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読書譚8「こうしたら病院はよくなった!」

【こうしたら病院はよくなった!】

2005年2月1日 初版発行

著者:武 弘道

発行所:(株)中央経済社

▽読書譚8

厚生労働省の調査によれば、2021年9月末日現在、日本国内には8,205の病院と、104,461の診療所が存在しています。

この本が出版されたのは2005年ですが、このときの調査では9,026の病院と97,442の診療所の数が同調査では報告されています。病院の数は減少の傾向ですが、診療所の数は逆に増えていることが分かります。

世界と比べて日本の病床数が多いということ、またこの病床数が多いという供給事情が、一方では不必要な需要を生んでしまっているという見方もあることは以前から言われていました。

すでに少子高齢化の時代に突入している日本ですが、社会保障費の先行きは以前から懸念されており、病院から地域へ、在宅へという流れが生まれた背景の一端がここにあります。

▽内部の運営は硬直化してはいないだろうか


この本には、著者の武先生は医師という立場から公立病院の経営に携わり、病院改革を内部から進めてきた過程が記されています。
ただこの本を読んで、15年前と今も状況はあまり変わっていないことから、制度的な硬直化があることを感じずにはいられませんでした。

もちろん、地域医療連携推進法人制度の創設など新たな政策が打ち出され、複数の医療法人がホールディングスのような要領で(正確には違います)連携する形が可能になるなど変更点もみられていますが、公立病院の多くが硬直化した体制から抜け出せないまま、累積欠損金を積み上げている現実があります。

このことは、以前私が担当してるメルマガ「☆キラリと光る☆ 病院マネジメントのヒント」で取り上げたことがあるので、コチラ ↓ に当時の資料を添付したいと思います。興味のある方はダウンロードしてご覧ください。





▽見えない溝や壁を埋めるのは誰か


病院は医師を筆頭に、看護師や薬剤師、理学療法士等々多くの専門資格を有した集合体である一方で、事務方は専門的資格とは一線を画していることから、なんらかの見えない溝や壁があることが見受けられます。

専門職間でも、それぞれの立場と意見の相違から同様の印象を受けることがあります。

そこで、院長であったり看護部長や事務長であったりが、部署間の意見を吸い上げて集約し、病院の考えとして消化あるいは昇華していくことが求められる訳ですが、院長も看護部長も現場の仕事で忙しかったりすると、この機能が果たせないことから、部署間の溝と壁は埋まらないまま日々が過ぎていくことになります。

著者の武先生は、「院長業は全精力を経営・管理につぎ込むぐらいの覚悟がないと、うまくいかないものである」と本書のなかで述べています。

また「病院職員へのアドバイス」という項では、院長はじめ、事務長や看護師、技師といった職種ごとへのアドバイスが記されています。

専門職というプロフェッショナルを目指して日々取り組んできたなかで、時が経ち気がついたら自分が年長者となり、図らずも望まない形で管理職に就任した人がいたとしても、自らの役割を認識し動かなければ組織は機能しないことは認識する必要があるように思います。

リーダーというのは孤独ではあるけれど、誰かがやらなければ現状を変えることはできない。流れに身を任すことを軽蔑はしないとしても、力を蓄えたのちは自ら泳ぎ出すことをしたい。そんなことを本書を読んで考えていました。

▽おわりに


備忘録的ではありますが、印象に残った言葉をいくつか残して、この投稿を終わりにしたいと思います。

  • 改革が成功するか否かは、その職場で働く職員の意識がかわるかどうかで決まる。

  • 職員の考え方を変えるには管理者と職員が直接話し合える機会を持たなければならない。

  • 著者は毎週2時間程度の時間を割いて講演を行い、質疑応答を行った。講演の内容は、例えば病院の経営内容を他の病院と比較しどこに無駄があるのか、どこを改善しなければならないかなどを説いた。

今日もどこかで、誰かが現状を少しでも良くしようと戦っている。
一人ではないということだけは心に留めておきたいと思っています。

2021.12.10 阿部 勇司

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