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読書ノート 「増補 普通の人びと」 クリストファー・R・ブラウニング 谷喬夫訳

【ちくま学芸文庫 概要】

「私は努力し、子供たちだけは撃てるようになったのです。」
 ―35歳の金属細工職人

 ごく平凡な市民たちは、いかにして大量殺戮者となったか。ユダヤ人虐殺の知られざる実態とその心理的メカニズムに迫る戦慄の書。
 薬剤師や職人、木材商などの一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊。ナチス台頭以前に教育を受け、とりたてて狂信的な反ユダヤ主義者というわけでもなかった彼らは、ポーランドにおいて3万8000人ものユダヤ人を殺害し、4万5000人以上の強制移送を実行した。
 私たちと同じごく平凡な人びとが、無抵抗なユダヤ人を並び立たせ、ひたすら銃殺しつづける―そんなことがなぜ可能だったのか。限られた資料や証言を縒り合わせ、凄惨きわまりないその実態を描き出すとともに、彼らを大量殺戮へと導いた恐るべきメカニズムに迫る戦慄の書。原著最新版より、増補分をあらたに訳出した決定版。


以下、フラグメントにとどめます。読むべし。

「大隊内で最大のグループは何であれ要求されたことを実行した人々である。彼らは権威筋と対立する重荷を背負いたくなかったし、臆病とも見られたくもなかった。しかし彼らは殺戮に自発的に志願したわけでもなければ、殺戮を祝ったわけでもなかった。感情が麻痺し狂暴化してくるにつれて、彼らは人間性を奪われた犠牲者を憐れむよりも、彼らに負わされた「不快な」任務ゆえに自分自身を憐れむようになったのである。彼らはたいてい、自分が悪いことないし非道なことをしているとは考えていなかった。なぜなら殺戮は正当な権威によって認可されていたからである。たいてい彼らは考えようとさえしなかった。それがすべてである」

「現代世界では、戦争と人種差別がどこまでも跋扈しており、人々を動員し、自らを正当化する政府の権力はますます強力かつ増大している。また専門家と官僚制化によって、個人の責任感はますます期薄化しており、仲間集団は人々の行動に途方もない圧力を及ぼし、かつ道徳規範さえ設定しているのである。このような世界では、大量虐殺を犯そうとする現代の政府は、わずかの努力で「普通の人々」をその「自発的」執行者に仕向けることができるであろう。わたしはそれを危惧している」

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