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閑話:「学校×楽しい」で脳内に〈検索〉をかけてみる:オートエスノグラフィーの話

今から、あなたに質問をします。
Googleで知りたいことばを検索するように、
あなたの頭に向かって検索をかけてみてください。

ひとつめ。
「学校」、「楽しい」。
この2ワードで脳内検索をかけて、どんなことが浮かんできますか?
どの「学校」という縛りはありません。あなたの脳内からふと湧き出てきたことは何でしょう?

ふたつめ。
「結婚」
結婚ということばを脳内検索にかけると、どんなことが浮かんできますか?

まずはエスノグラフィーのお話から。

エスノグラフィーをご存知ですか?
日本語では〈民族誌〉と訳される。ある物事を対象にして調査をするとき、その対象の集団に入り込み、密に時間を共にすることで、深い理解と観察が行える。そんな調査手法や学問のことを指す言葉なんだって。

これってマーケティングにも応用ができるらしい。
例えばある町のA駅周辺のマーケティングをするときに、実際にA駅周辺に移り住んで暮らしてみる。その町の主婦と同様に「子どものいる主婦」として時間を過ごし、いつものお買い物の場所や噂話を一定期間「その町の人」として共有する。そうすると次第にA駅の暮らしが〈エスノグラフィー〉されてきて、より密度の濃い市場調査が行えるというわけ。

「調査」というからには、事実に基づいた客観的なデータや調査結果が求められる。
けれど、〈エスノグラフィー〉は調査対象の内側に、調査員がそのまま生身で入り込む。
もちろんその濃密さは比類ないメリットなんだけれど、同時に大きなデメリットもある。それは、調査員自身の価値観や特性などに、調査結果が「歪められる」可能性があるっていうことなんだ。

これまた例えばで、極端な話だけど切り取ってみます。

A駅周辺に調査に入った調査員は、22時には寝る習慣がある。となると、22時以降の「マーケティング」はできない。子どものいる主婦、として調査を行なっているから、単身者や子どもを持たない家庭への「自分とは違う」感覚がある。比較的身長の低い女性であるため、身長の高い人の目線と同じものは見えてこない…などなど。

データの客観性を担保しようとしても、どうしても調査員の特性が反映された調査結果にならざるを得ない。そうすると、データはどうしても「調査員の目を通した〈主観的フィルター〉を含む調査結果〉にならざるを得ないのです。

オートエスノグラフィーも紹介。

この問題を解決するため、いま研究者さんたちは〈オートエスノグラフィー〉という探求の取り組みを始めています。
これは〈自己エスノグラフィー〉〈自伝的民族誌〉とも呼ばれていて、〈エスノグラフィー〉しようとする自分自身にかかっているフィルターにしっかり向き合い、それを自覚した状態で調査に臨もうという取り組み。

上の例でいうところの、「22時に寝る」「子どものいる主婦という立場に共感しやすい」「平均より身長が低い」「女性である」なんかがそのフィルターに当たるのかな…きっともっと細かい枠でも大枠でもいろんなフィルターがあって、そのフィルター自体を研究対象にするのが〈オートエスノグラフィー〉なんですって。

「学校・楽しい」で脳内検索 のはなし

ここで最初の質問に戻ってお話をするのだけれど、
「学校」「楽しい」で脳内検索して、どんなことを思いましたか?

ちょっと例を出すと、「小6の3月ごろ、忘れ物か何かをして一人で放課後の小学校に入った。その時のこと思い出した」って答えた人がいました。
また別の人は、「文化祭の準備中に、真っ暗な体育館で部活のみんなと寝転がっていた時のこと」を思い出したと話してくれました。

「学校」って、人それぞれの価値観が出ることばです。みんな違う時間を過ごしてきたし、社会通念としての「学校」の意味だってけっこう変わってきたでしょう?
あなたの人生においての「学校」だって小中高だけじゃないでしょうし、「学校」でどのくらいの時間をすごしたのか、ひとりとして同じ人はいないはず。周りと「学校」の感覚を共有した人もいれば、周りとは違うぜ!の人もいるでしょう。
「楽しい」も同じで、どんなシチュエーションで「楽しい」と刻まれているのかに個性が現れてきます。人といっしょなのが楽しい人もいれば、一人が楽しい人もいるし、人相手じゃなくてものごとに楽しみを見出した人もいる。

「学校・楽しい」、あなたの脳内から浮かんできた物事は何でしたか?
そしてそこに現れている、あなたの「フィルター」はどんなものでしょう?

「結婚」で脳内検索 のはなし

順に読んでくださったかたはお分かりの通り、
「結婚」も価値観が滲み出るキーワードです。

「結婚は墓場」「結婚はゴール」みたいに、「結婚」が何かの代名詞として湧き上がってきた人がいました。みんながよく言っていることばが、そのままその人の価値観になったということが見えてきます。
「結婚はしあわせなもの」「結婚は重大なもの」みたいに、結婚の形容をことばにする方もいました。「しあわせ」「重大」みたいな言葉って価値観そのもの。結婚をどのように評価しているかがことばとして現れてきています。
他にも、「結婚と聞くと、最初の新居が浮かぶ」という具体的な時間・空間の話をしてくれた人もいました。自分の人生の一部に「結婚」が結びついていますね。

あなたの脳内検索で浮かんだものごと、言葉はどんなものだったでしょうか?

こういう、人それぞれの価値観が出てくることばを思いついた時に、人とおしゃべりする。そうすると本当に口々に多様なことばが出てくるので、私はすごくウキウキするのです。
「人がみんな違う」という出来事は、私にとって「好奇心を注ぎたくなる」ワクワク感を湧き起こしてくれるものです。これもまた価値観で、祖母は「人がみんな違う」ということを非常に嫌がる人でもありました。家族だからといって同じ価値観になるとも限らないし、他人なのにみょうに価値観が似通っていることもあって、そういう物事に出会うのは非常に刺激的です。

さいきんは、「学校」「楽しい」「結婚」が、分岐多めのキーワードとしてマイブームなのでした。閑話休題!

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