マック技報Talk_001 〜マイクロスケールCSTRによる初めての連続生産(その1)〜
マックエンジニアリング株式会社・技報担当
《マイクロリアクター専用ウェブサイト》
この度、従来の「マック技報」をテーマ別に3分割して読者の皆様にお届けすることになりました。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。
1.マック技報Talk
2.マック技報Products
3.マック技報Applications
1.はじめに
今回から、マック技報Talkを配信開始します。テーマは「連続生産(連続フロー合成)に関連する様々な話題、知ってお得な情報」、想定する対象読者は、「有機合成を一通り学習し実験も行っているものの、ラボスケールでの連続生産(連続フロー合成)については初めて行うという研究者(いわゆる実験屋)」を対象としています。
2.マイクロスケールCSTRによる初めての連続生産
今回は、(かなり前になりましたが)マック技報_21TR08にてお約束したとおり「マイクロスケールCSTRによる初めての連続生産(その1)」と題して、具体的な実験操作を詳しくお伝えします。
さて、今回の実験テーマは、連続生産の中でも重要な工程の「連続晶析(MSMPR)」です。有機合成ではありませんが、マイクロスケールCSTRを使う操作は有機合成の場合とほぼ同じであり、何よりも ”初心者にとって安心安全なノウハウ満載の練習実験” だと考えています。また、「再結晶(晶析)は、バッチ式で静置して行うもの」と信じて疑わない方であれば、「目からウロコの連続晶析」をぜひ体験して下さい。
※MSMPR = Mixed Suspension Mixed Product Removal
3.食塩の連続晶析(MSMPR)
3-1. 操作手順概略
3-1-0. 反応条件最適化(バイアルを使ったバッチ式反応)
ほとんどの場合、連続生産(連続フロー合成)をいきなり行うのではなく、まず、バイアル(容量:3mL程度)を使ったバッチ式反応を行うことをお奨めします。
というのも、この段階で、おおよそ最適条件を掴んでおくことが、とても大切だからです。加えて、反応の進む様子をじっくりと観察することも重要です。滴下直後の反応液の様子(発熱・吸熱)、ガスの発生具合、反応途中にだけ現れる固体、反応液の粘度変化、等々、通常使っているフラスコでは気付かないことが一つや二つは見つかるはずです。これらの観察結果が、連続生産(連続フロー合成)を成功させる貴重なノウハウに繋がります。
既に散々実験してきたバッチ式反応を連続フロー化しようとする場合、この「バイアルを使ったバッチ式反応」を端折ることが見受けられますが、それは(筆者の経験上)成功への遠回りであることが多いです。騙されたと思って、嫌がらずにこのバッチ式反応を行って下さい。
3-1-1. 装置組立
始めに書いたように、連続晶析(MSMPR)は有機合成ではありませんが、有機合成の場合と比較して、マイクロスケールCSTRの装置は全く同じですし、操作もほとんど同じです。
全体のイメージは上の写真のとおりです。
・マイクロスケールCSTR 1セット(含:クライゼン管、冷却器)
・ホットスターラー 1セット(含:温度センサー)
・シリンジポンプ 2セット(含:シリンジ、ジョイント類、PFAチューブ)
・チューブポンプ 1セット(含:シリコンチューブ)
・反応液抜き出し装置 1セット ※参照:マック技報_21TR08
3-1-1-1. マイクロスケールCSTRの組み方の説明
※説明スライドに出てくるCSTR本体の材質は、ポリカーボネート(説明用試作品/非売品)です。ちなみに、販売品の材質は、PTFE、SUS316L、トーカベイトTK11の3種類です。
3-1-1-2. シリコンパッキンに穴のあけ方の説明
マイクロスケールCSTRだけでなく、ガラス器具類にも大小のシリコンパッキン(片面PTFEライナー付)が使われていますが、(針ではなく)PFA等のチューブを差し込む場合には、適切な穴直径のポンチを使うと良いです。例えば、外径1/16インチのチューブ用であれば穴直径1.5mmのポンチを、外径1/8インチのチューブ用であれば穴直径3.0mmのポンチを使います。
※参照:マック技報_20TR04
3-1-2. 試薬調整
飽和食塩水100mL程度、エタノール100mL程度を用意します。
なお、消毒用エタノールは2-プロパノール(イソプロパノール)が含まれていることが多いため、析出する食塩の量が少なくなりがちです。このため、この実験にはあまりお薦めできません。
3-1-3. 前準備
まず、約20mLの溶媒(ここでは、エタノール)を、ピペットを使って中央槽(クライゼン管)から、あるいは、シリンジポンプを使ってそのままマイクロスケールCSTRに注入します。この時の撹拌子については、溶媒を入れる前から300rpm程度回転させておき、半分程度(約10mL)入れたら1000rpm程度まで回転させます。
次に、1000rpm程度に回転数を上げた際、反応液抜き出し装置(チューブポンプ)も同時に動かし始めます。そうすると、液張り量(約14mL)を超える量の溶媒が抜き出されます(約6mL)。
なお、撹拌も反応液抜き出しもそのまま継続し、実験終了まで(ホットスターラー、チューブポンプを)動かし続けます。
3-1-4. 本実験(含:サンプリング)
前準備が整ったら、一方のシリンジに飽和食塩水20mL、もう一方のシリンジにエタノール20mLを充填し、それぞれ0.5mL/minの流量でマイクロスケールCSTRへ注入を開始します。
この注入と同時に、前準備段階から動かし続けている反応液抜き出し装置(チューブポンプ)の吸引量をシリンジポンプの注入量とバランスさせて下さい。抜き出し用のPFAチューブを第6槽の底まで差し込み(ごくわずかに底から浮かせるくらい)、第6槽に入る液をすべて抜き出すようにしますが、気体と液体が交互に連なるぐらいの速度で抜き出すくらいが良いです。
なお、必要に応じてサンプリングも可能です。チューブポンプを停止した後、常圧に戻してから、サンプリング用メジューム瓶に交換して下さい。交換後、再度チューブポンプを動かし、メジューム瓶内を減圧に戻して下さい。
一方、シリンジポンプの停止動作については、ケースバイケースです。今回の実験のように、試薬が比較的安全、かつ、注入する流量が多くなければ停止しなくても交換可能です。一般的には、試薬の危険性や操作の安全性を考慮し、判断して下さい。
さて、定常状態の考え方ですが、試薬注入総量(飽和食塩水とエタノールを合計した1mL/min)が液張り量(約14mL)に到達した時点で、実験操作上は定常状態に入ったと考えて良いと思います。
もちろん、サンプリングした抜き出し液の(GC、LC、NIR等の)機器分析結果で判断するのが真っ当です。また、初期費用もそれなりに必要ですが、最近では連続フロー式の分析機器も増えてきましたので、これらを組み合わせれば、すぐに判断可能です。
3-1-5. 後始末
実験終了後、(すぐに停止・解体せず)まず行うことはマイクロスケールCSTR内の溶媒置換です。目安としては、液張り量(約14mL)の3倍量、溶媒のみ(エタノール)を実験本番と同じ試薬注入総量(飽和食塩水とエタノールを合計した1mL/min)をシリンジポンプで追加注入します。
溶媒置換する意図は後始末の際の安全性の確保ですので、そもそも溶媒が危険(例:濃硫酸)であるなら、別の安全な溶媒を選択して実施して下さい。
溶媒置換後は、安全に配慮しつつ装置を解体し、洗浄や廃棄等、適切な処置を行って下さい。
なお、サンプリングした結晶の様子、蓋を開けた際に確認できるマイクロスケールCSTR本体の内部の様子、等々を確認して、「反応条件・装置運転操作の最適化に向けて継続した検討を行う」ことは言うまでもありません。
3-2. 実験の様子
3-2-1. バイアルを使ったバッチ式反応
マイクロスケールCSTRを使う前には、反応用バイアル(3mL程度)にて事前検討を行って下さい。本来は、マイクロスケール有機合成キット等にある反応用バイアルで行うことをお薦めしますが、ここでは見やすさを優先し、少し大きいサンプル瓶(10mL)で代用しました。
3-2-2. マイクロスケールCSTRを使った食塩の連続晶析(MSMPR)
百聞は一見にしかず。一度、定常状態に入ると、原料(試薬)を供給し続ければ「連続生産」することができます。この感覚を皆様のラボにて実体験して下さい。
今回はこれまで。長くなりましたが、最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。