発明 #ショートショート

勤勉とは彼のことを言うのだろう。
生まれてこのかた両親に逆らった試しもなく、教師に迷惑をかけることさえなかった。
周りの友達と遅くまで遊ぶこともなく、毎日毎日机に向かい、勉強に励み続けた。

有名な進学校へと入学し、両親の望み通りの成績を取り続けた彼は、ごく当然に最高学府を卒業し、若手の中でも一目置かれる博士となった。大学からも期待され、若手ながら研究室を与えられた。

「さて、これから何を研究していこう。ここまで幅広い分野で学んできたが、果たして私の本当に知りたいものとは何なのだろう」
彼はこれまでの人生を振り返り、本心から知りたいと思えるものは何かを考えた。

「そうだ、あったぞ。私は今の今まで、女性の裸というものを見たことがない。風俗と呼ばれる場に足を運んだこともなければ、とうぜん女性とデートをした経験もない。研究書で見たことはあるが、あれはいかんせん色気とやらを感じない。雑誌や映像でならあるものの、もっと直接的に見てみたいのだ。この肉眼で。特に隣の研究室にいるあの学生の身体を何とか見ることはできぬだろうか。とはいえ、覗きなんて真似をして、もし捕まってしまっては」
彼は、今後の日本を背負う博士らしくもない悩みに頭を抱え、中学生ばりに異性の肉体への興味を一気に募らせはじめた。

「そうだ、洋服を透視できるデバイスの研究というのは、どうだろうか」
その小学生並みの思いつきは、震わすほどに彼を突き動かした。

それから彼は研究に没頭した。これまで学んできた全ての知識を総動員し、寝る間も惜しみ、女の裸を見るためだけに手足を動かした。

失敗に失敗を重ね、彼はついに傑作と呼べるものを完成させた。
「さて、ついにこのときが来た。ここまで、なんと長かったことだろう。例え周りの教授たちに唆されようとも風俗に行かず、ひたすら作り続けてきた甲斐があった。いや、まだ本当に完成したか分からぬ。最終実験だ。どれ、隣の教室に行ってみるかな」

彼の衝動を駆り立てた女学生は、もはや大学を卒業していたが、モチベーションを保たせるような女学生は別にいたため、彼は何とか研究を続けてこれた。
彼女を見つけ、少し距離をとり、彼は眼鏡型の装置をかけた。

「なんだ。全然見えないぞ、どうなってる。そんな馬鹿な。それに一体なんだ、この宙に無数に浮かぶ虫のようなものは」
女学生の裸は一切見えなかった。かわりに、その装置を付けると、謎の小さな物体が無数に浮かんで見えた。
彼は研究室に戻り、裸が見えない原因を考えた。あれこれとデータを調べ、過去の研究書にも目を通し、何度も装置を付けて外し、ある結論にたどり着いた。

「これは、何とも恐るべき発明をしてしまったかもしれない」

女の裸を見るために、洋服を透視するための装置を開発していた彼が偶然にも作り出したのは、原子を肉眼で捉えることのできる装置なのであった。
もちろん、彼の発明はすぐさま学会で発表され、彼の名は世界中で知られることとなった。

テレビや新聞、雑誌など、メディアで彼を見ない日はなかった。
研究室に戻る暇すらなく、毎晩メディアの関係者と遊ぶようになった彼のもとには、当然のように数々の女性がおしかけた。

彼は、好きなだけ女を裸にすることができるようになったのだった。

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