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『局担』 #1

普段は打ち合わせに使われている、フロアの真ん中を占めるオープンスペースは、テレビ局から贈られた嵩の高い花束で左右を囲まれ、今日はその内側を覗き込むのが困難なほどだった。 コーヒーを片手に打ち合わせに興じている、クリエイティブやマーケティングの部署の人間たちをよそに、胡蝶蘭の鉢々で描かれた白線の内側には、濃色のスーツに身を包んだ男たちが、厳かに集いつつあった。オープンスペース奥のスクリーンに向かって左側、ちょうど花の香りが鼻をくすぐるあたりに位置する僕の席からは、花と花の隙間

    • 『UNFORGIVEN』 (仮) #1

       夢を見るような感覚で水面を見上げていた。息を吐くタイミングとともに背中のボンベが水底にぶつかり、硬いコンクリートの質感を伝えてくる。僕は座椅子に寝そべるようなかっこうで仰向けになり、頭上からくらげのように降ってくる男女の裸の足を眺めていた。ウエットスーツを着ない肩の肉に食い込んだビーシーのナイロン製の紐が、柔らかく身体を包む水のなかで、一つだけ確かな感触を与えていた。  手の甲をつつかれて身体を起こすと、マスクに覆われた宮倉先輩の顔がすぐ近くにあった。僕は驚きで自分のレギュ

      • 『局担』 #3

        ガラス張りの大きな会議室には、内側から隈なくブラインドが下ろされていた。白くて薄い布は天井の光を反射して眩しかった。 「で? 仕上がった局は?」 武田は小さな円を描きながら、虫のように歩き回っていた。人の数だけが多く、動きの絶えた会議室は空気が澱み、ネクタイが息苦しい。 「……局長、申し訳ありませんが、ヤハタの件は全局引き続き交渉中となっています」 相馬が、ささやくような声で述べる。 武田は、表情のない顔で小刻みに頷くと、テーブルに収まりきらずに捨て置かれていた目の

        • 『局担』 #2

          年末が近づくと、さくらテレビへ向かう電車は、満ち足りた顔つきの家族連れやカップルの姿でいっぱいになった。日没が早まり、地下から地上へと飛び出す瞬間のカタルシスはいくらか失われてしまったものの、代わってクリスマスの到来を告げる電飾が東京湾のあちこちに煌めいて、人びとを待ち受けるようになった。 たくさんの子どもたちが座席から身を乗り出し、さくらテレビの赤いランプを指さして、楽しそうに顔を見あわせていた。恋人たちはきまって二人掛けの席に陣取り、「あれがさくらテレビだよ」「大きいん

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        『局担』 #1