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読書ノート 「草地は緑に輝いて」 アンナ・カヴァン 安野玲訳

 1958年に刊行された本書は、カヴァンの八冊目の著作、作品集の三作目にあたる。十三の中短編集である。


「草地は緑に輝いて」

 主人公は旅先で必ず不思議な草地と出くわす。草地はいつも輝く緑で、その草葉より光が発せられるように見える。それは攻撃的ですらある。滑車装置にぶら下がりながら草を刈る草刈り人は異様だ。しかしその仕事には大いなる栄誉と特典である補償金が与えられる。

 草木はあらゆる境界を侵食し、無限に拡大しようと虎視眈々と狙っており、それを抑え込む作業が代々伝統として続けられているらしい。たかが草木がそのような力を持つとは奇怪である。馬鹿馬鹿しい妄想であると主人公は考えるが、果たして本当に妄想なのかと思い返す。なぜならその草木の眩く光がその思いを揺るがす。関係がないはずのその草木と自分がいつの日か逃れられない関係になるだろう。草木は待ってる、いつものように。


「氷の嵐」

 長編「氷」を彷彿とさせる冷気と寒波のなか、人生に絶望した主人公の心象風景と外界がリンクする。

民主政、民主主義者の、デモクラシー、デモクラット、デモクラットによる、デモクラットのためのデモクラシー。列車のスピードが上がる。デモクラシー、デモクラシー、デモクラシー。線路の切り替えポイントをいくつか通過する。デモク、デモク、デモク」「ああ、安心感をなくし支えをなくした人生がこんなにつらいものだとは

この孤独はわたしの孤独だと、そう思った。わたしはこの氷の世界に存在するただひとりの人間なのだ

「逆立つ松葉で身を鎧って首を垂れる木々は、ドラゴンの、恐竜の、弓なりになった首にも見えた。体操幻想的な姿だった。幻想的で寂しかった」

「列車のなかは暑すぎるほどだった。わたしはじっとすわってニューヨークへと運ばれていった。ほとんどなにも考えなかった。なにも決めようとしなかった。すべてを成り行きにまかせるのがいいような気がした。どんなことに対しても下すべき決断はあまりにも多く、決断を下すための価値観は決して不変ではなかったから

 
 カヴァンの手にかかれば、辛い心情を吐露するだけでも幻想小説は生まれる。


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