短編小説「魚の夢」

小さな魚たちが遥か高く頭上を泳いでいる。
まるで自由に飛び回る小鳥のように。

自分も昔はああだったとしみじみ思いながら
空を飛ぶ小魚達をただじっと眺めていた。

俺は体を動かそうとおもい
尻尾のほうから力を入れようとするが
やはり体が動かない。
俺はオヒョウ。
体長5メートルもある
大きな鰈だ。
ここ最近は大きくなりすぎて思うように体が動かないのだ。
ここまで大きくなるのに20年はかかっているので歳も関係している。無理もない。

今日も自由に泳ぎ回る他の魚を羨望の眼差しで見ながらうとうとしていると
夢を見た。
その夢の中で俺は自由に泳ぎまわり
色々なところへ行く夢だった。
深い洞窟の中へはいっていき中にいるちょうちんあんこうと仲良くなったり、チンアナゴ達の上をひらひらと泳いで
からかってみたりと、とにかく自由に泳ぎ回れる気持ちのいい夢だった。

ふと目が覚めると目の前には大きな蟹が目をまんまるにして俺のことをみていた。
「あ、やっと起きたんだね。
すごく楽しそうな夢を見ていたようだね。」

「うるさいなー
せっかくいい夢を見ていたのに、、、。

そんなことより話を聞かせてくれ」
このなんのへんてつもなさそうな蟹はこうはみえても色々なところを動き回ってじょうほうを集めているのだ。

「今回収穫があったのはウツボの体に住み着いてる小海老からの情報だが
どうも隣の岩場に住み着いていたべつのウツボが急にうえに引っ張られていなくなったらしい。」

「またか、、、最近はその類いの話ばかりだな。」

「ああ、だがやはりそこにいたやつが急にいなくなるのがなんともかなしくてなあ。」

そんなことを話していると
俺の目の前ににひらひらとしたものがゆっくりと落ちてきた。

「だめだ、我慢ならん。美味そうだ!」
俺はそのひらひらしたものにおもいっきりくらいついた。

その瞬間俺の身体がふわっと浮き上がり、何かの力でうえに引っ張られた。
同時に尾びれをバタバタとさせた。

その水圧でかにが吹き飛ばされる。

俺は久しぶりに ’‘泳ぐ’‘という
感覚を味わった。
「やったぞこんなに自由に動き回れるのはひさしぶりだあ!」


もしかしてこれが仲間達を連れて行った力なのか!?とそこで思い出した。
この後上になにが待っているんだ?
今まで仲間達を連れて行ったこの力の正体を知りたいと思った。

「確かめてやる。」

そのままその力に身を任せると
その先には小さな船に3人の人間が乗っていた。

俺は思いっきりジャンプして船の上に上がり力の限り暴れてやった。
最初のジャンプで1人を尾びれで思いっきり打ちつけてやり、海の中へ落とした。
2人目は釣竿を持っていたのでじぶんのかかっている釣り糸でぐるぐる巻きにしてやった。

その時おれの口からはりが外れたのでもう1人人間を残して海に逃げ込んだ。

その後俺はひらひらとまたうみのそこへ落ちていった。

海底についてからは直ぐにカニのやつがトコトコと近づいてきた。
「おい!だいじょうぶなのか!?」

「ああ。うえで久々におおあばれしてやったよ。」
と言うとおれはニッと笑ってみせた。
「やっぱり自由に動き回れるのって最高だな。」
それからと言うもの俺の周りで仲間達が連れて行かれたという話は聞かなくなった。

俺はというと相変わらずただうとうとししたり
カニと仲良く喋ったりしながら楽しく暮らした。





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