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小説ICT支援員業務日誌②「いらすとや」

 正月休みが続き不思議と仕事がしたくなった。非常勤講師を3月で辞めると決めたからかもしれない。
 生徒に自己紹介するとき、
「チャンネル登録者990人のYouTuberだ。」
これが一番受けが良かった。そして、技術科でプログラミング指導をするときはscratch Programerだと伝えることにしていた。しかし、この表現に最近は自信がない。今だに技術科の非常勤講師を続ける71歳の元中学校教師が指導する生徒のプログラムの出来が私を上回るようになった。そればかりではなく、私の考えたサンプルプログラムより、私以外のYouTuberの作るサンプルプログラムに負けるようになった。だから、今年度限りで非常勤講師はやめて「ICT支援員」に専念する。それでも、まだ、ブログに作文を発表する「コラムニスト」であり「教育現場評論家」であり、自分の意見を発表するWEBサイト運営者である。
 作文は人並みに書く自信はあるけれども、音楽とイラストはまるで駄目なので著作権フリーの音楽やイラストを使っている。YouTubeで使うBGMは著作権を考えずに使ってもチェックしてくれるから、審査に引っかかった時だけ音楽を変更してアップし直している。イラストは著作権フリーの「いらすとや」を愛用している。
 scratchはプログラミング指導で使用するから教師が授業で使うアプリを制作して公開しても学校のフィルターリングソフトに引っかからない。私の作品は概ね好評なのだが、特に外国籍の生徒を指導するアプリの評判が良い。プログラムは当然公開しているからYouTube同様に視聴回数と共にコメントが送られてくる。
 ある日、コメントが届いた。
「イラストやさんは使っちゃあ、ダメですよ。」
表現は優しくて好感の持てたが心は穏やかでいられなかった。「イラストや」は著作権フリーのはずなのにダメだという根拠が分からないから調べた。確かにscratchでは使ってはいけないらしい。YouTubeなら1作品にイラスト20本までOKだとあった。
「それならば、YouTubeとscratchの違いは何か?」
これはscratchには再配布機能があるからダメだと分かった。明確に禁じているのを知らずに使っていたのは恥ずかしい。だから、早速、公開を非公開に変更した。生徒に指導する場合も「いらすとや」を使っている場合は公開させてはいけない。教室内での発表会やローカルなサーバー内での発表会になる。知らないことは恥ずかしい。70歳を過ぎて注意を受けることは情けない。
 冬休み最終日は寒かったが、昼過ぎに散歩に出た。目標は油ヶ淵。愛知県唯一の湖を半周すると5kmある。これは皇居と同じ広さでだが人影が滅多に見えず、目にするのは鴛鴦、川鵜、白鷺、青鷺、椋鳥などの野鳥ばかりだ。ただし、家を出て油ヶ淵を半周すると10km2時間かかるので、湖の手前でUターンする。行きも帰りも川沿いを歩く。橋を渡る親子がいる。母親の前にはベビーカーに乗った女の子の顔が見える。彼女と目が合った。じっと私を見ている。私の顔がほころぶ。すると彼女がベビーカーの中から左手を振った。私もすかさず手を振る。野鳥は私の気配で皆逃げるけれども、この子は違う。橋を北から南へ進んでくる。私は土手を東から西に向かう。次第に距離が縮まる。再び女の子が手を振ってくれる。私も当然笑顔で手を振って返す。それに気づいたお母さんが会釈をする。
「いい冬休みだった。」


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