文月郁葉
三本足の異形の彫刻との生活記録(?)
疎まるる自覚のあれば夕まぐれひとりつきりの原野へ帰る 文月郁葉
灯火はひとりひとりへ灯されて沈黙のレクイエムを聴きをり 文月郁葉
眼の奥の波打ち際を月よぎり君が虚構と呼ぶなら虚構 文月郁葉
生ハムは紅く透けをり祝日の新宿BERGの賑はひやまず 文月郁葉
自助といふ単語さぶしも踏みはづす不安なきもの湖面のごとし 文月郁葉
後ろ手に扉閉めれば背後から聞こえてしまふ幽か潮騒 文月郁葉
十代のくるしき眸(まみ)が狩らるるをTOHOシネマズ横(トー横)或いは雑踏の森 文月郁葉
増えてゆくピアスの数に目を伏せて去りゆく風と思はずにゐた 文月郁葉
岬へは寄らないバスと知つたとき誰かの肩を借りたくなつた 文月郁葉
てのひらの今治みかん皮を剥くまではわたしのランタンだから 文月郁葉
歩くと決めて歩けば清し/ inhibition/必要ならば止まる速さに 文月郁葉
次郎柿、西宇和みかん並びをり青果売場に暖色灯る 文月郁葉
頭痛ーるは爆弾低気圧を告げなづきに繁る針葉樹林 文月郁葉
推しながら詠み詠みながら推してゆく星は流るるときさへ光る 文月郁葉
四季報の栞をレジより貰ひきて挟めり歌集まあたらしきに 文月郁葉 #tanka
後ろ盾は欲してをらず秋風に前へ前へと吹かるる言葉 文月郁葉