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異動の話

「ほんとうですか」
私が他店舗に異動すると伝えると、パートさんが泣きながら寂しそうに言った。
プッシュ式ボディクリームを出す時、どれほど射精感を演出できるか試行錯誤する私にここまで懐いてくれるなんて。




内示の電話を上司から貰った時に、「当日は誰にも言っちゃいけないから」と念を押されたにも関わらず、今の店を離れる寂しさで売場に戻った瞬間泣いた。
パートさんは困惑、隣の店の人から慰めの煎餅を貰った。


店長の私が休憩から戻ったら泣き始めるなんて怖すぎるので、禁止令が出てたが異動の事情を説明した。
1人のパートは泣き出し、もう1人は「お茶入れますね」と気を利かせたが手が震えお茶がびちゃびちゃ。
客が寄り付かない。





1年前に死ぬほど飲み、二日酔いで早番出勤をした日があった。
私は二日酔いが酷いと半日はゲボを吐く癖があり、この日も吐きながら店についた。
家では常に間に合わないので、部屋のゴミ箱に吐いてる。存分に引いてください。


出勤前にロッカーで制服に着替え、吐き気が止まらなくなり御手洗を探した。
当時はロッカーの場所が変わったばかりで最寄りの御手洗が分からなかった。


階段を昇り降りしながらフロアを彷徨い続けた。
人が近づく音がしたので、すれ違う前に階段の床に吐いて「おはようございます」と何事もなく挨拶。
胃液でびちゃびちゃになった階段。水を零した雰囲気を装う私。





そんな風に顔が白く酒で喉が焼けた出勤を、たまにした。
気に入らない客や従業員がいれば、あいつは出禁だと喚き散らした。
「次同じことしたらキレますからね」と脅迫紛いの教育をした。

厳しくて口が悪くて怒りやすい地獄の化身である私についてきてくれただけで、十分嬉しい。




ここまで書いて気づいたが、もしかしたらパートさんのあの涙は、鬼店長の異動に歓喜した涙だったのではないだろうか。

短く勢いよくボディクリームを出すと射精っぽい、と向上心剥き出しにしている場合では無いかもしれない。





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