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マック技報_20TR03

マックエンジニアリング株式会社・技報担当

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1.「連続フロー合成ならでは」の装置 = 送液ポンプ

 「~ならでは」の装置と言えば、やはり送液ポンプでしょう。実際に実験装置を組んでみる(システム化する)と、その台数の多さに驚くことと思います。一方、台数が多いという事は、それらの調整(流量、動作タイミング、各ポンプの癖)が必要になるという事でもあります。また、実験後の後片付け(洗浄、メンテナンス)が重要になりますので、当然、それなりの時間が必要です。
 しかしながら、システムの「運転」がいったん定常状態になれば、たちどころに(ラボスケールとしては)大量の反応液(≒目的物)が出来上がります。これぞ、連続フロー合成の醍醐味!
 リアクターと同様、反応の種類や条件により、最適なポンプが異なります。それぞれのポンプの特徴(メリットとデメリット)を把握しながら選択することが求められます。

2.シリンジポンプ

 ラボ用定量ポンプの代表格で、前回の「お薦めの必需品」の中にもありました。
 このポンプのメリットは、(比較的簡単に)精度良く適切な量の試薬をリアクターに「注入(吐出)」できることです。試薬注入(吐出)時、脈動が無い点も重要です。
 また、ディスポーザブルシリンジと組み合わせれば、接続チューブとともに、実験後に簡単に片付けられる(安価なので廃棄)手軽さがあります。
 少し高価なものは「注入(吐出)」だけでなく「吸引」も可能で、さらに、高級品ともなればプログラム運転も可能です。
 デメリットとしては、送液可能な試薬量がシリンジ容量に依存することです。前回の「お薦めの必需品」のポンプであれば、50mLサイズのシリンジが限度です。
 高級品ではプログラムで注入(吐出)と吸引を繰り返しながら連続運転することも可能ですが、吸引時には送液できなくなります。これを解決するために複数のシリンジポンプを組み合わせたシステムも市販されていますが、さらに高価になります。
 また、定圧送液できないことも忘れてはいけない点です。閉塞発生の有無にかかわらず、(内径と送液量のバランスが悪い時など)経路のどこかに圧力上昇の原因があることも、珍しくありません。このような場合、試薬を定量送液し続けると、経路のどこかで液漏れや逆流が発生したり、ポンプの吐出圧の限界で送液停止したりします。
 いずれにしても、ポンプのメリットとデメリットを把握し、「適切な運転条件を実験で決める」ことが重要です。

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3.チューブポンプ(ローラーポンプ)

 もうひとつの、ラボ用定量ポンプの代表格です。水系溶媒を(特に1L以上)連続送液するのであれば、多くの場合でこのポンプが最適です。
 ところが、(特にアミド系やエーテル系の)有機溶媒の送液となると、途端に困ってしまいます。チューブポンプのローラーに接する部分だけ、耐薬品性の高いフッ素ゴム(例:カルレッツ)製チューブを使い、その他の配管部分はPFAチューブにすれば、連続フロー合成に使用できます。ただし、一般的にフッ素ゴム製チューブ(別例:ワトソン・マーロー社STA-PURE PFL PTFE強化フッ素エラストマーチューブ)はとても高価(例えば、30cmで数万円~数十万円)なので、「ディスポーザブル」というわけにはいきません。
 この課題解決策のひとつを次に提案します。少しDIYがともないますが、ご了承下さい。また、DIYのため「液漏れのリスクも無くはない」のですが、メリット(できること)の方が多いと考えています。

《チューブポンプをうまく使いこなすためのDIY提案》
 i)チューブポンプとして、東京理化器械製MP-2000を使用しました。付属チューブケースは、ネジ可変式です。本来、送液路が2本ある(2本のチューブをセットできる)ことがメリットなのですが、下記写真のように1流路として使うと良いです。もちろん、正逆どちらの方向にも送液できます。チューブには、一般的に購入できる外径1/8インチPFAチューブ(例:フロンケミカルNR7032-013)が使用できます。耐久性については、学生実験イメージの使用であれば、丸1日は充分使えます。

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 ii)DIYポイントは2点です。1点目は、テープ補強PTFE板(2枚)を自作することです。この板は、実験2〜3回は使えます。なお、補強に使用したテープは、PTFEガラス粘着テープ(アズワン品番:3-6617-03)です。
【テープ補強PTFE板の作り方】 https://youtu.be/1p29LNikEeU
 この自作板を、ローラーとPFAチューブの間に挟み(2箇所)、チューブ押さえを締め込みます。結構強く締め込むため、PFAチューブはペッタンコです。ローラーのギヤに食い込みがあるかもしれません。食い込みが無いのにこしたことはありませんが、多少ならば液漏れはありません(リスクはあります)。
 これまでにこの方法で何十回も送液する機会がありましたが、一度だけ少し液漏れしました。残念ながら、今のところ、万全のセッティング方法がつかめていません。

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 iii)DIYの2点目は、M3ワッシャーを(丸ヤスリ等で穴を少し大きく)加工することです。これをチューブケースの裏にある押さえ込みネジの部分に挟みます。もともとはリングのみですが、ワッシャーを1枚挟むと良いです。ワッシャーが無ければ、チューブ押さえ込み時にリングが外れる(つまり、押さえ込めない)ことがあります。
 また、ネジ山部分には潤滑剤(極圧剤)を塗りましょう。より安定して使用できますので。

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【実際の使用例1】  https://youtu.be/ZCu7aHSCBaU
 ・使用チューブポンプ:東京理化器械MP-2010(低流量タイプ)
 ・THFを低流量で送液している様子。
【実際の使用例2】  https://youtu.be/drYFIZl1X8M
 ・使用チューブポンプ:東京理化器械MP-2000(スタンダードタイプ)
 ・飽和食塩水とエタノールをマイクロスケールCSTRにて混合(1:2)し、析出した食塩ごとチューブポンプで送液している様子。過去、展示会等にて実演実施済み。

4.プランジャーポンプ

 このポンプのメリットは、高い精度で適切な量の試薬をリアクターに「注入(吐出)」できることです。試薬注入(吐出)時、脈動が少ない点も重要です。シリンジポンプと違い、(組み合わせるシリンジ容量などに依存すること無く)連続的に送液できます。また、多くの場合、プログラム運転も可能です。
 デメリットとしては、やはり高価であることでしょう。また、機種にもよりますが、接液部材質の選択肢が少ないので、使用する試薬に適合した機種を選定しなければなりません。気泡が流路内に入るとトラブルになるため、入らないように準備し運転することが大切です。
【例】
・東京理化器械 中・高圧送液ポンプ EUIおよびUI型シリーズ

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5.ダイヤフラムポンプ

 このポンプのメリットは、比較的精度良く適切な量の試薬をリアクターに「注入(吐出)」できることです。このポンプもまた、シリンジポンプと違って連続送液できます。また、多くの場合、プログラム運転も可能です。
 デメリットとしては、やや高価であることでしょう。また、試薬注入(吐出)あるいは吸引時の脈動に気を付けなければならない点も重要です。加えて、気泡が流路内に入るとトラブルになるため、入らないように準備し運転することが大切です。
【例】
・タクミナ スムーズフローポンプ Qシリーズ

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6.モーノポンプ

 このポンプのメリットは、何と言っても粘度が高いスラリー(固形分含有液)を送液できる点です。しかも、高い精度で適切な量の試薬をリアクターに「注入(吐出)」でき、脈動が少ない点も重要です。もちろん連続的に送液可能です。
 デメリットとしては、やはり高価であることでしょう。また、接液部材質の選択肢が少ないので、使用する試薬に適合した機種を選定しなければなりません。
 デメリットという程でもありませんが、吐出(注入)圧がさほど高くないことも認識しておくべき点です。
【例】
・ヘイシン 微少量・連続定量注入用モーノポンプHMC型
 https://youtu.be/GBsA5z5Ish0

7.その他

 その他にも、多くの種類のポンプがあり、その特長を活かして生産現場で活躍しています。ここでは、ラボ用連続フロー合成に使われるポンプとして、セラミックポンプの紹介に留めておきます。
【例】
・東京理化器械 中圧送液ポンプ(セラミック製) VSP型シリーズ

セラミックポンプ

今回はこれまで。

次回は、マイクロスケールCSTRによるエステル化の実施例について発信する予定です。

《追加情報》
【2021/6/14付】
「3. チューブポンプ(ローラーポンプ)」に記載している使い方以外に、チューブポンプを無理無く使う方法をご紹介します。マイクロスケールCSTRから反応液を抜き出す際に、特に有効です。⇒マック技報_21TR08

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