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読書ノート 「現代精神分析の基礎理論」 小此木啓吾

 1984年初版の小此木啓吾の論文集。本文の八割を占める「精神分析論」では、フロイトの理論を精神病理学モデルを整理し、その概要を顕わにする。フロイトの発展的進化として、自我心理学、社会文化論的自我心理学の流れを確認し、エリクソン、クライン、ウィニコットの理論を概観する。「精神分析の起源」「対象喪失と『悲哀の仕事』の観点からみた躁とうつ」では、フロイトの父親の「喪の仕事・悲哀の仕事(morning work)」を源とした思考創出を追いかける。
 
 ここでは、その流れを汲むであろう小論「フロイトの夢判断とその理論の現代的可能性」についてまとめていく。
 副題は「メタサイコロジー・対象関係論、両者の源泉として」。

「フロイトにとって、彼独自の夢判断の方法の確立と夢理論の形成が、最も決定的な仕事であった」と小此木が述べるように、いまだに夢分析理論は広大なる思想荒野を広げ、ソシュール・ラカン以降もさまざまな発展進化を遂げながら、それでもなお、未だに走破されることのない人類の未開拓の思想地平である。
 この小論は、次のように段落づけされている。


①夢判断の方法の独自性─顕在内容と潜在内容の対応関係の解明

②夢理論における願望充足と夢の仕事

③夢には一定の意味がある

④夢判断はフリース体験における自己分析の中で発展した

⑤夢の自己分析によって自らのエディプス・コンプレックスを洞察した

⑥夢判断は、悲哀の仕事(morning work)の所産である

⑦フロイトの夢は、対人的コミュニケーションの機能を担っていた

⑧夢の睡眠保護機能は、攻撃性と不安が一定の閾値を超えると破綻する

⑨夢の機能は、どのようにして生成されるのか

⑩母子コミュニケーションに夢の起源がある

⑪母子コミュニケーションにおける願望の形成

⑫夢の機能と病態水準

ちょっとしたまとめを付す。

①夢の映像的表現(顕在内容)を、自由連想によって潜在内容の存在を発見、顕在内容と潜在内容の対応関係を明らかにし、顕在した夢(意識過程)が潜在的思考(無意識課程)を象徴する機能をそなえている事実を確証した。

②夢理論の基本テーゼ「夢は願望充足である」を確認する。

③「夢には一定の意味がある」ということをフロイトは発見した。このことにフロイトは自身の最大の功績であると自負していたらしい。

④1896年の「イルマの注射の夢」におけるフロイト自身の夢の自己観察を、友人のフリースとの語らいによって、夢判断の方法を発見・確立した。

⑤このフリースとの夢の自己分析の中でフロイトは、自身のエディプスコンプレックスを発見。それはフリースへの「転移」による攻撃的な「行動化」を産み、最終的にはフリースとの友情そのものの破綻という結末になる。まあ、なんともである。フリースを失ったことで起こる悲哀と自責の念が、以後のフロイトの思考の出発点となる。

⑥『夢判断』第二版序文で、フロイトは以下のように述べる。

 「『夢判断』は私自身の自己分析の一部であり、また、私の父の死、すなわち一人の人間のいちばん重要な事件、一番悲しい喪失に対する反応である」

「悲しみによる思考」という部分では、家族を次々に無くしていく悲しみを抱きながら哲学した西田幾多郎を想起させる。

 小此木は言う。
「つまり、フリースとのフロイトの夢の自己分析は、失った父の再生を願う心理から、父をしのぎ、父の死を願う衝動の洞察に向かい、父に対する愛と憎しみのアンビバレンスの体験を経て、罪悪感と償いの心理に至る一連の抑うつポジション(クライン)の課題を達成するプロセスであった」。
 この父への抑圧された位置への願望とアンビバレンスな体験は、その後の著作『トーテムとタブー』で概念づけられる。

⑦フリースとの体験を経て、フロイトは「夢は聞き、解釈し、伝達する」を繰り返すことで大きく変化するということを発見した。つまりは相互コミュニケーション次第で判断内容が変わるということであろう。これは精神水準でいうと正常レベルの神経症的なところで蠢くコミュニケーションであり、後で出てくる境界例や高次の分裂病症では異なる。

⑧「夢の睡眠保護機能は、攻撃性と不安が一定の閾値を超えると破綻する」とのこと。これは体験的にも納得できるテーゼですな。あんまり不安すぎたり、怖かったりすると、がばっと見が覚めるじゃないですか。そういう感覚。続く思考として「この夢の仕事、ひいては夢を見つづけることの機能はどのようにして発生し、形成されるのか」になる。これは無論解明されているわけではなく、今後解明されるかも定かではない。

⑨「夢は退行」場所的、時間的、形式的な退行である。

「一次課程・二次課程に順序付ける」
 一次課程…一度生じた満足の経験の記憶を幻覚的に再生し、知覚同一性を求める根源的な心理活動から発するもの。この心的機能は、ひたすら快感原則に従って動く。
 二次課程…さらに自我、とくに運動・言語活動が快感原則に出会い、自我がこれに順応する課程で生ずるもので、ひとつの回り道を経て、再び満足対象の現実知覚があらわれるように、運動・言語機能によって外界を変化させる。つまりそれは、そうした回り道を経ることができるようになって成立する精神課程。この二次課程による一次課程の支配が、抑圧の成立と密接に結びついている。

⑩夢を話す・聞くという構造を、母子の相互作用・コミュニケーションモデルとなぞらえ、夢判断理論の準拠枠とする。

⑪一次満足の再現が「願望」である。この願望は、しばしば幻覚的な満足を求める方向に動く。

⑫先程も言及したが、各病態の水準によって、快感原則・願望・一次課程自体が異なる。境界分裂病などでは、攻撃性願望形成はある程度行われているものの、リビドー的な願望や一次課程そのものが未発達・未形成な夢が問題になる、つまりは出来上がっていない。


 一般的に精神分析というと、自分が意識していなかった心の底の欲望(無意識)を知ることで精神理解が進むということであろうが、そのきっかけがフロイトの場合は「父の死」によるこころの動きの分析であった。そしてそれは人間の精神の源泉に踏み込む方法として、広き共有性があったということ。ゆえにそれは理論的強度の高さを維持することができるのだ。

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