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『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。【前編】巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。(「昭和40年男」2019年2月号・再検証 昭和49年より)

 『侍ジャイアンツ』を一言で評するならば、マンガもアニメも“記録”でなく、“記憶”に残る作品である。
 たとえば同じ原作者(梶原一騎)による作品の『巨人の星』と比べても、スポ根ブームのような社会現象をもたらすことはなかったし、裏番組を凌駕するような高視聴率も記録できなかった。しかし、終了から45年が経った現在でも本作は人々の記憶から忘れ去られることなく愛され続けている。
 番場蛮(バンバ バン!)という主人公の名前も強烈なインパクトだったし、彼が編み出したハイジャンプ魔球や大回転魔球、分身魔球などは数ある野球マンガのなかで一度見たら忘れられないほどの豪快さにあふれていた。昭和40年男であれば誰しも一度は彼になりきり魔球の再現に挑んでは、見事にしくじった経験があるはず(笑)。型破りな性格で豪快なピッチング。得意の一本釣り打法で猛打も放つ番場蛮の痛快な活躍を、僕らは毎週マンガやアニメを通じて楽しんでいた。そして1974年9月。巨人の10連覇が絶望視された頃に、マンガとアニメは同時に最終回を迎えたのだ。

https://youtu.be/kdt8iCjbUDE?si=0YSGDLFYXuIhIe9j


ここが違った!アニメ版『侍ジャイアンツ』

 73年10月7日の日曜夜7時30分。アニメ『侍ジャイアンツ』は、巨人が9年連続日本一を達成した年の秋によみうりテレビ系で放送が始まった。アニメ化に際しては71年より連載中のマンガを基本にしているが、予定されていた放送期間が1年間の契約ということもあってストーリーや登場人物、設定などにいくつかの変更が行われることになる。そのなかで最も大きかったのが番場の活躍期間である。マンガでは70年のドラフトで巨人に入団し、翌年のV7~V9達成まで3年の期間があった。しかしアニメは71年秋に入団して翌年のV9達成に貢献するべく活躍した1年間を描いている。この変更によりライバルをはじめとする登場人物が絞られ、物語も単純明快でテンポよく展開していった。それにしても今思い返しても驚くのは、わずか1シーズンのなかでハイジャンプ、エビ投げハイジャンプ、大回転、分身(横・縦)魔球を編み出していたことだ。アニメ版の番場蛮恐るべし!
 放送開始翌年の74年秋。当初の予定通り1年でアニメの終了が決定された。V10達成に苦戦する巨人の現状やミスター・長嶋茂雄の今季引退も現実味を帯びたこともあり、マンガ連載と同様に幕を下ろすことになったのだ。問題はそのストーリーの結末で、すでにマンガとは作中の時系列が異なっているためにオリジナルのエピソードを作らなければならない。そこでスタッフ協議の末に制作されたのが第44~46話の最終回3部作・日米ワールドシリーズ編(74年8月25日~9月15日放送)である。そのストーリーとは…。

日米ワールドシリーズで大リーガーに挑む番場蛮

 大リーグのチャンピオンチーム・アスレテックスと巨人のワールドシリーズ開催が決定された。日米の優勝チーム同士の対決に番場のサムライ魂が燃え上がる!巨人の切り札である分身魔球に挑むのは“怪物”の異名を誇るスラッガー、ロジー・ジャックス。魔球攻略に一度は失敗するも、特訓により編み出した変則打法によってついに分身魔球は場外に叩き込まれてしまう。3勝3敗で迎えた最終戦。ライバルたちやヒロインの激励を受けて番場は再びマウンドに立つも、これまで投げた魔球はすでに研究済みのジャックスには通用せず、すべて攻略されて絶体絶命のピンチを迎えてしまう。しかし、万策尽きた番場の脳裏に起死回生の一球が閃いた!彼が青春をかけて編み出したすべてを組み合わせて投げた魔球・ミラクルボールである。さしものジャックスも空振り三振に打ち取られ、巨人は見事世界一の栄冠を勝ち取った!その立役者として番場は最優秀賞に選ばれる。巨人のサムライから世界のサムライとなった番場に川上哲治監督は、険しく深い野球道へのさらなる活躍を祈るのであった...。
 最後の対決に、その年のワールドチャンピオンチームであるオークランド・アスレチックスと、チーム3連覇の立役者である大打者レジー・ジャクソンをモデルにしたライバルを登場させたことには理由があった。連載が始まった当初、原作者の梶原一騎によれば日本プロ野球界のサムライに成長した番場蛮は最終的に大リーグをも打ち破るという展開を考えていたという。さらに連続日本一の記録を更新する王者・巨人も球団創立以来の目標として日米ワールドシリーズ実現を悲願にしていた。しかし、マンガの連載が長く続いていくなかで巨人の圧倒的な強さは翳りを見せ、ストーリー展開も当初の構想とは次第に変わっていくことになる。だから、マンガでは実現することの叶わない番場と巨人の“理想とされる結末”を描くことが、アニメのフィナーレには相応しいと考えたのだろう。
 しかし、大団円に終わったアニメの最終回を観た余韻に浸ったまま迎えた翌週の月曜日。発売されたばかりの『週刊少年ジャンプ』を読んだ多くの読者は、その結末に衝撃を受ける。なぜなら主人公・番場蛮がマウンド上で死んでしまったのだから…。(後編に続く)

『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。【後編】 を読む!

第二回「侍ジャイアンツ」 を読む!

巨人の星VS侍ジャイアンツ ~梶原一騎が描いた〝陰〟と〝陽〟の ど根性ストーリー~ を読む!