純喫茶でトーストを食べた話

  先日、近隣の純喫茶へ行く機会があった。普段はドトールやサンマルクなど、いわゆるチェーン店を利用することが多い。純喫茶も利用することはあるのでハードルが高いわけではないが、やや値段が張るので基本的に友人と行くときなどに利用機会は限定される。

 その日は、いつも利用するチェーン店がいずれも混雑していた。平日の昼間ということで一見すると当たり前に思われるかもしれないが、駅から若干離れているので、地方都市だとこんなものだろうと思う。これは困ったと商店街を物色していると、件の純喫茶へとたどり着いたわけである。

 その店のコーヒーは400円だったので、チェーン店と比較すれば高額な部類だろう。この値段であれば一番高いサイズが注文できる。普段であればコーヒーだけで済ませるところ、せっかくこのような店に来たので、トーストも注文してみた。

 トーストの値段は200~250円くらいだったと思うが、具体的には思い出せなかった。こちらはどの店でも大体これくらいの値段だろうと思う。しばらく店内で待っていると、コーヒーとトーストが運ばれてきた。

 このトーストが思いのほか美味しかった。1枚の食パンが半分にカットされているのだが、その1/2枚の中央に切れ込みを入れ、その中に固形バターをうずめた形だ。勿論表面にもバターが塗ってあるが、その残りをはめ込んだのだろう。口に入れるとそのバターが一気に溶けてパン生地を内から浸食していった。この感覚がたまらなく美味だった。表面に塗ったバターの塗り具合も絶妙であり、それだけでも十分楽しめたが、埋もれた固形バターが口の中でその食感に追い打ちをかけた。食パンがとろける感覚というのを味わったのは、後にも先にもあのときが初めてであろう。

 さらに、トーストにはゆで卵もついていた。他の店ではどのような提供形態かは分からないが、このトーストにゆで卵までついて200円弱であれば安いものであろう。もちろんコーヒーも美味しかった。

 結果的に、最初はたまたま見つけたというだけで入った純喫茶を、随分満足して出た。改めて考えると、純喫茶はチェーン店とは異なる時間の流れ方や雰囲気をしていると思う。年齢層は高く、流れる音楽もやや古め。向かいの席では老人がパイプたばこをふかしながらスポーツ新聞に目を通し、別の席では老婦人が井戸端会議に華を咲かせていた。間違いなくそこに流れる時間はゆったりとしたものであり、そんな中で、現代の時間の流れに呑まれて動作がせわしくなった異物といえば僕くらいであった。

 しかし、何か作業をするための空間を求めているのであれば、たまにはこのような純喫茶に手を出してみるのもいいかもしれない。チェーン店のような喧噪が襲うわけではないし、ゆっくりと流れる時間の中で集中しやすい環境が整っていると思う。僕自身も、その日やりたかったことを知らない間に終えてしまっていた。

 もちろんチェーン店が悪いというわけではないし、若い自分はやはりいっときの時間にかける費用は安くしたいものである。しかし、たまには気分を変えて、敷居が高そうな店へ飛び込んでみてもいいのではないだろうか。きっと自分なりの発見があると思う。

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