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第二回「侍ジャイアンツ」(2013年10月号より本文のみ再録)

 2013年のプロ野球界で、投手と打者の“二刀流”選手として注目を浴びる北海道日本ハムファイターズの大谷翔平。彼の活躍を目にする度に私はある人物を思い出してしまう。それは番場蛮だ。今から40年以上前の野球マンガ『侍ジャイアンツ』に登場した彼は、早すぎた“二刀流”選手だった。豪速球と幾多の魔球を投げる投手であるだけでなく、一本づり打法でここ一番チャンスに強い打者である番場蛮の、マンガやアニメでの大活躍を今なおご記憶の方は多いだろう。梶原一騎原作の同様の野球マンガとしては『巨人の星』があるが、昭和40年男のリアルタイムの記憶としては、私も含めてこちらの方に愛着があるのではないだろうか。そんな想いから今回は『侍ジャイアンツ』をバンババーンと取り上げたい!

※『侍ジャイアンツ』作品データとあらすじ


侍ジャイアンツと巨人の星の意外な因縁

 『週刊少年ジャンプ』に『侍ジャイアンツ』の連載が始まったのは71年7月。前年の暮れに『週刊少年マガジン』で『巨人の星』が完結した約半年後だった。ちなみに両作品の時間系列はつながっており、星飛雄馬が中日ドラゴンズ戦で完全試合を達成した70年の、日本シリーズ最終戦が物語の幕開けとなっている。
 一大ブームを巻き起こした『巨人の星』だけに、終了後は当然次回作に期待がかかる。流れからいけば『マガジン』誌上で、同種の野球マンガが梶原一騎の原作で始まるのが自然だろう。それがなぜ他社(集英社)で連載が開始されたのか?それは『巨人の星』が連載を開始した66年に話がさかのぼる。当時、読売巨人軍と集英社の間では“巨人を舞台にした連載マンガは集英社のみ”という独占契約が結ばれていた。しかし『巨人の星』を読んでそのすごさと反響の大きさを知った編集長は、作品の未来と可能性を配慮しあえて黙認したという。
 『侍ジャイアンツ』はそうした経緯で連載が開始されたのだ。『ジャンプ』にとっていかに待望の作品であったかを、うかがい知ることができる。

愛すべきキャラクター 番場 蛮!

 そうした事情もあり、いわゆる“鳴り物入り”で連載が始まった『侍ジャイアンツ』だったが、結果として『巨人の星』のように世間にブームを起こす程の大ヒットとはならず、今日に至るまで作品論として語られることは少なかった。しかし序文でも述べたが、一般的な評価とは別で、昭和40年男にとっては『侍ジャイアンツ』には深い愛着と影響があったと思っている。その要因の一つが主人公・番場蛮というキャラクターにある。
 梶原一騎は彼について、こうコメントしている。
「番場蛮は、バイタリティーそのものといった主人公です。野性味あふれる行動的性格で、サムライという言葉にふくまれている、強いもの、大きなものに反発する反逆児です。野球をとおして八方やぶれの若者のダイナミックな行動と、不撓不屈の根性を描いたつもりです。(後略)」(集英社刊/ジャンプコミックス第1巻カバーより)
 破天荒で豪快、オッチョコチョイな所もあるが、決める時はバッチリ決める。反面、惚れた娘にはからっきし弱いというのも人間的で魅力がある、連載当時小学校低学年だった昭和40年男は、難しいことはわからくてもマンガを読んですぐに番場蛮という男を好きになれた。実際、梶原一騎も番場蛮というキャラクターは楽しんで書いていたようで、彼の愛されぶりは作中からもうかがえる。それが一番よくわかるのは、物語中、天下の大スター選手のON(=王・長嶋)から「蛮ちゃん」と呼ばれていること。あの星飛雄馬でさえ「星」と名字の呼び捨てなのに(笑)。
 そうした彼に対する我々の憧れは、その後のストーリー展開で登場する“魔球”によって、より深い影響を受けることになっていくのだ。

本作の魅力、“魔球”が昭和40年男に与えた影響

 『侍ジャイアンツ』といえば、すぐに思い浮かぶのが豪快な魔球の数々。番場蛮が自らの身体を駆使して生み出した、ハイジャンプ魔球・大回転魔球・ハラキリシュート・分身魔球。難しい変化理論はなく、見た目にわかりやすくインパクトも大きい。星飛雄馬の大リーグボールを文科系とするなら、番場蛮が投げるのは体育会系の魔球といえる。
 その魔球のシンプルさは、真似のしやすさでもある。同世代限定の比喩で恐縮だが、仮面ライダーに憧れた子供が玩具の変身ベルトをつけることで、ライダーと同化した気持ちになれるように、僕らは番場蛮の魔球に挑むことで彼と同化しようとしたのだ。
 放課後の草野球で、投球モーションと同時にしゃがんでマンガのように飛び上ろうとして転げたり、マウンド上で両手を広げグルグル回転して目をまわしてセンター方向に投げたり、軟式ボールを握り潰そうとした体験を持っているのは私だけではないはずだ(笑)。
 なかでもハイジャンプ魔球や大回転魔球は、後年テレビのバラエティ番組で魔球再現の企画が何度か放送されているが、その度に取り上げられたことでも、番場蛮の魔球がいかにインパクトを与えたかを証明しているだろう。
 連載終了後から現在に至るまで、この手の作品にありがちな実写映画化や、キャラクターCMなどで使われることはなかったが、愛されるキャラクターであった番場蛮の活躍と豪快な魔球を描いた本作は、昭和40年男にとって“記録”ではなく“記憶”に残る作品だったと言えるのではないだろうか。
 昔読んだきりでストーリーもおぼろげなアナタ!本棚にコミックスを眠らせているアナタ!そして、折に触れ読み返しているアナタも!これを機会に『侍ジャイアンツ』を一騎に読め!

『侍ジャイアンツ』を読んでみよう!(Amazon Kindleへリンク)

【ミニコラム・その2】

『侍ジャイアンツ』のプロトタイプ⁉︎
 連覇を続けるジャイアンツ黄金期に、梶原一騎が危惧の念を抱いて描いた作品は実は『侍ジャイアンツ』が初めてではない。本作からさかのぼること2年前の69年と70年にその試作版ともいうべき作品を執筆しているのを御存知だろうか?『モーレツ巨人』(69〜70年・報知新聞連載)、そして『野獣の弟』(70〜71年・中一コース/中二コース連載)だ。作画は偶然にも両作品共に『750ライダー』の石井いさみ。どちらも反骨心あふれる型破りな若者が入団して活躍する話で、『侍ジャイアンツ』と重複するエピソードも多く見られる...んだけどこれまで一度も復刻されない絶版マンガなので、興味のある方は古書店などでお探しください(笑)。

『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。【前編】を読む!

『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。【後編】を読む!

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