人生の断捨離、終活という言葉が流行に 第3章の7

 物が溢れる日常生活の中で、断捨離という言葉がブームとなっている。2010年には流行語にもなったほど、生活環境での溢れんばかりの物を積極的に捨てていくという概念であった。しかし、断捨離とは元来、ヨガの行として心の中をすっきりさせる手法である。余分なものを外から心に入れず、内にあるものを吐き出し、執着心を捨てるというものである。仏教の禅の中での瞑想という手法もこれに近い。これは禅を組むことで、雑念を落とし、従来からの数多くのこころの悩みから抜け出すという試みである。「生きる」ことには必然的に苦が生じる。そうした苦なるものをあるがままに受け入れていくことから、自分の現実生活での苦境を少しでも楽にしていくものである。こうした手法は、精神科の診療手法にも役に立つのではと、アメリカでマインドフルネスという精神療法が生まれた。最近では日本でもこのマインドフルネスという言葉が流行しているが、禅思想が逆輸入されたとも言える。
 無駄な部分を削ぎ落とすという考え方は、20世紀以降の豊かな「物の」社会となって関心が高まった。その第1は何と言ってもダイエットであろう。元来ヒトはお腹がすくと単純に食を欲し、何かを口にする。こうした食欲から食行動が習慣化され、生きるための基本的エネレギー補給となるのだが、人には生活の中でさらに高度で複雑な欲求も伴う。食べる物や食べること、食べる場所への興味や摂取した時の快感など、「食」というものへの数多くの関心が高まる。近代に入り、環境に様々な食情報が溢れ、気軽に手に入るようになると、取得できたことのプレミアム感も加わり、必要以上に食することにもなる。
 必要以上に食する習慣性が起きると肥満につながる。アメリカで、ポテトチップスやハンバーガーを代表とするジャンクフードが流行になってから肥満という問題を抱える州が伝染するように広がった。スパイシーな味覚や食感などへの快感から食欲中枢が刺激され、過剰に手を出すようにもなる。これは依存にも近い傾向であり、食産業によって食欲中枢をうまく操作されて肥満が引き起こされたといえる。
 そこで次に起きたのがダイエットである。これについても特に女性をターゲットにして産業界が牽引している。マスコミを利用し、女性の憧れる美的欲求をくすぐり、ダイエット情報がばらまかれている。このダイエット概念から生まれた疾患が摂食障害である。過度に食事からのエネルギー摂取量を抑えることがきっかけになることが多い。抑え過ぎると、衝動性に食欲が亢進し、過食となる。こうした歪んだ食生活の状況から随伴していく身体症状や精神症状は数知れない。
 精神的な病理構造を含め、社会的現象の基本は振り子である。肥満という概念が問題視されるようなると、その反応現象が生じ、次にダイエット概念が問題視されるようになる。まさにこうした両価性の中での日常生活があるといえる。その中で健康を保持するには、食の溢れる環境でダイエットという節制を行うことでもあり、アメとムチを同時に提供された厳しい条件である。しかし、現代人はこうした環境下で生きることを余儀なくされている。
 食とは別に、生活用品に目を向けてみると、肥満とダイエットのどちらの概念も浮かぶ。生活の中で随時整理をしていかないと、溢れんばかりの生活用品が居住空間に蓄積されていく。

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