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マック技報Talk_004 〜PFRとCSTRの使い分け〜


マックエンジニアリング株式会社・技報担当
《マイクロリアクター専用ウェブサイト》

 今回は「PFRCSTRの使い分け」について説明します。ただし、あくまでもラボ用実験器具の視点からの説明であることを、ご了承下さい。

1.はじめに

 前回のマック技報Talk_003の記事に「(化学品を大量生産する)工場において連続生産に用いられる反応器には大別して2方式(PFRCSTR)あり、(それぞれのメリット・デメリットを勘案し)ケース・バイ・ケースで2方式を使い分けるのが一般的だからです。」と書きました。これを受けて、少し具体的な例を挙げながら使い分けの仕方を説明します。
 なお、(プラント・エンジニアリング会社側から見れば)どちらの方式についても、工場生産規模では(何十年も前から)実用化されている方式であり、スケールアップは充分に可能です。ただし、そのスケールアップ作業が「困難か容易か」については、「ラボスケール実験において、スケールアップに必要なエンジニアリング・データが(質・量とも満足いく程度に)得られているか否か」によって、大きく異なってきます。

2.PFR(Plug or Piston Flow Reactor)

2-1. PFRの主なメリット

・(例えば、反応時間1secといった)比較的速い反応が得意
・流路の材質や形状の選択肢が多い
・電磁波(UV、マイクロ波等)照射の選択肢が多い
・比較的安価

2-2. PFRの主なデメリット

・固体や高粘度物質が流路中に「ある」または「できる」条件であれば、「閉塞する」可能性が大きい
・(例えば、反応時間1hといった)遅い反応が苦手
・流路長が長くなれば、圧力損失が大きい
・(圧力損失が大きくなれば)吐出圧の高いポンプが必要

3.CSTR(Continuous Stirred Tank Reactor)

3-1. CSTRの主なメリット

・固体や高粘度物質が流路中に「ある」または「できる」使用条件であっても、「閉塞する」可能性が低い
・(例えば、反応時間1hといった)遅い反応が得意
・流路長が長くなっても、圧力損失は少ない
・(圧力損失が少ないので)吐出圧の高いポンプは不要

3-2. CSTRの主なデメリット

・(例えば、反応時間1secといった)比較的速い反応が苦手(特に、クエンチ等の次の処理がすぐに必要な条件の場合)
・流路の材質や形状の選択肢が少ない
・電磁波(UV、マイクロ波等)照射の選択肢が少ない
・比較的高価

4.2方式の使い分けの具体例

 この項には、書籍、すなわち、「有機合成のためのフロー化学(東京化学同人)」に記載された2方式の使い分けの具体例を引用します。
 この書籍には、8・3章「連続生産の実現化に向けて」という素晴らしい章があり、この中に、使い分けに関する以下の文章が記載されています。

 連続化に用いられる反応装置は、管型反応器を用いたプラグフロー反応器(plug flow reactor: PFR)とバッチ反応器をつなげた連続槽型反応器(continuous stirred tank reactor: CSTR)の2種に大別できる。この2種の反応器があれば、ほぼすべてのバッチ反応を連続化できるといってよい。
(中略)連続生産における最大の障壁となる閉塞という視点で反応を大別すると、均一系反応にはPFRが適しており、反応中に固形物が生成する、あるいは反応開始時から固体を含む系(スラリー系)にはCSTRが適している。

「有機合成のためのフロー化学」、p.211

  続いて、米国Eli Lilly社の事例が掲載されています。

同社における連続製造プロセスでは反応の特性に従って、1)PFR、2)CSTR、3)バッチ反応器を使い分けている。(中略)これらそれぞれの優位性を判定し用いる反応器を選定する。

「有機合成のためのフロー化学」、p.212

Eli Lilly社は、アルツハイマー病の治療薬としてphase Ⅱの治験を行っていたLY2886721の原料を、パラジウム(Pd)触媒を用いたC-O結合およびN-O結合の水素化分解により固定床触媒反応器(PFRのひとつ:筆者注)を用いて製造した。

「有機合成のためのフロー化学」、p.212

Eli Lilly社では早期よりPFRによる、均一系触媒を用いた反応プロセスを開発している。これまでに同型反応器を用いて不斉水素化、還元的アミノ反応、ヒドロホルミル化反応を行っている。

「有機合成のためのフロー化学」、p.213

反応途中で固体が析出(スラリー状態)する場合の連続製造
CSTRが最優先候補の設備選択となる。5μm以上の固形物が反応系中に観察される場合、PFRでは必ず閉塞が起こると考えるべきである。

「有機合成のためのフロー化学」、p.215

固体が反応物・生成物となる場合の連続製造
(中略)
同社で開発されている抗がん剤であるTasisulam(LY573636.Na)は(中略)3連のCSTRが反応装置として採用され、反応・抽出後MSMPRを経て目的化合物を得ている。

「有機合成のためのフロー化学」、p.216

5.おわりに

 連続フロー合成に取り組むと、これまでに所有していなかった新しい装置・器具をメインに使うようになります。このため、どうしても初期費用(購入資金)が必要になり、その制限内で購入した装置(多くの場合、PFRCSTRのどちらか一方のみ)で、できるだけ幅広く反応を実施しようと考えがちです。しかしながら、上記の説明どおり、どちらか一方のみでは難しいのが現実です。
 だからこそ、目標テーマを充分に見極めて、過不足の無い的確な装置選定をしなければなりません。この文章がその一助となり、連続フロー合成の成果が上がることを切に願っています。

 今回はこれまで。最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。

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