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従業員の視点から見た自社株購入:持株会を通じた投資のメリットとデメリット

多くの企業が従業員に対して持株会の形で自社株の購入を推奨しています。この制度は従業員にとって、基本的には資産形成に有利なものを提供しますが、一方でリスクも伴います。
この記事では、従業員が自社株を購入する際のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット

・企業と従業員の連帯感の強化
自社株を保有することで、従業員は自分が働く企業の成功に直接的な関与を持つようになります。これは、職場のモチベーション向上に繋がります。愛社精神を育むことにも繋がります。

・経済的利益の可能性
多くの企業は奨励金を出します。奨励金とは、従業員が自社株を購入する際に会社が一定割合の金額を上乗せしてくれ、その分、株式を多く購入できる仕組みです。企業が成長すれば株価は上昇し、従業員は株式からの配当や売却益を得ることができます。また、企業が成長すれば、賃金の上昇も期待でき、株価と賃金の上昇で大きな恩恵を被ることができます。

少額から購入できる
一般的な最低拠出額は1000円程度になっており、毎月一定の金額で購入でき、ドルコスト平均法で長期的に積み立てることができます。

デメリット

・リスクの集中
自社株に大きく投資することで、ポートフォリオの多様性が失われ、自社への依存度が高まります。企業が経営危機に陥った場合、従業員は職を失うだけでなく、投資した資産も大きく減少する可能性があります。

具体例を通して学ぶリスク

自社株購入のリスクを具体的に理解するためには、過去の事例を振り返ることが有効です。特に、1997年の山一證券の破綻と北海道拓殖銀行の破綻は、従業員による自社株に偏ったポートフォリオの危険性を浮き彫りにしています。
山一證券は、かつて日本のトップ証券会社の一つとして数えられ、多くの従業員が自社株を保有していました。しかし、帳簿に載らない債務「簿外債務」が拡大し、資金繰りが行き詰まるとの判断から自主廃業を決定しました。
北海道拓殖銀行もまた、巨額の不良債権を抱えて経営破綻しました。戦後初めて起きた都市銀行の破綻は衝撃を与えました。
これらの事例は、従業員が自社株を購入する際のリスクの集中に対する警鐘となります。
特に、自社株がポートフォリオの大部分を占める場合、そのリスクは非常に高くなります。職を失うのと同時に持ち株の価値がゼロに等しくなる二重苦に陥る可能性が高くなります。
このようなリスクを軽減するため、投資の分散化を図ることが、リスクを軽減する上で重要です。

従業員に優しい企業と株主に優しい企業が一致しない場合もある

自社株購入を考える際、従業員がしばしば直面する誤解の一つに、従業員にとって良い企業が必ずしも株主の価値を最大化しているわけではないという事実があります。
企業が従業員に対して高い給与や充実した福利厚生を提供することは、働く環境を改善し、従業員の満足度を高める一方で、短期的には利益の一部を投資に回せない可能性があり、株主にとっては必ずしも最適な選択とは限りません。例えば、企業が新しい技術や市場開拓に投資する代わりに、従業員の給与や福利厚生に多くの資金を使うと、その企業の成長が鈍化する(株価は短期的には上昇しない)可能性があります。長期的には従業員の満足度の向上が生産性の向上につながり、結果として株主価値を高めることもあり得ますが、このプロセスは時間がかかるものです。
一方で、株主に優しいとされる企業では、短期的な株価の上昇や配当の増加に焦点を当て、それが従業員の待遇や職場環境の改善に影響を与えることがあります。
従業員が自社株を購入する場合、企業の経営方針が長期的に自身の利益と合致するかどうかを慎重に評価する必要があります。
従業員と株主の目線で企業を評価することは、異なる視点から見ることを意味します。投資判断をする際には、自社株の購入が自分のキャリアや財務状況、そして長期的な目標に適合しているかどうかを総合的に考えることが重要です。

まとめ

従業員が自社株を購入することは、企業との連帯感を高め、経済的な利益を享受する機会を提供しますが、その一方でリスクの集中などのデメリットも伴います。過去に起きた山一證券や北海道拓殖銀行のような経営破綻の事例は、自社株に偏ったポートフォリオのリスクを明確に示しています。また、従業員に優しい企業が必ずしも株主の価値を最大化しているわけではないことを理解することは重要です。
従業員が自社株を購入するかどうかの決定は、個々の財務目標、キャリア計画、そしてリスク許容度に基づいて慎重に行うべきです。
リターンとリスクを十分に理解し、分散化されたポートフォリオを維持することが、資産形成において重要になります。

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