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連載小説【夢幻世界へ】 2−9 脳天気な世界

【2‐9】


「私たちの魔力は私たち自身の中から生まれ、育つ。だからその『まじないことば』は自分自身のものでないといけない。私たちひとりひとりの、他とは違う本質を示す「イマージュ」、「ことば」、「名」と言ってもいいかもしれないけれど。それを見つけるのも修行のひとつで、成し遂げるのは大変なの。安易に考えて大きな怪我をした人をたくさん見ているわ。並大抵の苦労ではできないものなのよ。古来『まじないことば』が秘密にされ、大事に隠されるのはそのためなの。あなたも、自分自身の大事な『ことば』を『まじないことば』とし、それを育みなさい」

「つまりは自分の言葉を探しなさい。手垢のついた、不活性化された概念ではなく、生き生きとした言い回し、それがどんなものかは今は言えないけれど、それを発することでベクトルがマイナスからプラスになるような、そんな言葉を探しなさい。そのためには物質的想像力を身につけながら、経験をもとに、退っ引きならないものを、大事に、大事に、使いなさい。そうすることで世界は彩りを取り戻すでしょう」

「人生は短い。だからこそこの一瞬を大事に生きるのよ。あなたのことが好き。その気持ちをいま、ここで伝えなければ、次はないの。ほんとうに、あなたのことが好き。どうすればこの想いが伝わるのかわからないけれど、これだけは自信を持って言えるわ。あなたのことが好きなの」

「縁起がどうだろうと知ったことじゃないわ。私は私、好きにやる。情動が私にとっては全てよ。ついてこれないなら別に構わないわ。どうしてもあの「邪悪な彼女」を亡き者としなくてはいけない、それだけよ、私の願いは」

彼女1は、私の相棒だった。恋人だった。母親でもあった。その彼女1が被った痛み、悲しみ、失意を、私は忘れない。たぶん死んでも忘れない。それくらい、私の傷になっているの。ほとんど存在意義よ。それをもってこれから私は生きるのよ、あなたもそうでしょ」

「ほぼこの物語は私のアンビバレントな感情を描くのが主題となり始めているわ。彼女1の愛情が向かうベクトルは、私ではなく、あなただった。それが私には許せなかった。でもあなたは、非の打ち所のない「」だったのよ。あなたへの愛と憎しみでわたしは燃え尽きそうだった。だからこうしていじいじとあなたを虐めているのかもしれないわね、ふふ、ごめんね」

「私たちは幸せな世界で生きていると思うわ。バシュラール先生の描いた世界で暮らせているものね。私たちは知ってる、バシュラール先生の凝固したコトバによるイマージュの世界が、実は虚無の崖の淵でなんとか漂っている儚い世界だということを。あたたかく柔らかい枕の夢の世界だということを。オプティミズム達の能天気な世界だってことも。でもみんな、それでいいと思っているのよ。それでイかれてしまってもいいと思っているのよ」

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