邪智暴虐の王

王様の耳はロバの耳、
というわけではなかったが、
その王様は国中の自分に関する噂を
全て耳にすることができた。

また、誰がどこでどんなふうに
自分のことを語っているのか、
彼は非常に関心を持っていた。

産まれながらにして王様である彼は、
他人と対等な扱いを受けたり、
また対等に接せられたりすることを
忌み嫌っていた。
友はなく、必要とも考えていなかった。
対等な接し方をされると、
自分の地位が脅かされているかのように錯覚し
不安で仕方なくなってしまう。
だから彼は、残酷なまでに
多くのひとを処刑してきた。
それは女も子どもも例外ではなかった。

いつしか彼の噂の大半は、
彼に対する恐怖心に関するものばかり。
また彼は、それが心地よく思えていた。

圧倒的な恐怖。
それが彼が安心するための
唯一のクスリだった。

恐怖から生まれる忠誠心。
彼の残虐性に拍車がかかった。

もはやそこに、
対等な関係性の片鱗を見せる者など
ひとりもいなかったが、
彼の恐ろしい行動は
止まることを知らなかった。

いつしか、
国民の全てが死んだ。
残っていたのは、彼の家族や、
動物くらいのものであった。

彼は止まらなかった。
殺虫剤をまき、罠を仕掛け、
それらから逃げ延びた動物たちも
一匹一匹彼の銃で撃ち殺された。
動物たちは、全て死んだ。
それでも、彼は止まらなかった。

彼の家族は、恐れた。
毎夜毎夜、彼の目の動き、
息遣い、足音に震えていた。

彼は、止まらなかった。
家族が怯えるほど、朝が清々しく感じられた。

家族は、全て死んだ。
祖父母も、父母も、妻も、
彼の息子たちも、娘たちも、
そして孫たちも、全て彼に殺された。

もはや、誰もいなくなっていた。
彼以外に呼吸をする者などなく、
彼以外に心臓の動いている者はいなかった。

ようやく、彼は止まった。

彼の地位は、もはや誰と比較するものかも
分からない。
しかしそんなことよりも彼は、
自分のことを怖ろしく感じてくれる者が
誰ひとりいないことが辛く思えた。

「わしを怖れる者は誰もいない。
わしは、どうしてこんなことになるまで、
殺し続けたのだろうか」
そう言って、彼は自分のことが怖ろしくなった。

最後まで読んでくださり、ありがとうござました! 映画や落語が好きな方は、ぜひフォローしてください!