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200515 今こそ考えたい「予防医療」の重要性 ~ミャンマーの無医村地域で活動中の MFCG が目指す、自立したコミュニティーの構築 ~



 NPO 法人ミャンマー・ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)は、巡回医療・保健衛生指導・家庭菜園支援の3つの活動を軸に予防医療を行っている。新型コロナウイルスの感染対策で医師が現場を回れない現状においてもそのシステムは機能し、オンラインでアドバイスを受けながら住民リーダーを中心に活動を継続している。開発途上国で現在課題となっている緊急医療のキャパシティと自立したコミュニティの構築への取り組み例として、MFCG の活動に注目する。

住民が予防の必要性を理解してもらうために

 なぜ予防医療が重要なのか。MFCGの代表を務める名知医師は次のように答えた。「病気になる前に防ぐ。誰もが当たり前のようにその重要性を理解していると思いきや、「健康」という見えない幸せの状態の中、見えない敵に備えることは実はとても難しい」。国境なき医師団の一員として緊急医療の現場で活躍した経験を持つ彼女は、2008 年からミャンマーで活動を開始。現在は ミャンマー南部ミャウンミャ付近15 の無医村地域を対象に予防医療を行い、年間 8000 人の住民と関わる。

 この地域では、以下の三点が長年の医療問題として挙げられている。1つは医師不足や病院へのアクセスの影響で患者の症状が重いこと。2つ目は回復しても生活環境の衛生状態・栄養状態が悪く再発のリスクが高いこと。3つ目が病気・栄養に関する住民の知識が低いことだ。この状態ではどれだけ医師が適切な治療を行っても病気の数は減らず、根本の問題解決には至らない。

 そのため「病気になったらより多くのお金がかかる」と根気強く語り掛け、手洗い・うがい・歯磨きといった保健衛生の基礎的な知識を伝えるところから活動がスタートした。巡回医療や保健衛生指導を通して住民たちとの対話を繰り返し、長い時間をかけて予防の習慣化にとりくんだ。

家庭菜園支援活動の様々なメリット

 MFGCの活動で特に力をいれているのが家庭菜園支援だ。魚介類やエビなどを塩辛い味付けにして食べることの多い地域のため、野菜を中心にバランスのいい食事をして病気にかかりにくい健康な体作りを進める必要があった。

 まず農業の専門家を講師として招集し、無農薬野菜を育てるためのノウハウや土づくりをレクチャーした。そして直接専門家から指導を受けた住民がリーダーとなって周りの人にも技術を伝え、出納帳を用いて全体の生産を管理も行う。この住民参加型の手法は、コミュニティ内の人と人のつながりが強い地方部では特に力を発揮するといわれており、この地域もそれに当てはまる。

 菜園は予防医療の観点以外でも住民にメリットをもたらしている。1つが栄養に対する意識の向上だ。対象の地域では学校給食がなく、TV・ネットが普及していないため栄養の知識を得ることが難しい。そのため野菜の育て方のほかに、栄養に関するセミナーも定期的に開催した。

 参加者の多くは一家の食事を支える女性たちだ。作ったものを与えるのではなく作り方・食べ方を学ぶことで、より持続可能なプロジェクトとして機能させることができる。現に彼女らは次々と他の野菜の栽培やそれらを使った献立にチャレンジし、食生活を豊かにしている。

 もう1つのメリットは、作った野菜や料理を売りに出すことによって各家庭の収入が増えることだ。ボランティアとして活動を支える女性スタッフは、「自ら育てた野菜を売ることで多い時は 1 日 300 円ほどの稼ぎを得ることができ、これは農村地帯の平均日収に匹敵します。これにより女性が自らお金を稼ぐことで家庭内の地位も高まり、一家の暮らしの安定と貧困脱却への足掛かりとなってくれれば」と答えていた。

 このことは地域の女性の地位向上にもつながる可能性があり、予防医療と女性のエンパワーメントを掛け合わせた新たな開発援助の方法だといえる。

より自立した社会を目指して

 ミャンマーでは 3 月上旬に新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための活動制限が始まり、MFCG の医師たちも出張医療の制限を受けている。その中でも、現地に残ったスタッフや住民リーダーに向けてリモートで感染病対策の勉強会や手作りマスク・シールドの作り方をレクチャーしている。

 菜園の野菜についても同様にオンラインでアドバイスを送る。このような緊急時にも円滑なコミュニケーションが取れているのは、普段から自立したコミュニティーの構築を目指し住民の意識改革を行ってきたことが大きい。

 住民たちの目線から見ても、自ら考え健康に普段の生活を営んでいるのは、通常時から病気の予防と自立の必要性を理解し、習慣化できている結果だといえる。パンデミックという緊急状態の中、人・モノのリソースが不足する開発途上国の医療にとって重要なのは、まさにこの「普段からの準備と意識」がどれだけできているかだ。

 一人も取り残さない社会の実現に向けて、MFCG の活動やその理念は大きなカギとなるかもしれない。

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