「9月入学」のどこが問題だったのか
こんばんは。今日もお疲れ様です。
政府は9月入学制度を断念したと報道にあります。正確には、「政府・与党は20年度、21年度の導入を見送る一方、時間をかけた検討を政府に要請する。WTは党内議論を経て提言をまとめ、6月初めに政府に申し入れる」と下記の日経の報道にあります。6月初めってもう来週じゃん、という訳で、党内議論も提言もまとまっている、ということですが。
(↓ここに目次を入れますが、以下、本文中の一部の見出しが突然、太字表示になってしまいました。あしからず。)
日経が報道した自民党WT提言の内容
自民党ワーキングチーム(WT)が提言した内容が、日本経済新聞電子版で報道されています。2020/5/29の午前1:30に配信されたようです。
購読してないと全文読めませんので、そうした方向けにポイントを引用します。
WTの提言は9月入学に移行する方法として5案を挙げた。文部科学省がすでに示している(1)1年で移行するために最初の1学年だけ対象を広げる(2)対象を段階的に変えて5年かけて移行する――という2案を含む。
20年度や21年度に導入した場合、新型コロナの感染拡大に伴う授業不足を補うため、入学を4月から9月に遅らせる形となる想定だった。
提言は前倒しする案を例示した。
義務教育の開始年齢の前倒しは4月2日から翌年4月1日生まれの学年構成を維持し、就学年齢を最年少で5歳5カ月からにする。「幼児教育段階を早めることで対応可能となる」と指摘し、2歳半で幼稚園に入園することも検討課題として記した。
米国の一部の州や英国のほかフランスやドイツなどは5歳でも小学生になる子どもがいる。かねて9月入学導入にあわせ義務教育の開始年齢を国際標準に合わせるべきだとの意見が党内にある。
この案を導入するには義務教育の開始を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」と定める学校教育法の改正が必要となる。新入生の急増で教員や施設も確保しなければならない。
提言は小学1年生のみを実質「1年5カ月」とし、最初の5カ月間を「ゼロ年生」として小学校に通わせる「プレスクール」案も示した。小学校には一時的に7学年分の児童が通うことになり、教員が不足する恐れがある。
「WTが提案した残る3案は何なの?」というのが気になる点です。
元々は、全国知事会の緊急提言
元々は、全国知事会の緊急提言が今回の論争のきっかけだと日経ビジネスの有料記事に書いてありました。(すみません。私は日経ビジネスの無料枠で読んでいるのですが、月3回読めるところ今月は使いきってしまったので、次の月曜日に確認致しますm(_ _)m。)
それがそもそも筋悪い点ですが、ただ、9月入学制度は、それ以前からずっと論争され続けてきた教育に関わる長年の課題です。
もちろん、一回の制度変更で様々な諸問題が一気に解決するならそれもアリですが、拙速で現場が混乱する、という指摘もごもっともです。
そもそも、何故我が国だけが「4月入学、3月卒業」なのか
実は、4月入学は日本だけなのです。
今を去ること42年前、高校3年生の私が代ゼミにちょっと通ってた頃、京都大学名誉教授の故・桑原武夫先生が、特別無料講義をしてくれました。改めまして、代々木ゼミナールありがとう。その時に、我々受験生が、自分達の立ち位置が客観的に判るよう、何故日本だけが4月入学を導入したのか、教えてくれました。
桑原先生によると、「明治政府が発足直後、財政難に陥ったとき、公立学校の教職員の給料支払いを回避するため、欧米の制度を取り入れて9月入学だったものを、無理やり4月入学に繰り延べてしまった」のだそうです。
NHKの人気番組でも、昨年ちらっと紹介されてました。
桑原先生は、明治政府発足直後とだけ教えてくれましたが、正確には明治19年のことですね。
世の中が幕末の混乱期から明治維新直後にかけては、制度をいじるのも容易ですが、その後世の中が安定期に向かっている時には、「元に戻すのも」大変だと反対する気骨のある人が居なかったのが残念です。西郷隆盛さんが西南の役を起こして、そうした人達を軒並みあの世に一緒に連れて行ってしまったのでした。
明治初年度は9月入学だったって話は、こちらに記載されてます。
なお、お断りしておきますと私はTV番組一切見ません。ネットで検索して、番組内容が紹介されている記事が適切であれば、リンク張ったり引用したりはさせて頂きます。
一斉切り替えは、手間もコストもかかるし、リスクも高い
一番上の日経ビジネスの記事の冒頭に書いてありますが、一斉切り替えは莫大なコストがかかると想定されます。
仮に2021年9月から導入した場合、20年度の1学年が17カ月となるため、費用面での負担増を懸念する声も出始めた。文部科学省は入学・始業を5カ月遅らせると、家計全体で計3兆9000億円の負担増が発生すると試算。日本教育学会は新たに確保しなければならない施設や教職員のコストが少なくとも6兆円かかると見積もっている。
リスクについては、今般のコロナ禍給付金支給が遅れに遅れているのひとつとっても、多くの国民を巻き込むような政策を実施するには、今の政治は全く頼りにならない、という点が懸念点です。
先行事例
私が36年前に卒業した国際基督教大学(International Christian University, ICU)は、以前から4月入学と9月入学、両制度が平行して続いてます。
大学のHPに以下記載があります。
ICUは、世界に門戸を開く大学です。人種、宗教、国籍を問わず、また日本人学生、外国人学生、帰国生などと区別することなく、全ての学生を平等に受け入れるため、1955年以降、日本の教育制度で学んだ人を4月に、外国の教育制度で学んだ人を9月に受け入れ、それぞれ3月と6月に卒業式を行ってきました。
4月に入学した学生は、通常3月に卒業ですが、単位が足りない場合に、4月~6月の春学期に取得して、6月に卒業することも可能です。9月に入学した学生は、6月卒業ですが、単位が足りない場合に、9月~12月の秋学期、1月~3月の冬学期に取得して、3月に卒業することも可能です。つまり、単位を落としてしまっても、まるまる1年待たなくてもいい、という選択肢が貰えます。
小中高と同じ、1年3学期制を採用しているので、海外への留学も、海外からの留学も容易となっています。学期と学期の合間が少なくて済むので、留学するために無駄な空白期間がなくなります。
この制度を、かれこれ65年間存続させてきた訳です。
4月入学という、世界の流れに反した制度設計を実施した明治19年は1886年ですから、今から134年前。その半分近い実績が積み重なっている訳です。
9月入学に「一斉に切り替える」のではなく、「平行導入」を!
もうそろそろ、他の大学でも、現状の4月入学制に加えて、9月入学制も受け入れを開始すればいいと思います。
卒業式が年2回になって、大変になるのは学校側ですが、ICUの事務を見ていても、そんなに大変だという印象は全くありません。
そして、諸事情で大学での学業が4年で終わらなかったけど、一刻も早く学業を終わらせて卒業したい人に、選択肢が与えられることになります。
その選択肢は、ICUでは65年間卒業生に与えることが出来てきた選択肢です。
他の大学で、真似できない理由は、ありません。
欧米的な「1か0か」という発想ではなく、「1も0も」両方大事という発想はとれないものでしょうか。
私の周囲には、特に帰国子女ですが、「ICUしか日本の大学で受け入れてくれるところがなかった」という人が結構居ます。
そうした受け入れ先が、東京とその近郊にしかない、という状況は改善すべきものです。
また、海外にスポーツ留学する優秀な子供達は、9月入学、3月卒業形式の方が、学業の継続の心配がなく、圧倒的に状況が改善します。
その子達のせっかくの芽を、しっかり伸ばしてあげたいとは誰も思わないのでしょうか。
第二次世界大戦終結時に、この制度に手を入れなかったのは、本当に怠慢としか言いようがありません。マッカーサーの気が変わったからだ、と下記の記事にはありましたw
なお、私の言っていることは、国民民主党の提言にほぼ重なります。
違う点は、入学の時期だけでなく、卒業の時期にも学生に選択肢を与えよう、という点です。そこまで押さえないと、本当に、学生の痒いところに手が届く教育行政になりません。
ではまた明日。
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