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そこに、本当に将来があるの?~銀行の重点施策を巡るちょっとした誤解

こんばんは。今日もお疲れ様です。

私は基本、テレビを見ない人をここ20年くらい続けてまして、現在放映中の半沢直樹ドラマも見てないので外しているかも知れませんが、横浜銀行ご出身で支店長経験もある大関暁夫さんという方が、ITメディアに記事を書いておられるのを拝見したので、それにコメントさせて頂きます。

大関さんの、その記事はこちら。

冒頭の書き出しから、少なくとも私は躓きました。

今作は前作に比べて一層の勧善懲悪トーンが強く、一部ではその演出から時代劇的とも言われているのですが、私はこのドラマに別の意味で「時代劇」を感じています。というのは今回のドラマの舞台設定自体が、銀行に関わってきた人間から見ると今の時代の銀行とはおよそ懸け離れた、少なくとも10年以上は前の銀行が舞台に違いないと確信を持てるわけで、これは確実に「時代劇」であると思うのです。正確には「近時代劇」でしょうか。銀行と系列の証券会社が客を奪い合うとか、銀行が系列の証券会社をいじめるとか、この辺りは原作者の池井戸潤氏が銀行(旧東京三菱銀行)に在籍していた時代なら大いにあり得た話ではあるのですが、今の時代ではおよそ考えられない設定ではないかと思います。

私もその池井戸潤氏と同じ銀行で重なっていた時期がありますが、東京三菱も含めて、メガバンク3行、あるいは他の業態の銀行も含めて、「系列」の証券会社と客を奪い合う、という図式は例を知りません。
他の証券会社から引っぺがしてきて系列の証券会社の顧客になってもらい、ついでに自行の顧客にもなってもらう、という例なら知ってます。
新聞記者経験もあるそうですから、系列内での奪い合い事例も取材したことがあるのかも知れませんが、メガバンクが、そんな暇なところだと思ったら大間違いです。

 では今の銀行、特にドラマ中の東京中央銀行のモデルであるメガバンクはどうなのかといえば、その経営環境からしてドラマとは様変わりです。きっかけは、2016年に日銀がとったマイナス金利政策、つまり日銀への預け金利がマイナスになるという前代未聞の政策でした。市中金融機関の預金金利は当然のごとく限りなくゼロに近づき、同時に貸出金利も空前の低金利時代に突入しました。ただでさえ「超」が付く低金利時代が続いていた中でのさらなる金利引き下げにより、メガバンクが好んで融資をしていた大企業や優良企業向けの貸出金利が生む利ざや商売では融資コストを吸収できない、という事態に陥ったわけなのです。

これは現象としては間違ってはいない説明ですが、正確ではありません。
預金客に支払う利息が限りなくゼロに近づこうが、利ザヤ商売と云うからには、利ザヤを確保して、企業向けの貸出金利を下げる部分は程々にしておけば融資コストも吸収できます。
それが出来なくなった理由を説明しないとダメです。

次の段落を読んでみましょう。

 日銀はローリスク=ローリターンの優良企業向け貸し出し競争に群がる銀行に対して、これからはミドルリスク=ミドルリターン融資を増強し生き残りをはかれ、と「事業性評価融資」なる言葉を用いました。保証や担保に頼らず、事業の将来性を評価して貸し付ける融資姿勢に改めるよう号令を掛けたわけです。基本的に国内市場のみで戦う地方銀行は、できるかできないかは別としてこれに従わざるを得ませんでした。一方で、国外にも足場を持つメガバンク各行は一斉に海外業務に力を入れ、国内で利益が減る分を海外での融資およびプロジェクトファイナンス(企業ではなく特定事業への融資)組成やM&A仲介の手数料でまかなおう、という動きにシフトしたのです。

これは、「基本的に国内市場のみで戦う地方銀行は、できるかできないかは別としてこれに従わざるを得ませんでした。」が事実なら、前段と矛盾していますし、事実は、実質そのようなリスクを取れる営業体制ではない、ということでしょう。

その理由はいくつか考えられますが、第一に、お尻を叩いている日銀や金融庁自体が、長年リスク管理について強化要求を出してきた経緯があります。
手続きは年々煩雑複雑化し、三菱UFJ銀行のとある支店では、法人の口座開設は登記簿謄本を提出させる他、融資もしないかも知れないのに最初から決算書を要求し、ダメなら当店では開設できませんと断ってきた事例を知ってます。
第二に、銀行だって株式会社ですから、株主の利益を棄損するような業務はできません。
第三に、貸出金利の利ザヤを確保しようと思っても、法人顧客もよく調べているので、低い金利で貸してくれる銀行に流れてしまうだけです。

もう少しだけ、読み進めてみましょうか。

 現実、2010年以前は営業利益に占める海外部門の比率で20%前後だったメガバンク3行ですが、新型コロナの影響を受ける前の19年度3月期の決算では、三菱UFJが約40%、三井住友、みずほでも30%を超え、メガバンクの収益源が大幅に国内から海外へ移行していったのが分かります。一方、国内業務に関しては一言でいえば縮小均衡方針に転じ、徹底したコスト削減、例えばコンビニバンキングへの誘導などによる店舗の大幅な統廃合をはじめ、マス取引に対する消極姿勢が色濃く打ち出されました。このような大きな業務姿勢転換の中で、メガバンクが唯一力を入れて取り組んでいる国内業務が、個人富裕層取引です。

個人富裕層取引は、シティバンクを始め、多くの外資系金融機関が日本に進出してきて展開しようとしましたが、ことごとく失敗して撤退を余儀なくされています。
そのための優秀な人材を確保し、しっかり研修させたのに、その有様です。
そこでどうやって成功させようと云うのか判りませんが、普通に考えたら屍の山を築くだけですよね。

先日、30年くらい前に朝日新聞の夕刊に連載されていた、漫画家サトウサンペイ氏のフジ三太郎を見かけましたが、銀行はなんだかんだと待遇がいい、あんな立派な座り心地のいい椅子に座って仕事できるなんて、というのが普通の庶民感覚だったと思い起されます。

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北海道拓殖銀行が破綻して、北海道の地域経済に深刻な影響を残した、いあ、北海道の深刻な地域経済が拓銀の破綻を招いた、というニワトリが先か、卵が先か的な議論があります。

半沢直樹のドラマでは、おそらく地域や国家のために働く銀行員なんて全く登場しないのでしょうが、中央官庁で真面目に働いている人の肩身に比べたら、まだ倍返しは蒙ってないのではないかと思います。

では、また明日。

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