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[小説]水族館オリジン

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わたしは日本の海べりの小さな町にすんでいる図書館員。一緒に住んでいる彼氏は岬の水族館につとめている。ない音を拾う耳と見えないものを敏感に感じてしまう感覚が日々わたしをなやませるけ…
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#水族館

【小説】水族館オリジン 1

 釣った魚にえさはやらない、って言葉があるけれど、釣ったお魚を生かしておくのって、すごく大変らしいです。水質管理はもちろん、水流や光の当たりかた、温度、魚ごとに生態や生育環境が違うので、生まれた環境にして生かしてやることはとても難しい。崇くんがいうのだから本当です。  私は水族館のまちに住んでいます。湾に沿った海岸のはずれにポツンと立っています。何年か前の市町村合併の補助金で建てられた水族館に、崇くんは呼ばれて来ました。  小さいですが、山を二つ越えたところには県で二番目

【小説】水族館オリジン  2

chapter II: 月の夜  図書館の書庫室を整理しました。書庫室には書架にならばない古い本や寄贈資料が保管されています。寄贈された本や資料は整理して保存するものと廃棄するものを分けます。そして保存・貸出するものの目録を作ります。この作業のために、一時的に書庫室に積み上げられた本がたくさんあります。私はずっとそれが気になっていました。昨日ようやくそれに手をつけることができました。一度選別した本の最後の確認です。だいたいが古くて貸出し出来ないくらい傷んでいたり、状態はよく

【小説】水族館オリジン 5

chapter V: 君しかいない 崇くんは東の生まれです。がっしりした体躯にやわらかい声、きちんとした言葉をしゃべります。話をすると育ちがいいのがすぐバレてしまいます。そんな彼のトレードマークはポロシャツと作業ズボンと長靴です。一年中それ一択です。七五三の魚釣りみたいでかわいいやらおかしいやら、おもわず笑っちゃいます。子供っぽくみえるのは彼の育ちのせいなのを改めて確認する出来事がありました。 先日、崇くんの大学の親友がたくさんきてくれました。 友達が多いのはいいことです