、空間に裂け目が現れる。
裂け目めがけて3人は一気に飛び込む。
「待て!」「待ちやがれ!」「行くな!」「逃すもんか」
裂け目が閉じるほんのわずかの時に、邪悪なものから放たれた冷たい触手が彼女1を貫く。後悔と怒りと驚愕が色をなして飛び散る。
永遠に続くかと思われた瞬間が終わり、弱々しく触手が元の鞘に収まる。邪悪な者たちはその熱量を下げ、存在を儚いものに移行していく。
「呪いの言葉をあなたにあげる、それは
『辛い幸い』
不幸も幸福もあげない。この呪いは永遠にあなたを縛る」
静まる空間の中で、邪悪なもの1が口惜しそうにつぶやく。
✳
3人は暗黒となった有意味的極限限定空間から消滅し、違う時空間(ここではないどこか・存在の無秩序の領域)に、抜け出した。
石化した彼女1を抱きかかえながら、22は長い間、泣き止むことがなかった。
号泣を、止めることができなかった。
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