見出し画像

巨人の星VS侍ジャイアンツ ~梶原一騎が描いた〝陰〟と〝陽〟の ど根性ストーリー~(「昭和40年男」2020年4月号・特集“俺たちど根性世代”より

 俺たち昭和40年男は「巨人の星」に代表される〝スポ根マンガブーム〟をリアルタイムでは体験していない。しかし、ブーム以降もスポーツを通じて〝努力〟や〝根性〟の尊さを描く熱血ドラマは俺たちの少年期にも受け継がれていた。だから「巨人の星」も過去作品という意識はなく、テレビの再放送やコミックスを通じて十分に熱中できたのだ。


悲運という宿命に挑む ミスターど根性・星飛雄馬

 ♪思い込んだら試練の道を行くが男のど根性♪  軍歌チックなテーマソングに合わせ、主人公・星飛雄馬が父・一徹との厳しい特訓を重ねた末に見事ライバルを倒し、勝利を勝ち取るというオープニング。そこには「巨人の星」というドラマがシンプルにまとめられている。星飛雄馬という男が備えもつ〝ど根性〟とは、幼年期より父から鍛え教えられ、そして受け継いだものにほかならない。またそれがあったからこそ、成長した後に彼を襲った幾多の試練や困難を見事に乗り越えることができたのである。
 数多あるスポ根マンガのなかで「巨人の星」が画期的だったのは、主人公が必ずしも勝たないことだ。努力を重ねて一生懸命がんばった末に得られるものは、勝利よりもむしろ敗北した時の場合が大きいということを俺たちは学んだ。だから、敗北に打ちひしがれる飛雄馬の姿を見ても失望しなかったし、むしろその姿に感動を覚えた。なぜなのか。連載当時、作者である梶原一騎が本作の小説版に寄せた〝根性〟についての一文を紹介しよう。
 〝根性の条件とは何か。努力といい、根性というが、それさえも万事を利益につなげる現代の風潮に、むしばまれてはいないか。努力とは、根性とは、百円を十回つめば千円になるように、それをしたから、それがあるから、かならず成功するものではない。むくわれる結果はゼロかもしれぬが、しかし、それでも精根かたむけて、つみかさねられる努力こそ根性であり、だから美しい、かぎりなく美しい〟
 生きるうえで大事なのはどんな成果を上げたかよりも、そこに向かっていかに努力を重ねたかということ。自ら課した目標に向かい懸命にがんばる飛雄馬の姿を通じて作者のメッセージが伝わったからこその感動であり、俺たちはそこから〝ど根性〟を学んだのだ。

負けて笑い、勝って泣く
やせ我慢ど根性男・番場蛮

 梶原一騎原作によるもうひとつのスポ根野球マンガである「侍ジャイアンツ」の主人公・番場蛮というキャラクターからは、一見〝ど根性〟のイメージは浮かばない。性格が真面目な印象の飛雄馬に比べ、番場は陽気でおおらかなイメージ。しかし彼もまた、己の信念に基づき努力と精進を重ねる〝ど根性〟の男なのだ。父を鯨に殺されて以来、幼い頃から漁師として働き、病弱の母と妹を養った番場は貧困をバネに根性を鍛えていった。「俺の背番号は死(4)だ!巨人という鯨の腹に吞み込まれても死してその腹を食い破ってやるぜ」という腹破り宣言が災いして先輩から過酷なシゴキを受けるも、後に襲う幾多の困難な試練にも笑って乗り越える姿に俺たちは共感し憧れたものだ。梶原が自ら作詞したTVアニメのエンディングテーマ「ゆけ!バンババン」の歌詞に、こんな一節がある。♪ふまれても けられても 笑うやつ あいつはだれだ バンババン!バンババン! あいつはだれだ♪ 
 番場蛮が俺たちに示したど根性とは、自身を成長させるためにあえて苦しさに立ち向かう気位であり、その様を他人には見せないプライドなのだろう。
 そんな番場が物語で発揮していたど根性は、王者・巨人軍というチームに対してだ。初めは毛嫌いし反発していたが、自分の才能を見込んでくれた巨人軍に対して忠義心をもって応えようと、必死にかんばり続けたのだ。
 飛雄馬が見せた精神面のど根性に対し、番場のそれはどちらかといえば体力面のど根性として強く印象に残る。豪快な雄叫びと共に高く舞い上がって投げ下ろしたり(ハイジャンプ魔球)、全身を高速回転させて投げたり(大回転魔球)と、彼が特訓により生み出した魔球はいずれも体育会系なノリだ。連載末期、危ぶまれた連覇の実現に向けてひとりで無理ながんばりを重ね続けた番場は、最終回においてマウンド上で死んでしまう。「有名になるために努力するのかい⁉︎ 金もうけのために努力するのかい⁉︎ その保証がなけれりゃやめるのかい⁉︎ 男の努力とはサムライの戦いとは、そんなケチなもんじゃねぇと思うぜ!!」サムライの魂を持って戦い抜いた主人公の最期に衝撃を受けた反面、番場のチームに対する〝無償のど根性〟のあり方から俺たちは深く学んだのだった。

梶原作品における
ど根性とはなんだったのか

 「柔道一直線」「タイガーマスク」「赤き血のイレブン」「柔道讃歌」などなど、今回取り上げた二作品のみならず、梶原が生み出したスポ根マンガは他にも数多くある。扱うスポーツもテーマこそ違えど、どの作品にも共通した〝ど根性〟が描かれている場面と言えば必殺技開発の特訓だろう。常人の発想ではまずあり得ない、一歩間違えれば命を落としてしまうレベルの特訓。大量の汗や血にまみれながら傷だらけで必死に挑む姿こそが梶原マンガにおけるど根性の真骨頂である。
 梶原一騎が、他のスポ根マンガとはひと味もふた味も異なる熱血ストーリーが描けたのは何故か?それは彼が作家を志して文筆活動をしてきた頃からずっと、スポーツ界の超一流と交流を重ねていたからだと筆者は考えている。いわく力道山、大山倍達、長嶋茂雄、王 貞治、沢村 忠…。華やかな栄光の裏で積み重ねてきた彼らの努力は並たいていのレベルではなかったであろう。
 その苦労を、厳しさを知っているからこそ、梶原にはありきたりの努力を描けないのだ。並の努力なら誰でもできる!限界までやって当然!それでもまだ続ける!そこからが本物の根性だ!! 限界を超えて倒れてもなお立ち上がり、自身を鍛えようとする強靭な意志こそが、梶原一騎の考える〝ど根性〟なのだ。

第二回「侍ジャイアンツ」 を読む!

『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。【前編】 を読む!

『侍ジャイアンツ』がフィナーレ。巨人V10ならず長嶋茂雄引退。番場蛮もまたグラウンドを去った。【後編】 を読む!