【雑感】2024年J1リーグ 第1節 対横浜F・マリノス~新たな物語の幕開け~

東京ヴェルディ 1-2 横浜F・マリノス


スタメン

 ヴェルディは新加入の翁長、見木、山田楓喜、木村がスタメン。昨季不動レギュラーSB宮原が負傷により間に合わなかったため本職DHの稲見が右SB起用。システムは城福サッカーの代名詞である1442で臨む。
 対する横浜FMは新加入のポープ、渡邊がスタメン。中盤は喜田を底にしてその前にIH2名並べる昨季とは違う配置で14123システムで臨む。ポープ、渡辺、ベンチ入りした加藤は古巣対戦となった。

前半

 93年開幕戦の再現として注目を浴びた一戦には極寒の雨模様にもかかわらず国立競技場には53,000人を超える観衆を集めた。試合前には川淵三郎による感動的なスピーチもあり舞台は整った。

 大観衆の熱気に包まれたなか立ち上がり良い入りが出来たのはヴェルディだった。1442をベースに敵陣へアバウトなボールを蹴り込んでいくと、右サイドの楓喜が起点になりいきなりCKを獲得。その次の攻撃では裏へ走り木村に上島が並走しポープも反応しPA外までダッシュすると、ポープのハンド?木村がポープを背負うようにポストプレーをするとを倒されてFKを獲得。新加入の見木と楓喜が左右のキッカーに並ぶ。今季のヴェルディはこの2人がファーストチョイスになるのだろう。蹴る気満々だったのは京都から加入したパリ五輪代表候補の山田楓喜。左足から放された鋭いボールはそのままゴールネットを揺らし、若さ溢れる緑が先制する。昨季の昇格立役者・中原の穴を埋めることを期待させるような山田楓喜の鮮烈なデビューはサポーターの心を鷲摑みにしたことに違いない。

 テンション高い一戦で幸先よく先制に成功したヴェルディは勢いそのままに強度の高い守備~ショートカウンターが嵌る。ボール非保持時1442のヴェルディに対して横浜FMは2SBに高い位置を取らせるように12143となる。ヴェルディは2トップ染野と木村がアンカー喜田を消すようにマークを受け渡しながら2CB上島とエドゥアルドへプレス。強力3トップには水沼には翁長、エウベルには稲見、アンデルソンロペスには林と谷口栄斗の2人で対応。ヴェルディは喜田ら中盤の選手へのパスコースを消すようにミドルゾーンで構えながら、ライン設定もハイラインにすることで、中盤にボールがつながりづらく、上島とエドゥアルドからサイドに蹴らせる展開を誘い出す。左は齋藤と新加入の翁長の連携で、右は稲見が蓋をして横浜FM自慢のサイド攻撃に蓋をした。特に光ったのは右SB稲見の対人守備能力の高さだ。エウベル相手に持ち前の体幹の強さを活かすように身体を寄せてスプリントをさせないような守り方をみせて本職とは思えない素晴らしいパフォーマンスを披露した。

 ヴェルディがボール保持時は横浜FMは山根をトップ下にして森田晃樹or見木を消すように守り14213で構えるもこの状況はほとんどなかったので、ここでは深く言及しない。前日の磐田対神戸でも見たようにマイボールを落ち着いて回す場面がほぼ見られなかったのは相手のネガトラの速さや守備時の立ち位置、身体の向きの上手さがあっただろう。
 それもあったがこの日のヴェルディの狙いとしては、ボール奪取すると手数をかけずに矢印を横浜FMゴールへ向ける。相手陣形を見て間、間に齋藤や染野が上手く顔を出してライン間でボールを貰ったり、攻撃参加していたSB裏を狙い目しスペースを活かすショートカウンターから幾度とチャンスを作った。染野、木村、山田楓喜と3本は決定機があった。これを決めきるクオリティがつけばパリ五輪世代の3人は夏には日の丸を背負い戦っているだろう。

 ビルドアップが上手く行かない横浜FMは30分すぎからIHの渡辺がアンカー喜田と横並びになって2DHで2-2のビルドアップを形成して出口を増やす工夫を出すも強度と集中力高いヴェルディの守備陣を乱すことは出来ず、アンデルソンロペスのシュートくらいに終わり、ヴェルディが圧倒する45分となった。

後半

 お互いにメンバー交代無しで臨むと、1点ビハインドの横浜FMは後半立ち上がりにロングボールを何本か入れてくる。サイドが塞がれるのならば、サイドをワイドとSBの2枚で分厚くしようと左右からのサイド攻撃を仕掛けて行く。

 56分、横浜FMが先に動く。水沼、喜田に代えてヤンマテウスと宮市を投入。中盤2DH化してエウベルをトップ下にして両翼をフレッシュな選手にする。トップ下エウベルはライン間に立ってみたり最前線で2トップになってみたりと嫌らしいポジショニングを取り、アンデルソンロペスを林と栄斗の2名でみていたが前線4トップに4バックとマンツーマン対応になり質的優位が徐々に顕著になる。

 押され始めたヴェルディも61分に楓喜と齋藤の両SHに代えて河村慶人と山見を投入してサイドを入れ替える。先制点を挙げた楓喜、献身的なプレーを見せていた齋藤をもう少し引っ張っても良かったと思うがこれは”バトンを繋ぐ”ゲームプランの交代だったのだろう。

 ただ交代選手の出来が運命を分けた。慶人と山見の両SHはボールに触れることが少なく対面するSB松原と渡邊に押し込まれて横浜FMが高い位置に5名6名と入ってきてあわやという場面を立て続けに作られた。ヴェルディは主将森田晃樹が小柄ながらも鋭いボールカットを見せたり、副将谷口栄斗が押し込まれたラインを上げようと必死にコントロールをしてアカデミー出身の選手が16年ぶりの勝利へ懸命さを示す。

 しかし、その淡い願いは打ち砕かれる。押されるも何とか凌ぎ、時計の針を進めて試合も残りわずかとなった89分だった。横浜FMの右サイドからのクロスの折り返しを守備に戻った河村慶人の手に当たり痛恨のPKを献上。これをアンデルソンロペスが見事に沈め土壇場で試合は振り出しへ。

 スタジアムはトリコロールの押せ押せ状態に。浮足立ったヴェルディは明らかに動揺し受け手に回る。すると、ドラマはATに待っていた。右サイドで起点を作る横浜FM。翁長が松原に接触で倒されるもノーファール。だいぶ怪しい判定であったが。松原が左足でインスイングのシュートを叩き込み、逆転。あとわずかのところで零れ落ちた勝点、勿体無い負け方で開幕戦は黒星となり、注目の一戦は奇しくも31年前と同じ1-2で幕を閉じた。

まとめ

 読売と日産のライバル関係から紆余曲折を経て16年ぶりにトップカテゴリーに並んだ両者。良かった面や通用した面もあったが10回やって1回勝てればというくらいに互いの力関係は明白だった。J1昇格したヴェルディにとっては毎試合が決勝戦のような総力戦で、ビハインドもあり、よりガチンコのマリノスの選手個々の技術やスピード、強度、サポーターの人数や声量の多さと肌で感じる事が出来たのは財産になる。スタンドで見ていた自分ですら、忘れていたあの頃の感覚が蘇った。やっぱりJ1は良い舞台だ。
 ヴェルディの新加入選手たちは開幕戦から上手くフィットしており戦術理解も高く早くも戦力になっており全員サッカーを掲げるチームにおいて好材料だ。チーム強度も高く、手応えはあっただろう。ただ、この日は交代枠2を残して敗戦。交代選手の差を感じるところもあったが、采配が冴えなかったと受け止めたい。山越、綱島と上背ある選手のパワーで押し切る展開も観たかった。横浜FMは試合中に何度もシステム変更し、選手も変え見事に逆転勝ちを手にした。監督が変わって継続したサッカーが繰り広げられており改めて選手層の厚さ、チームコンセプトの一貫性を感じた。
 15年も諦めずに一途に信じ応援し続けた夢舞台、戦いはまだ始まったばかりだ。新時代の緑の若武者に想いを託したい。