見出し画像

IDS Lecture Summary ~Week 20~

Outline
①White Saviorism in development studies
②Peruvian Amazonia destruction with road and cattle 
③Participatory interventions in Paraguay context
④Prolonged refugee problem in Palestine
⑤Evidence-Based Policymaking in Chinese agriculture

White Saviorism in development studies
今週は春休み前駆け込みで6件メンバーズセミナーがあったので授業内容ではなく出れた5つをピックアップ。1つ目のトピックは白人救世主主義についての本の出版に際した講演。2020年のジョージ・フロイド殺害に伴う人種差別騒動以来、世界は進歩的な欧米諸国と呼ばれる世界のほとんどで人種差別の実態に直面し、植民地化した者と植民地化された者の間に根付いた植民地主義や人種差別の遺産を前面に押し出している。過去は前者を悩ませ、後者の多くにとっては、過去はまだ現在に至るまで続いている。開発・援助セクターは第2次世界大戦後南半球の多くの国々で正式な植民地化が終わった結果生まれたため、この分野自体が植民地主義を模倣していることが多く、豊かな西洋諸国が政治的・財政的な権力を持ち、援助プログラムを通じて、かつての植民地支配者に従属する劣等な特権を持つ国々への影響力を持ち続けている。「ドナー」「経済支援」「技術移転」「安全保障」「同盟」と巧みに言葉を変えて政治的勢力圏を維持拡大し、被援助国側が援助に対する平等な決定権を持てない状況を産み出している。それぞれの正義がぶつかり合う中、この本では「受益者」(この言葉自体が激しく論争され、ずれたものであるが。)が自分たちの開発・成長に対してどのような見解や認識を持っているかに耳を傾けることが大事と締めくくっていた。援助プロジェクトにおける主権の考え方は、インパクト評価、参加型開発、権力構造分析などこれまで重点的に勉強してきた内容が現在考えれれる対策になりうる。同様の長期的対立が国内、性別、産業内でも見られることから、分野を超えためそーどの共有と実践を継続することが重要だと思う。

Peruvian Amazonia destruction with road and cattle
アマゾンエリアのアクセス改善のための道路建設がもたらす正負のインパクトについてのエスノグラフィーの発表。先住民居住地域の開発援助については南米社会の大きな課題の一つであり、生活水準の向上という観点でもアクセス構築は最優先課題の1つと言える。道路ができることによって「交流」が生まれ広がることは家畜や農産物の売買を活性化させ、第二次第三次産業の誕生による就業機会拡大になることが予想された。その一方でこれまでの伝統的地理関係や産業構造、安全保障を大きく変えることによるマイナスの影響についてもアプローチをしないといけない。そうした仮説とリスクの下道路の開発が始まったのが2001年ごろ、そこから20年ほどの地域の変化を追った研究内容だった。教育、保健医療、情報技術(ネットや携帯など)に関してはインフラ整備の効果が著しく正のインパクトをもたらした。その影響による人口流出は確かに見られたが、そのことをマイナスに感じる住民は少ないという。一方で道路に関しては建設よりも維持修繕、環境に対するルール作りや取り締まりなどにより多くの費用と人手を要するため、その負担を自治州レベル、住民レベルが担うことは経済的なプラスを上回る負担ではあるようだ。政策レベルでの対応として、平等な富と権利の分配の「平等」をどのように定義し公的資金によって実現していくか、また開発セクターとしては起こりうるインパクトをどのような観点で捉え軌道修正なり加速を投入として行うかが重要であることが今回のメッセージやったと思う。

Participatory interventions in Paraguay context
パラグアイの地域格差是正のための取り組みについて、こちらも中長期的な開発プロジェクトの運営についての議論。2009年のプロジェクト開始時に対象住民に貧困の定義を決めてもらいそこに対してアプローチを行う参加型開発がとられ、始動時からからモニタリング評価が行われた点でも画期的であった。印象的だったのが、その定義が年代によって特徴が分かれること、そして10年後だと同年代でも異なる回答が集計されること。こうなるとベースラインの情報の十分さが揺らぐのかと疑問に思ったが、細かくフェーズを分けて対応することや軌道に乗った地点でアクティビティを地元組織に分配し業務として取り込んでもらうことで対応したとのこと。参加型開発の難しい点はすべての意見を取り込むことはできず集約する必要がありそのプロセスも理解してもらうことと、あくまで限られた予算や人材、スペースでしか動けないこと。その点ではアジェンダベースでHidden powerが働くInvited spaceにカテゴライズされ、完全な民主化でないケースが多い。課題⇒改善によってプロジェクトが形成される中、質的質問から数的根拠を絞り、改めて質的な改善に向けた目標設定を行っていくプロセスが重要だと感じた。

Prolonged refugee problem in Palestine
22-23シーズンIDSイベントで最も人が集まったイベント。パレスチナ問題については以前の研究テーマだったこともあり事前知識としては入っていたが、主張として印象的だったのが「パレスチナはもはや自治州ではなくイスラエルの植民地であり、難民として権利なく生きている状況である」という言葉。これまで自治区への入植に関して国際社会は一貫して国際法違反だとの立ち位置を取ってきたが、トランプ政権の違反ではないという発言によって入植数が格段に増え、中東においては大変貴重な水資源へのアクセスの奪取を筆頭に自治区でのパレスチナ人の生活難が顕著になっている。パレスチナ人に対しては人種・民族・国籍を理由に、電気・水・教育へのアクセスを制限し、インフラ構築や住環境の移転拡大を禁止される制度的差別をわきに、続々と好立地を入植者が占めていく状況が現実にある。イスラエル側の主張は一貫して「もともと古代は自分たちの土地だった」「パレスチナ人の存在は政治的・治安的に危険である」「パレスチナが国として存在した期間はなく、侵略には当たらない」のニュアンスが強いが、それらは差別的な政策を正当化する理由にはならないとプレゼンターは強く主張していた。ユダヤ人差別、三枚舌外交、シオニズムなど複数の歴史的要因が絡み国際社会・各国政府も積極的に関わることが難しい中、特にイスラエルとかかわりの強いEU諸国とアメリカが、彼らのイスラエルへの投資や経済保護が差別的な施策を支援し結果としてパレスチナ人を苦しめていることを認識させることが講演や研究の意義であるとの力強い言葉があった。

Evidence-Based Policymaking in Chinese agriculture
社会主義国である中国だが、伝統的な農村を基盤としこれまで小農民的農業が根幹を占めていた中国の農業体制の流れに、資本制農業(利潤動機で動く農業、資本主義的農業)が加わり、大きな変化を見せている。広大な国土面積と人口を誇る中国農業だが、その規模は全盛期と比べると人口がピーク時の半分にまで減り、農業従事者の高齢化も進んでいる。根拠は十分ではないが、二次・三次産業部門と比較すると、一次産業に属する農業は低学歴者が担う産業であるとの認識が、一人っ子政策によって子供の教育レベルが上がり、その因果関係もあって急速に若年層の農業離れが進んだことも仮説としてある。生産性の向上により生産量に大きなマイナスは見られないが、中国カロリーベース食料自給率は75%程度に落ち込んでいるとのデータもあり、中国共産党の大きな柱である施策である食料自給が揺らぐ危険性があった。そのためこれまでの個々に主権を持って農業収益の自由な処分権を保証された農民的農地請負制度から、品種改良・農業機械化・灌漑率の向上・農業専業合作社経営の多角化や農業生産に参入などの政府による農業への積極介入に舵を切ったとみられる。この農村土地請負法の改正に関しては村単位での投票によって(パワーバランスで否決の可能性はゼロに近かったが)民主的に行われた。持続可能な農業の在り方について検討するにあたって、政策レベルでのマーケット強化や生産技術への投資はフードセキュリティの観点からマストになりつつある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?