療育手帳について2-国の通知の整理等

 療育手帳について1でも触れたように、知的障害者対象の障害者手帳は、昭和48(1973)年9月27日付各都道府県知事・各指定都市市長宛に出された、厚生省(当時)事務次官通知「療育手帳制度について」(以下、事務次官通知と略)と児童家庭局長通知「療育手帳制度の実施について」(以下、児童家庭局長通知と略)をここでは根拠としている。
 事務次官通知おいては、「精神薄弱児(者)のより一層の福祉の充実を図るため、精神薄弱児(者)に対して手帳を交付することとし」たうえで「療育手帳制度要綱」を定め、「制度の適正かつ円滑な実施が図られるよう通知」を出したと述べている。さらに、療育手帳制度の具体的取扱いについて児童家庭局長通知で一定程度整理している。そのため、上記2つの通知はお互い関係性の強いのものであることから、ここでは療育手帳制度の事実上の根拠となるものと考え、以下、整理することにしたのである。
※現在では、法律・行政用語としては「知的障害」であるが、通知が出された当時の法律・行政用語であった「精神薄弱」その他を、そのまま用いていることを断わっておきたい。
(1)療育手帳の目的
 「療育手帳制度要綱」第1において、「この制度は、精神薄弱児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援護措置を受け易くするため、精神薄弱児(者)に手帳を交付し、もって精神薄弱児(者)の福祉の増進に資することを目的とする。」と書かれている。 
 一方、児童家庭局長通知では、事務次官通を前提としたうえで、児童家庭局長通知の内容に関して「十分配慮され、この制度の実効ある運用」を期待しつつ、「療育手帳のねらいの一つは、精神薄弱児及び精神薄弱者(以下「精神薄弱者」という。)に対して、一貫した指導・相談等が行われるようにすることにあるので、指導・相談等を行う機関に対し、療育手帳の趣旨を十分徹底するとともに、指導・相談等を行った場合は、療育に参考となる事項を手帳に記録する」ことを求めている
(2)交付対象者  
 「療育手帳制度要綱」第2は、交付対象者に関する記述であり、「児童相談所又は精神薄弱者更生相談所において精神薄弱と判定された者」となっている。そのため交付されるためには、児童相談所もしくは更生相談所において判定(=実際には知能検査等)を受ける必要がある、ということである。 
 ということは、例えば、精神科等医療機関において検査を受け、知的に遅れがあると診断されても、それだけでは、手帳交付対象とはならない、ということになるが、児童相談所もしくは更生相談所以外の「機関」の判定結果を、そのまま認めている自治体もある。
(3)実施主体  
 「療育手帳制度要綱」第3は実施主体に関してであるが、「都道府県知事(指定都市にあっては、市長)」が、療育手帳発行に関する実施主体であると規定している。(その後、中核市においても実施主体となることは可能となっている。)
(4)手帳の名称  
 「療育手帳制度要綱」第4の1では、手帳の名称は「療育手帳」とするとし、その他手帳に記載すべき項目が記載されている。  
 ただし、児童家庭局長通知第2の1「名称」には、「別名を併記することはさしつかえない」との記載が認められるため、実際には別の「名称」を使っている自治体は珍しくない。
(5)障害の程度・判定 
 「療育手帳制度要綱」第4の2の(2)には、「障害の程度(重度とその他の別)」と記載されているのみである。  
  この点については児童家庭局長通知「第3 障害の程度の判定」において、次のように詳細に述べている。

1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するもの児童家庭局長通知「第3 障害の程度の判定」において とし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。
(1) 重度
18歳未満の者  昭和39年3月13日児発197号児童局通知(重度精神薄弱児収容棟の設備及び運営の基準について)の1対象児の(1)又は(2)に該当する
障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの
18歳以上の者  昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度精神薄弱者収容棟の設備及び運営について」)の1の(1)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの
(注) 前記通知の解釈にあたっては、知能指数が50以下とされている肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者の身体障害の程度は、身体障害者福祉法に基づく障害等級が1級、2級又は3級に該当するものとする。

 ここで障害の程度に関する引用は終了となるが、各地方自治体において、実際の運用にかなりの違いが見られるのは間違いない。
 なお、ここに示されている「通知」は「資料」として末尾に掲載した。
(6)障害の程度の確認  
 「療育手帳制度要綱」第6では、「手帳の交付をうけた精神薄弱者の障害程度を確認するため、原則として2年ごとに児童相談所又は精神薄弱者更生相談所において判定を行うものとする。」となっている。
 一方、児童家庭局長通知では、「障害の程度については、交付後も確認する必要があるので、その必要な次の判定年月を指定するものとする。なお、次の障害の程度の確認の時期は、原則として2年後とするが、障害の状況からみて、2年を超える期間ののち確認を行ってさしつかえないと認められる場合は、その時期を指定してもさしつかえないものとする。」と示している。そのこともあって、各自治体において取扱いに違いが見られる。

 以上、療育手帳の根拠なっていると考えた国の2つの通知に関する簡単な整理となるが、自治体によっては通知とは違う「実態」にあると、再三にわたって触れているものの、その内容に関しては明らかにしてこなかった。
 そのため、各自治体での療育手帳の実際の運用はどうなっているのか整理していくことが次回の目的となる。

資料
○重度精神薄弱児収容棟の設備及び運営の基準について(昭和39年3月13日 児発197号)
1 対象児童
重度精神薄弱児収容棟に入所させる児童は次に定める児童であること。
ただし、整形外科的治療又は精神病の治療を施すことができるもの及び精神薄弱児施設の一般収容棟(重度精神薄弱児収容棟以外の収容設備をいう。以下同じ。)若しくは精神薄弱通園施設又は盲ろうあ児施設において保護指導することができるものを除くものとすること。
(1) 知能指数がおおむね35以下の児童であって、次のいずれかに該当するもの。
ア 食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助を必要とし、社会生活への適応が著しく困難であること。
イ 頻繁なてんかん様発作又は失禁、異食、興奮、寡動その他の問題行為を有し、監護を必要とするものであること。
(2) 盲(強度の弱視を含む。)若しくはろうあ(強度の難聴を含む。)又はし体不自由を有する児童であって知能指数がおおむね50以下の精神薄弱児

〇重度精神薄弱者収容棟(以下「重度棟」という。)については、昭和43年7月3日厚生省発児第107号「精神薄弱者更生施設における重度精神薄弱者の処遇について」をもって厚生事務次官から通知されたところであるが、とくに次の事項に留意し、施設の設置及び運営等につき万全を期されたい。
1 重度棟の対象者、入所措置及び認定
(1) 対象者
対象者は、精神薄弱者更生施設に入所することが適当な者のうち、標準化された知能検査によって測定された知能指数がおおむね35以下(肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者については50以下)と判定された精神薄弱者であって、次のいずれかに該当するもの(以下「重度者」という。)であること。
ア 日常生活における基本的な動作(食事、排泄、入浴、洗面、着脱衣等)が困難であって、個別的指導及び介助を必要とする者
イ 失禁、異食、興奮、多寡動その他の問題行為を有し、常時注意と指導を必要とする者

※更生施設など、いまでは使われない用語が出てくるが、更生施設の関しては、例えば成人の知的障害者の方の場合、障害者支援施設を利用(=入所)している方と考えてよい。





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